ミシュラン1つ星「シンシア」石井真介が語る、これからの飲食店が目指すべき指針

前回の記事では、クラウドファンディングの効果や活用方法について語って頂きました。

※前編の記事はこちら 『クラウドファンディングで新店舗のPRが大成功!「シンシア」石井真介が語る、活用の極意とは?』

 

ミシュラン1つ星の予約困難店「シンシア」のオーナーシェフである石井真介氏は、レストランの枠を超えて、広く社会的な活動にも打ち込んでいます。

最近では、医療従事者に食事の差し入れを行う「Smile Food Project」の発起人となり、その活動が高く評価されました。

後編の記事では、石井氏がいま最も関心を寄せている飲食業界の諸問題について、語っていただきました。

 

飲食業界の地位を上げるためにも従業員の労働環境の改善は急務

 

──「シンシア」でも、コロナ禍のあとに客足の戻りが早かったのは、多くのリピーターのお客様が支えてくださったおかげと伺いました。また、石井シェフといえば、飲食業界の諸問題についても積極的な発言を続けながら、改善のための活動を行っていらっしゃいます。最近は、どのようなことに関心をお持ちですか?

石井 「シンシアブルー」で取り上げた水産資源のほかにも、フードロスやプラスチックごみの問題、食育などは、料理人であれば取り組むことができる活動ですので、声を上げていくべきだと思っています。これらのすべてに言及すると何時間あっても足りませんので(笑)、今回は飲食店の労働環境と、人材育成の課題についてお話させてください。

 

──ありがとうございます。具体的にどういうことでしょうか?

石井 和洋中のジャンルを問わず、ある程度のレベルの高級店として評価されると、そのお店のトップは食の最先端にいる職人として認知されるようになります。そういう人たちは単においしい料理を作るだけではなく、そこに携わる従業員の労働環境をきちんと整えてあげないといけないと思っています。もっと具体的なことをいえば、個人店のレベルでは福利厚生がきちんとしていないお店が多い。

 

──その理由はなんですか?

石井 僕らの世代が従業員だったときには、福利厚生がないのは普通のことだったので、その世代がオーナーシェフになったいまも、あまり改善されていないという状況があります。また、飲食店はごく短いスパンでの転職が激しいので、雇用側にとっては事務的な手続きが面倒だという本音もあるでしょう。ただ、僕はそこをちゃんとやることが飲食業界の地位を上げることにつながると思うし、僕たちの世代がきちんと取り組んでいけば、次の世代も間違いなく先輩の背中を見習うはずです。

 

──現在「シンシア」では福利厚生完備と聞いています。

石井 はい。実際に取り組んでみると、社員一人一人の管理をして、休みを増やしてあげたりとか、はっきり言って雇用側としてはあまりメリットを感じません(笑)。よほどの人気店で連日満席の状態が続いていて、コンスタントに売上が確保できていないと、金銭面でも難しいですね。

 

──飲食店の利益率の低さも、福利厚生が手薄な原因になっていると。

石井 そう思います。また、労働環境の変化について触れると、働き方改革によって長時間労働の是正が求められるようになった結果、別の問題が生じてきています。僕たちはお客さんの昼ごはんと夜ごはんを作る仕事なのに、1日の労働時間が8時間しかなかったら、どちらかしか作ることができません。「シンシア」では土曜日しかランチ営業を行っていませんが、昼・夜ともに営業しなければ採算が合わないお店が大多数なわけです。そうなったときに一方をやめるわけにもいかず、両方やることを考えたら、シフト制を導入するしかありません。でも、シフト制にして多くの従業員を雇えるような余裕はないんです。

 

さまざまな「食」をめぐる問題は飲食業以外との協力が解決のカギ

 

──そもそも、飲食店の就職希望者が減っていて、雇用自体が難しい状況です。

石井 そうなんです。それに加えて、1日8時間程度の労働で、これからの世代を担う優れた料理人が育つのか?という疑問もあります。職人を目指すからには、かなりの時間を仕事に費やさなければ、熟練した技術の習得は難しい。これは「菊乃井」の村田吉弘さんがおっしゃっていたことですが、「これがもしスポーツだったら、1日8時間の練習でオリンピック選手が育つのか?」と。結局、世界レベルで戦える一流の料理人を目指すなら、その程度の労働時間では無理。僕らには、次世代で活躍する料理人を育てないといけない役目があるのに、そうすることが時代の流れに逆行してしまっている。

