特集|飲食店の税務調査
税務調査は、選んで、深く調べる時代へ。
調査に来る件数は、この 20 年で減りました。それでも、調査で追加に納めることになった税金は過去最高です。飲食店の経営者が知っておきたい税務調査のいまを、国税庁の公表資料と法令・判例をもとに、7 つの章と 11 本の記事にまとめました。
出典: 国税庁「税務行政の現状と課題」(令和 6 年 12 月)、「令和 6 事務年度 所得税及び消費税調査等の状況」「令和 6 事務年度 法人税等の調査事績の概要」(令和 7 年 12 月)
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知りたいところから読めます
調査が来る前に知っておくこと、連絡が来たときにすること、終わったあとに効いてくること。順番に読むと、税務調査の全体が分かります。
件数は減ったのに、追徴税額は過去最高
国税庁の定員は、この 20 年ほとんど変わっていません。その間に法人の数も確定申告の件数も増え、職員が実際に出向いて調べる割合(実調率)は、法人で 3.9% から 1.7% へと半分以下になりました。
それでも、令和 6 事務年度の所得税の追徴税額は 1,431 億円で、今の集計方法になってから最も多い額でした。国税庁は、調べる相手の選定に AI を活用するなどした結果だと説明しています。数を追う調査から、選んで深く調べる調査へ。これが「今と昔」の大きな違いです。
法人税の実地調査で不正が見つかった割合が高い業種は、上位 5 つのうち 4 つが飲食業です。
調査を受けた法人のうちの割合で、飲食店全体の割合ではありません。
誰が、いつ来るのか
国税庁の 1 年は 7 月に始まり、翌年 6 月末に終わります。これを事務年度と呼び、調査の件数もこの区切りで集計されます。国会でも、国税庁の定期異動は 7 月だと説明されてきました(1964〜1984 年の答弁)。
「秋に調査が多い」とよく言われますが、国税庁は月別の調査件数を公表しておらず、公的な数字の裏付けはありません。調査に来るのは、税務署の法人課税部門・個人課税部門の調査官です。担当する職員の氏名と所属は事前通知のときに伝えられ、日程はお店の営業の事情も伝えて相談できます。
どう選ばれるのか
昔は、調査官が紙の申告書を読み、経験と勘で調べる相手を選んでいたといわれます。今は国税庁の AI(予測モデル)が申告漏れのリスクを点数にし、最後は職員が判断します。2026 年 9 月の国税システムの更改で、紙で管理していた情報もデータで管理されるようになるとされ、国税庁は予測モデルの精度を高めていくとしています。
数字の理由は、書いておかなければ伝わりません。法人が申告書に添付する「法人事業概況説明書」には、テーブル数や営業時間、月別の売上に加えて、「事業内容の特異性」「当期の営業成績の概要」のように、数字の背景にある事情を自分の言葉で書ける欄があります(この書類が調べる相手の選び方にどう使われるかは、公表されていません)。
同業と比べて突出した数字には、決算書などに理由を書いておく。これがいちばん手軽な対策です。
税務署から連絡が来たら
税務調査の手続きは、2013 年から法律で明確に定められました。事前の通知、調査の終わり方、書類の預かりなど、昔は慣行だったことが今はルールです。
税務署からの連絡は、大きく 3 種類です。訪問をともなわない「簡易な接触」(文書・電話・来署依頼。多くは行政指導ですが、調査として行われることもあります)、事前通知のある調査、そして無予告の調査です。いちばん多いのは簡易な接触です。
連絡が来たら、まず「調査か、行政指導か」を確かめ、税理士に相談してから日程を決めましょう。
何をすると、重くなるのか
申告が少なかったときにかかる加算税は、「いつ誤りを直したか」で変わります。税務署から事前通知が来る前に自分で直せば、過少申告加算税はかかりません。
| 誤りを直した時期 | 加算税 |
|---|---|
| 事前通知の前に、自分から修正申告 | かからない |
| 事前通知の後、調査が始まる前に修正申告 | 5%(一定額を超える部分は 10%) |
| 調査が始まった後の修正申告、または税務署による更正 | 10%(一定額を超える部分は 15%) |
