Column
コラム
開業準備の途中で、数字に立ち止まった話
こんにちは。 REDISHで開業サポートを担当しているYです。
今日は、実際に私たちが伴走した事例をもとに、 開業を検討されていたご依頼主様が、 どんな不安を抱えながら準備を進めていたのかを、少しだけお話ししたいと思います。
「この売上、現実的でしょうか」
そう聞かれたとき、私はすぐに答えを返しませんでした。
月商167万円。 条件だけを見れば、和食・海鮮という業態では、決して珍しい数字ではありません。
ただ、その数字が この方の一日の動きや、体力の使い方、 そして店を閉めた後の生活と、どう結びつくのか。 そこは、まだ言葉になっていませんでした。
事業計画書の上では、
● ランチは○人
● ディナーは○人
● 営業日は月○日
と、すべてが整然と並びます。
けれど実際には、「雨の日」や「体調が重い日」、 「仕込みが長引いた日」も、同じ一日として並びます。 その前提を、数字の横にそっと置くところから、私たちの作業は始まりました。
ご依頼主様は、長く和食の現場に立ってこられた方でした。 市場での仕入れや、料理長としての原価管理 Ye経験されています。
だからこそ、 「数字は作れるけれど、実際に続くかどうかは別だ」 という感覚を、最初から持っていらっしゃいました。
たとえばランチの客数。 計画上は無理のない人数でも、 「仕込みと営業を一人で回す日が続いたら、どうなるか」 そんな視点が、自然と会話に出てきます。
ディナーについても同じです。 夜は単価が取れる一方で、 「体力的に、どこまでを“毎日”にできるか」 という問いが、数字の裏側にありました。
このコラムでは、
数字をどう積み上げたか、という結果だけでなく、
その数字をどう受け止め、どう迷いながら決めていったかも含めて整理しています。
売上や融資額など、もう少し具体的な数値については、
こちらのコラムで詳しくご紹介しています。
【創業融資527万円】10年以上の経験を武器に! 「旬の和食・海鮮料理店」https://redish.jp/columns/example_010/
融資527万円という数字の“役割”を考える時間
借りられるかより、借りたあとをどう迎えるか
日本政策金融公庫の創業融資として提示された527万円。
審査基準として見れば、特別に大きすぎる金額ではありません。
和食・海鮮という業態で、これまでの経験や計画内容を踏まえれば、
十分に現実的なラインとも言えました。
ただ、ご依頼主様にとって大きかったのは、
「借りられるかどうか」ではありませんでした。
それよりも、
「借りたあと、どんな気持ちで毎月を迎えることになるのか」
そこに、強い関心が向いていました。
返済額を月々に割り戻しながら、
売上が計画より少し下振れした月を想定します。
「この数字なら、気持ちはどう動かか」
「仕込みや人手を削る判断を、無理にしなくて済むか」
「冬場に客足が落ちたとき、どこで一息つけるか」
そうした前提を一つずつ並べていくと、
527万円という融資額は、
単に“店をつくるためのお金”ではなくなっていきました。
それは、
売上が安定するまでの時間を買うための余白であり、
判断を誤らずに済むための猶予でもありました。
無理をしない選択ができるか。
続けるための判断を、冷静に下せるか。
数字をそうした視点で見直したとき、融資額は“夢を叶えるための資金”というよりも、
事業が不安定な時期を越えるための「時間」そのもの
のように見えてきました。
数字の意味が、静かに変わった瞬間でした。
経験は、強みでもあり、迷いの入口にもなる
評価される実績と、本人だけが知っている怖さ
10年以上の調理経験。 市場での仕入れ、料理長としての原価管理。
これらは創業融資の審査において、 評価されやすい要素です。 実際、事業計画の前提としても、 「経験があること」は大きな説得力を持っていました。
けれど、ご本人の言葉を丁寧に聞いていくと、 そこには別の感覚も、確かに存在していました。
「経験があるからこそ、怖い」
そんな言葉が、何度かこぼれます。
無理をしたとき、 どのあたりで身体が崩れ始めるのか。 人を増やすタイミングを誤ったとき、 元の体制に戻せなくなることがある、という現実。
それらを、現場で実際に見てきたからこそ、 簡単に「大丈夫」とは言えませんでした。
その経験を、 「強みだから問題ない」と一言でまとめてしまうことは、 私たちにはできませんでした。
むしろ必要だったのは、 「この経験があるからこそ、どの数字なら無理をしないで続けられるのか」 を、一緒に確かめていく時間でした。
過去の成功や実績を、 そのまま未来に当てはめるのではなく、 これから始まる毎日に、どう馴染ませていくか。
経験は、背中を押す材料であると同時に、 立ち止まって考えるための入口にもなっていました。
黒字化の目安が、安心になるとは限らない
計画上では、開業から10ヶ月目以降に利益が残る想定でした。
月次で見れば、税引後で約39万円。
固定費や返済額を織り込んだうえで考えれば、
この数字自体は、決して非現実的なものではありません。