 

──飲食店とそれをとりまく構造自体に、いろいろと無理があるということですね。

石井 いまの流れでいくと、飲食店はどんどん苦しくなるだけです。長時間労働はダメ、福利厚生をちゃんとしよう、そして給料は上げましょう。さらに、お店の数はどんどん増えているのに、それに反比例して飲食店の就職希望者は減っている。そのうえ、コロナ禍で集客に影響が出ている現状があり、ここ数年は食材の値段がどんどん上がってきている……。いい方向性なんて、ほとんどないかもしれません。

 

──本当に大変な状況ですが、石井さんとしては今後、これらの諸問題についてどのようなアクションを起こす予定でしょうか?

石井 現在進行形の話ですが、今回「シンシアブルー」では、人材育成の面でチャレンジをしています。シェフは26歳、マネージャーは25歳。ほかのスタッフも大半が20代です。通常、新店のオープンであれば中堅どころの人員を配置するところですが、あえて若い子たちに責任のあるポジションを任せることによって、成長を促すことが狙いです。まだオープンから3ヶ月程度ですが、この短いスパンでもリピートされるお客さんが増えてきているので、スタッフの奮闘が結果として徐々に現れてきています。

 

──それは素晴らしい成果ですね。実際に「メニューが変わったらまた絶対に行く!」という反応が、私たちの周りでも大多数でした。

石井 ありがとうございます、励みになります。また、これからは、僕らが飲食業界の中だけで声を上げていても仕方がありません。さまざまな問題を解決するためには、飲食業以外の人たちとの協力関係が重要になると考えています。ついこの前も、ファッション関係の方がサステナブルに関心を持っていることを知り、一緒に連携して講習会を行いました。食をめぐる現状は問題が山積みですが、一歩ずつ進みながら、いろいろなことに取り組んでいきたいと思います。

 

──最後に、「シンシア」での今後の取り組みや目標についてお聞かせください。

石井 話が戻りますが、「シンシアブルー」を皮切りに、サステナブルシーフードを扱うお店がもっと増えたらいいなと思っています。食品の仕入れ業者さんと話していても、冷凍のホタテやエビだったりという水産物を買い求めるときに、大手の外食チェーンやホテルといった大口の顧客は、安さでしか品物を選ばないという現状があります。そこの意識が変わって、漁業認証を取得したものを扱ってみようというふうになれば、サステナブルシーフードの需要が高まって、もっと多くの種類を輸入できるようになる。実際に、JR東京駅の改札内にある「回転寿司 羽田市場」では、MSC漁業認証を取得したマグロを使ったお寿司やお刺身を出していると聞き、うれしく思っています。サステナブルシーフードの需要を増やしていくことは、僕が「シンシアブルー」をオープンした目的のひとつ。この流れを飲食業全体に広めていくことが、今後の目標です。

 

聞き手=坂口高貴、松隈 剛(リディッシュ株式会社)

文=小笠原 格

 

 

PROFILE

石井真介(いしい・しんすけ)

四ッ谷「オテル・ドゥ・ミクニ」や南青山「ラ・ブランシュ」を経て渡仏し、数々の星付きレストランで修業を積む。2008年より渋谷「restaurant bacar(レストラン バカール)」のシェフを7年間務めたのち、2016年に北参道「Sincère(シンシア)」のオーナーシェフとして独立。2017年より、海の未来を考える料理人集団「Chefs for the Blue」のリードシェフを務める。2019年、ミシュランガイド東京で1つ星を獲得。最近では、医療従事者に食事の差し入れを行う「Smile Food Project」の発起人となり、その活動が話題を呼んだ。

 

店舗情報

『Sincere BLUE(シンシアブルー)』

住所:東京都渋谷区神宮前1-23-26 JINGUMAE COMICHI 2F

営業時間:17:30~20:00(最終入店18:00)
※緊急事態宣言による都からの営業短縮要請の為、営業時間短縮
※詳細についてはお店に要確認

定休日:月曜日

電話番号:03-6434-0703

食べログ:https://tabelog.com/tokyo/A1306/A130601/13250541/

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