| 調査が始まった後で、事実を隠したり偽ったりしていたと分かった場合 | 重加算税 35%(無申告なら 40%) |
1〜3 行目は過少申告加算税、4 行目は重加算税。出典: 国税通則法 65 条・68 条、国税庁の加算税のパンフレット
2024 年からは、税務調査で売上の帳簿を出せない、または帳簿の売上が大きく足りないと、加算税が最大 10% 上乗せされます。いちばん重い重加算税の分かれ目は、金額の大きさではなく、事実を隠したり偽ったりする行為があったかどうかです。売上の計上を翌期にずらしただけの「期ずれ」は、原則として当たりません。
国税庁の統計年報(令和 6 年度版)では、2024 年 7 月〜2025 年 6 月に処理した分として、法人税の重加算税は 26,216 件、金額は約 182 億円でした(件数は処理の件数で、法人の数ではありません)。
誰が責任を負うのか
申告は、税理士に任せていても経営者本人のものです。最高裁は、税理士の不正でも、経営者が知っていたか、容易に気づけて止められたのに止めなかったなら、重加算税の対象になるとしています。一方で、税理士は調査で代理人として説明でき、事前通知を税理士に受けてもらうこともできます。
従業員がレジのお金を持ち去った場合も、税金の問題になります。法人では、持ち去られた年に「損失」と「取り返す権利」を同時に計上するのが原則です。会社にも重加算税がかかるかは、その人の地位と権限、会社の管理の状況で分かれます。
任せることと、見えるようにすることは両立します。
いまから備える ― 説明できる経理をつくる
AI を使って調べる相手が絞り込まれる時代の備えは、数字をきれいに見せることではありません。数字の理由を説明できる状態をつくることです。
口座・レジ・会計ソフト・書類の保存のルールは、開業前に決めておくのがいちばん楽で効果的です。決算では、数字が動いた理由を書き残しておきましょう。お店の中では、一人で完結できる操作を減らし、売上の記録が毎日照合される仕組みが、不正を防ぎ、起きても早く気づける備えになります。
よくある質問
税務調査について、よく聞かれること
税務調査は、どれくらいの割合で来ますか?
職員が実際に出向いて調べる実地調査の割合(実調率)は、令和 5 事務年度で法人が 1.7%、個人が 0.7% です。ただし、訪問をともなわない文書や電話での連絡(簡易な接触)は、これとは別に行われています。
秋は調査が多いというのは本当ですか?
国税庁は月別の調査件数を公表しておらず、公的な数字の裏付けはありません。分かっているのは、国税庁の 1 年(事務年度)が 7 月に始まり、翌年 6 月末に終わることです。
税務署から電話が来たら、どうすればいいですか?
まず、それが調査なのか、行政指導なのかを確かめましょう(文書や電話などの「簡易な接触」の多くは行政指導ですが、調査として行われることもあります)。そのうえで税理士に相談してから日程を決めます。日程はお店の営業の事情も伝えて相談できます。
申告の誤りに気づいたら、どうすればいいですか?
帳簿を書き換えずに、まず税理士に相談し、早めに修正申告をすることです。税務署から事前通知が来る前に自分から修正申告をすれば、過少申告加算税はかかりません(延滞税は日数に応じて増えるので、早いほど負担は小さくなります)。調査が始まる前に直せば、原則として重加算税の対象にもなりません。慌てて帳簿を書き換えると、事実を隠したり偽ったりしたと見られるおそれがあります。
顧問税理士がいれば安心ですか?
税理士は調査で代理人として説明でき、心強い存在です。ただ、申告は税理士に任せていても経営者本人のものです。税理士の不正でも、経営者が容易に気づけて止められたのに止めなかったなら、責任が及ぶとした最高裁の判決があります。
この特集の作り方
根拠を確かめて書いています
- 一次資料から書く
国税庁の公表資料、法令、裁判所の判決、国税不服審判所の裁決を主な根拠にしています。専門家の解説を使うときは出典を示し、確かめられない話は経験談などと分かるように書いています。各記事の末尾に参考資料を載せています。
- 別の担当が確かめる
書き手とは別の担当が、数字・日付・条文を一次資料と照らし合わせて確認しています。
- 税理士が監修する 確認待ち
中村謙一(税理士・クロスポイント税理士法人 代表社員)が内容を確認します。