特集|飲食店の税務調査

税務調査は、選んで、深く調べる時代へ。

調査に来る件数は、この 20 年で減りました。それでも、調査で追加に納めることになった税金は過去最高です。飲食店の経営者が知っておきたい税務調査のいまを、国税庁の公表資料と法令・判例をもとに、7 つの章と 11 本の記事にまとめました。

法人の実調率(実地調査の割合) 3.9% → 1.7% 平成 15 事務年度 → 令和 5 事務年度。国税庁の定員はほぼ横ばい
所得税の追徴税額(令和 6 事務年度) 1,431億円 今の集計方法になった平成 21 事務年度以降で最も多い額
不正が見つかった割合の上位 5 業種のうち、飲食業は 4業種 法人税の実地調査を受けた法人のうちの割合で、飲食店全体の割合ではありません

出典: 国税庁「税務行政の現状と課題」(令和 6 年 12 月)、「令和 6 事務年度 所得税及び消費税調査等の状況」「令和 6 事務年度 法人税等の調査事績の概要」(令和 7 年 12 月)

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知りたいところから読めます

調査が来る前に知っておくこと、連絡が来たときにすること、終わったあとに効いてくること。順番に読むと、税務調査の全体が分かります。

  1. 1 章税務調査は増えた? 減った?全体像
  2. 2 章誰が、いつ来るのか来る前に
  3. 3 章どう選ばれるのか来る前に
  4. 4 章連絡が来たら連絡が来たら
  5. 5 章何をすると重くなるのか調査のあと
  6. 6 章誰が責任を負うのか調査のあと
  7. 7 章いまから備える備え
1全体像

件数は減ったのに、追徴税額は過去最高

国税庁の定員は、この 20 年ほとんど変わっていません。その間に法人の数も確定申告の件数も増え、職員が実際に出向いて調べる割合(実調率)は、法人で 3.9% から 1.7% へと半分以下になりました。

それでも、令和 6 事務年度の所得税の追徴税額は 1,431 億円で、今の集計方法になってから最も多い額でした。国税庁は、調べる相手の選定に AI を活用するなどした結果だと説明しています。数を追う調査から、選んで深く調べる調査へ。これが「今と昔」の大きな違いです。

法人税の実地調査で不正が見つかった割合が高い業種は、上位 5 つのうち 4 つが飲食業です。

調査を受けた法人のうちの割合で、飲食店全体の割合ではありません。

第 1 回 税務調査は「減った」のに追徴税額は過去最高――飲食店が知っておきたい税務調査の今と昔 準備中
2来る前に

誰が、いつ来るのか

国税庁の 1 年は 7 月に始まり、翌年 6 月末に終わります。これを事務年度と呼び、調査の件数もこの区切りで集計されます。国会でも、国税庁の定期異動は 7 月だと説明されてきました(1964〜1984 年の答弁)。

7月8月9月10月11月12月1月2月3月4月5月6月
7 月: 新しい 1 年が始まる(定期異動も例年 7 月とされてきた)6 月末: その年の調査の件数を締める

「秋に調査が多い」とよく言われますが、国税庁は月別の調査件数を公表しておらず、公的な数字の裏付けはありません。調査に来るのは、税務署の法人課税部門・個人課税部門の調査官です。担当する職員の氏名と所属は事前通知のときに伝えられ、日程はお店の営業の事情も伝えて相談できます。

第 6 回 調査官の1年――7月に始まる「事務年度」と、税務署の中の人たち 準備中
3来る前に

どう選ばれるのか

昔は、調査官が紙の申告書を読み、経験と勘で調べる相手を選んでいたといわれます。今は国税庁の AI(予測モデル)が申告漏れのリスクを点数にし、最後は職員が判断します。2026 年 9 月の国税システムの更改で、紙で管理していた情報もデータで管理されるようになるとされ、国税庁は予測モデルの精度を高めていくとしています。

数字の理由は、書いておかなければ伝わりません。法人が申告書に添付する「法人事業概況説明書」には、テーブル数や営業時間、月別の売上に加えて、「事業内容の特異性」「当期の営業成績の概要」のように、数字の背景にある事情を自分の言葉で書ける欄があります(この書類が調べる相手の選び方にどう使われるかは、公表されていません)。

同業と比べて突出した数字には、決算書などに理由を書いておく。これがいちばん手軽な対策です。

第 2 回 税務調査の相手はどう選ばれる?調査官の「勘」からAIの「スコア」へ 準備中
第 7 回 法人事業概況説明書は「事情を伝える書類」――飲食店が押さえたい欄と書き方 準備中
4連絡が来たら

税務署から連絡が来たら

税務調査の手続きは、2013 年から法律で明確に定められました。事前の通知、調査の終わり方、書類の預かりなど、昔は慣行だったことが今はルールです。

税務署からの連絡は、大きく 3 種類です。訪問をともなわない「簡易な接触」(文書・電話・来署依頼。多くは行政指導ですが、調査として行われることもあります)、事前通知のある調査、そして無予告の調査です。いちばん多いのは簡易な接触です。

連絡が来たら、まず「調査か、行政指導か」を確かめ、税理士に相談してから日程を決めましょう。

第 3 回 税務署からの電話、それは「調査」?――事前通知・無予告・簡易な接触、手続きの今と昔 準備中
あわせて読む 税務調査の事前通知が来た週にやること|飲食店が当日までに整えるべき帳簿と税理士連携の初動ステップ 記事を読む →
5調査のあと