融資の審査や事業計画として見ても、
「黒字化の時期」としては、十分に説明がつくラインでした。
ただ、その金額を前にして、
ご依頼主様は少し黙りました。
「この利益が出ているとき、
自分はどんな顔をしているんでしょうね」
その一言が、とても印象に残っています。
黒字か赤字か。
計画が達成できているかどうか。
そうした線引きよりも、その状態が続いたときの自分を、具体的に想像できるかどうか。
そこに、視点は向いていました。
利益が出ていても、疲れ切っている毎日なのか。
判断を急がされ続けている状態なのか。
あるいは、
多少の波があっても、落ち着いて次の一手を考えられているのか。
黒字化の目安は、あくまで一つの通過点にすぎません。
それが「安心」になるかどうかは、数字そのものよりも、
その数字の中で、どんな毎日を過ごしているかに左右されます。
そのことに向き合う時間は、計画書のページ数を増やすこと以上に、大切なプロセスでした。
数字を整えるほど、選択肢が増えていく
選択肢が見え始めたタイミング
事業計画を詰めていくと、 不思議と一つの答えに収束していくのではなく、 いくつかの選択肢が並ぶようになっていきます。
「もっと大きくできるかもしれない」 「もう少し抑える手もあるかもしれない」
そんな比較が、自然と会話の中に出てきました。
それは迷いでもありますが、 同時に、自分で選べる状態に近づいているサインでもあるように感じました。
たとえば、席数。 満席を前提にした配置にするのか、 余白を残して、回転や仕込み量を抑えるのか。
人を入れるタイミングも同じです。 最初から手厚くするのか、 売上の立ち上がりを見ながら判断するのか。
仕込み量についても、 「売り切る前提」か 「無理なく回せる量で終える前提」かで、 一日の終わり方は大きく変わります。
数字を一つずつ並べ直していく中で、 こうした判断が、感覚ではなく数字の幅として見えるようになっていきました。
正解は、どこにも書いてありません。 融資額や黒字化の時期が示してくれるのは、 あくまで「選べる範囲」だけです。
だからこそ、 数字を根拠にしながらも、 最後はいつも同じ問いに戻っていきました。
「どんな一日を、どんな気持ちで続けたいか」
数字を整えることは、 事業を大きくするためだけの作業ではありません。
無理をしない選択も、 立ち止まる判断も、 自分で選べるようになるための準備なのだと、 この過程を通して感じています。
並走する、という立ち位置から見えたこと
成功の型より、迷いの前提を揃える
私たちがしていたのは、
「成功事例をそのまま当てはめること」ではありませんでした。
むしろ、
● 不安が消えないままでも、数字を直視すること
● 分からない点を、曖昧なまま進めないこと
● 誰かに向けた言葉ではなく、自分の言葉で説明できる計画にすること
そうした、少し遠回りにも見える作業を、一緒に確認し続けることだったように思います。
事業計画書の数字は、
最初から完成形だったわけではありません。
売上の前提も、融資額の考え方も、一度決めては立ち止まり、
「本当にこの条件で、自分は続けられるか」と何度も行き来しながら形になっていきました。
結果として、融資は通り、売上も少しずつ計画に近づいていきました。
ただ、それは「うまくいったから意味があった」のではなく、
その前にあった迷いの時間が、計画の土台としてきちんと残っていたからだと感じています。
数字が崩れそうになったとき、判断に迷ったとき、立ち戻れる前提が、すでに共有されていた。
並走する、というのは、答えを先に示すことではなく、
迷いが生まれる場所を一緒に確認し続けることなのかもしれません。
その積み重ねの先に、事業計画書が出来上がっていったように思います。
まとめ|数字の前で立ち止まるのは、自然なこと
もし今、
事業計画書の数字を前にして、手が止まっているなら。
それは、覚悟が足りないからでも、準備が足りていないからでもないのかもしれません。
その数字と一緒に過ごす日常を、ちゃんと想像しようとしている証拠のようにも見えます。
売上や融資額、黒字化のタイミング。
どれも大切な指標ではありますが、数字だけで決めきれない感覚が残ることも、珍しくありません。
答えを急がなくてもいい。
一人で抱え込まなくてもいい。
誰かと並んで、同じ数字を眺めながら、
「ここが引っかかっている」
「この前提が、まだしっくりこない」
そんな話をする時間があってもいいと思います。
このコラムが、
立ち止まること自体を否定しなくていい
そんな感覚を持ち帰るきっかけになれば幸いです。
もし、
● 数字の見直し方に迷っている
● 計画はあるけれど、まだ腹落ちしていない
● 誰かと一度、整理しながら話してみたい
そんなタイミングでしたら、
REDISHでは、事業計画を「作る前」や「固めきる前」の段階から、
一緒に考える時間もご用意しています。
具体的な相談でなくても構いません。
今どこで立ち止まっているのかを、言葉にするところからでも大丈夫です。
ご縁があれば、 同じ数字を並べて眺めるところから、
またご一緒できればと思います。









