Column
コラム
こんにちは。
REDISHで飲食店の開業サポートを担当している弓逹です。
日々、多くの開業相談をお受けする中で感じるのは、「想い」や「ビジョン」は明確でも、数字の設計が曖昧なまま準備を進めてしまうケースが少なくないということです。
もちろん、
- どんなお店にしたいのか
- 誰にどんな体験を届けたいのか
といったコンセプトはとても重要です。
しかし、どれだけ素晴らしいお店でも、資金が回らなければ継続することはできません。
開業とは、「夢を形にする挑戦」であると同時に、毎月の支払いと向き合う現実的な経営判断の連続でもあります。
そこで今回は、
開業前に必ず押さえたい「数字の基礎体力」
― 損益分岐点・運転資金・減価償却を正しく理解する ―
飲食店をはじめとする店舗ビジネスの開業準備では、「立地」「コンセプト」「内装」「メニュー」に意識が向きがちです。
しかし実際に経営を左右するのは、“毎月きちんとお金が回るかどうか”という極めて現実的な問題です。
今回は、開業前に必ず理解しておきたい3つの数字、
- 損益分岐点
- 運転資金
- 減価償却とキャッシュの関係
を、実務視点で整理します。
1. 損益分岐点は「固定費 ÷ 粗利率」で算出する
開業相談の場で、「月商はどれくらい必要ですか?」という質問をよくいただきます。
その答えを感覚ではなく、数字で明確にするのが損益分岐点の計算です。
基本の計算式
損益分岐点売上高 = 固定費 ÷ 粗利率
ここで最も重要なのは、「固定費」と「粗利率」の定義を曖昧にしないことです。
この2つが曖昧なままでは、いくら計算しても意味を持ちません。
固定費に必ず含めるもの
- 家賃
- 人件費(社員給与・最低保証含む)
- 融資返済(元本+利息)
- リース料
- 通信費・顧問料など毎月固定で出ていく費用
特に注意すべきは“融資返済”です。
会計上は元本返済は経費になりませんが、実際の経営では毎月キャッシュが出ていきます。
これを固定費に含めないと、
- 「黒字なのにお金が足りない」
という状態に陥ります。
また、人件費についても「自分の給料は後回し」として計算しないケースがありますが、これは非常に危険です。
経営者の生活費も含めて事業です。
自分の給与をきちんと固定費に入れた上で成立するかどうかを必ず確認してください。
粗利率とは何か
粗利率 =(売上 − 変動費)÷ 売上
飲食店であれば主に「原価率」がここに影響します。
例:
- 原価率 30% → 粗利率 70%
- 固定費 200万円の場合 → 200万円 ÷ 0.7 = 約286万円
つまり、月商286万円を超えないと利益は出ません。
ここで重要なのは、「286万円はゴールではない」ということです。
これはあくまで“利益ゼロ”のライン。
- 突発的な修繕
- スタッフ採用コスト
- 売上の季節変動
- 自身の役員報酬アップ
こうした余裕を持たせるなら、
損益分岐点+10〜20%を目標ラインに設定するのが現実的です。
もう一歩踏み込んだ実務視点
損益分岐点を出したら、次にやるべきは「分解」です。
例:
月商目標 320万円
客単価 4,000円の場合
→ 必要客数は 800名
→ 1日あたり約27名(30日営業)
ここまで落とし込んで初めて、
- 席数で回せるのか
- 回転数は現実的か
- スタッフ人数は足りるか
といった具体的な経営判断ができます。
このラインを知らずに開業する方は、実は少なくありません。
しかし、損益分岐点は怖い数字ではなく、経営を守るためのコンパスです。
ここが明確になるだけで、物件選びも、メニュー設計も、人員計画も、すべての判断精度が一段上がります。
2. 運転資金は最低3か月、理想は6か月
開業時に最も多い誤算は「立ち上がりの甘さ」です。
事業計画ではオープン初月から一定の売上を見込んでいても、現実はそう簡単ではありません。
- 想定より集客が弱い
- スタッフが安定しない
- オペレーションが固まらない
- 口コミが広がるまで時間がかかる
こうしたことは決して特別ではなく、むしろ“普通に起こること”です。
それでも家賃も人件費も返済も、待ってはくれません。
なぜ6か月が理想なのか
仮に月の固定費が200万円だった場合、
- 3か月分 → 600万円
- 6か月分 → 1,200万円
売上が想定より20%下振れした場合でも耐えられる設計にするには、6か月分あると精神的にも経営的にも安定します。
特に飲食店は、