何をすると、重くなるのか

申告が少なかったときにかかる加算税は、「いつ誤りを直したか」で変わります。税務署から事前通知が来る前に自分で直せば、過少申告加算税はかかりません。

誤りを直した時期加算税
事前通知の前に、自分から修正申告かからない
事前通知の後、調査が始まる前に修正申告5%(一定額を超える部分は 10%)
調査が始まった後の修正申告、または税務署による更正10%(一定額を超える部分は 15%)
調査が始まった後で、事実を隠したり偽ったりしていたと分かった場合重加算税 35%(無申告なら 40%)

1〜3 行目は過少申告加算税、4 行目は重加算税。出典: 国税通則法 65 条・68 条、国税庁の加算税のパンフレット

2024 年からは、税務調査で売上の帳簿を出せない、または帳簿の売上が大きく足りないと、加算税が最大 10% 上乗せされます。いちばん重い重加算税の分かれ目は、金額の大きさではなく、事実を隠したり偽ったりする行為があったかどうかです。売上の計上を翌期にずらしただけの「期ずれ」は、原則として当たりません。

国税庁の統計年報(令和 6 年度版)では、2024 年 7 月〜2025 年 6 月に処理した分として、法人税の重加算税は 26,216 件、金額は約 182 億円でした(件数は処理の件数で、法人の数ではありません)。

第 4 回 「帳簿がない」が高くつく時代――加算税・電子帳簿保存・インボイスで変わったルール 準備中
第 8 回 重加算税とは――「仮装・隠蔽」と言われる行為、言われない誤り 準備中
6調査のあと

誰が責任を負うのか

申告は、税理士に任せていても経営者本人のものです。最高裁は、税理士の不正でも、経営者が知っていたか、容易に気づけて止められたのに止めなかったなら、重加算税の対象になるとしています。一方で、税理士は調査で代理人として説明でき、事前通知を税理士に受けてもらうこともできます。

従業員がレジのお金を持ち去った場合も、税金の問題になります。法人では、持ち去られた年に「損失」と「取り返す権利」を同時に計上するのが原則です。会社にも重加算税がかかるかは、その人の地位と権限、会社の管理の状況で分かれます。

任せることと、見えるようにすることは両立します。

第 9 回 顧問税理士がいれば安心?――税理士の責任と、経営者の責任 準備中
第 10 回 従業員がレジのお金を持ち去ったら――税金の扱いと、防ぐための仕組み 準備中
7備え

いまから備える ― 説明できる経理をつくる

AI を使って調べる相手が絞り込まれる時代の備えは、数字をきれいに見せることではありません。数字の理由を説明できる状態をつくることです。

口座・レジ・会計ソフト・書類の保存のルールは、開業前に決めておくのがいちばん楽で効果的です。決算では、数字が動いた理由を書き残しておきましょう。お店の中では、一人で完結できる操作を減らし、売上の記録が毎日照合される仕組みが、不正を防ぎ、起きても早く気づける備えになります。

第 5 回 AI時代の税務調査に強い飲食店のつくり方――開業準備から始める「説明できる経理」 準備中
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よくある質問

税務調査について、よく聞かれること

税務調査は、どれくらいの割合で来ますか?

職員が実際に出向いて調べる実地調査の割合(実調率)は、令和 5 事務年度で法人が 1.7%、個人が 0.7% です。ただし、訪問をともなわない文書や電話での連絡(簡易な接触)は、これとは別に行われています。

秋は調査が多いというのは本当ですか?

国税庁は月別の調査件数を公表しておらず、公的な数字の裏付けはありません。分かっているのは、国税庁の 1 年(事務年度)が 7 月に始まり、翌年 6 月末に終わることです。

税務署から電話が来たら、どうすればいいですか?

まず、それが調査なのか、行政指導なのかを確かめましょう(文書や電話などの「簡易な接触」の多くは行政指導ですが、調査として行われることもあります)。そのうえで税理士に相談してから日程を決めます。日程はお店の営業の事情も伝えて相談できます。

申告の誤りに気づいたら、どうすればいいですか?

帳簿を書き換えずに、まず税理士に相談し、早めに修正申告をすることです。税務署から事前通知が来る前に自分から修正申告をすれば、過少申告加算税はかかりません(延滞税は日数に応じて増えるので、早いほど負担は小さくなります)。調査が始まる前に直せば、原則として重加算税の対象にもなりません。慌てて帳簿を書き換えると、事実を隠したり偽ったりしたと見られるおそれがあります。

顧問税理士がいれば安心ですか?

税理士は調査で代理人として説明でき、心強い存在です。ただ、申告は税理士に任せていても経営者本人のものです。税理士の不正でも、経営者が容易に気づけて止められたのに止めなかったなら、責任が及ぶとした最高裁の判決があります。

この特集の作り方

根拠を確かめて書いています

  • 一次資料から書く

    国税庁の公表資料、法令、裁判所の判決、国税不服審判所の裁決を主な根拠にしています。専門家の解説を使うときは出典を示し、確かめられない話は経験談などと分かるように書いています。各記事の末尾に参考資料を載せています。

  • 別の担当が確かめる

    書き手とは別の担当が、数字・日付・条文を一次資料と照らし合わせて確認しています。

  • 税理士が監修する 確認待ち

    中村謙一(税理士・クロスポイント税理士法人 代表社員)が内容を確認します。

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