- 天候
- 競合出店
- 景気動向
- SNS評価
など外部要因の影響を受けやすい業態です。
順調に見えても、ある月だけ大きく落ち込むことは十分あり得ます。
そのときに「耐えられるかどうか」が、継続の分かれ目です。
3か月未満だと起こりやすいこと
資金が3か月未満だと、
- 広告を打てない
- 改善投資ができない
- スタッフ教育に時間をかけられない
- 焦って値下げする
- 原価を無理に下げて品質を落とす
といった「守りの経営」に陥りやすくなります。
本来であれば、
- メニュー改良
- 内装の微修正
- 看板や導線の見直し
- SNS強化
といった“育てる投資”が必要なタイミングで、何も打てなくなります。
運転資金は「赤字補填資金」ではない
ここは誤解されがちですが、運転資金は単なる赤字補填用ではありません。
- 仕入れの立替
- クレジット入金までのタイムラグ
- 季節変動の吸収
- 税金支払いの準備
こうした資金の“時間差”を埋める役割もあります。
つまり、資金が足りない=経営判断の自由度が失われるということです。
運転資金は“安心を買う資金”でもあります。
余裕があると、正しい改善ができる、冷静な判断ができる、スタッフにも安心感が伝わる。
逆に余裕がないと、経営者の焦りは必ず現場に伝わります。
開業時はどうしても初期投資に目が向きますが、本当に事業を守るのは「オープン後の資金設計」です。
夢を長く続けるために、まずは“耐えられる設計”になっているかを見直してみてください。
3. 減価償却はキャッシュに影響しない
ここは特に誤解が多いポイントです。
開業相談の現場でも、「利益が出ていればお金は残りますよね?」というご質問をよくいただきます。
しかし実際には、利益とキャッシュはまったく別の動きをします。
その違いを理解するうえで重要なのが「減価償却」です。
減価償却とは
内装工事や厨房機器などの設備投資を、数年に分けて経費計上する会計処理です。
例えば、500万円の内装工事を行った場合、それを一度に経費にするのではなく、法定耐用年数に応じて数年間に分けて計上します。
つまり、お金は最初に全額支払っているのに、経費は後から分割で計上されるという仕組みです。
重要なポイント
減価償却費は、
- 会計上の経費になる
- しかし実際のキャッシュは出ていかない
つまり、利益は減るが、現金は減らないという性質を持ちます。
ここが理解できると、決算書の見え方が変わります。
たとえば、利益が思ったより少ない → 減価償却の影響かもしれない、という判断ができるようになります。
では、何がキャッシュを減らすのか?
実際に現金を減らすのは、次のような支払いです。
- 融資の元本返済
- 税金の支払い
- 仕入れの支払い
- 人件費の支払い
- 設備投資の支払い(実行時点)
特に注意すべきなのは、「黒字なのにお金がない」という状態です。
これは、
- 減価償却で利益が圧縮されている
- しかし元本返済は現金で出ていく
という構造から起こります。
さらに、売上が伸びると利益も増えますが、同時に税金の支払いも増えるため、資金繰りが厳しくなるケースもあります。
実務で大切なのは「資金繰り表」
損益計算書(PL)だけを見ていると、
- 黒字=安心
- 赤字=危険
と単純に判断してしまいがちです。
しかし本当に重要なのは、毎月いくら現金が増減しているかを把握することです。
そのためには、
- 月次試算表
- 資金繰り表
をセットで見る習慣が欠かせません。
会計上の利益と、手元資金は別物です。
この感覚を持てるかどうかで、経営の安定度は大きく変わります。
数字に強い経営者とは、難しい会計知識を持っている人ではありません。
「今月、現金はいくら増えたか減ったか」を正確に把握している人です。
開業前の段階から、“利益を見る視点”と“キャッシュを見る視点”の両方を持つこと。
それが、長く続くお店づくりの土台になります。
まとめ:開業前に確認すべき3つの問い
- 固定費はいくらか?(返済含む)
- 損益分岐点売上はいくらか?
- 6か月売上ゼロでも耐えられるか?
この3つに即答できない状態での開業は、正直に言えば“危険”です。
なぜなら、この3つはすべて「感覚」ではなく「数字」で答えられる問いだからです。
「たぶん大丈夫」「このくらいはいけるはず」「なんとかなると思う」
こうした根拠のない前向きさは、開業準備の段階では最もリスクになります。
数字は夢を否定するものではない
ここで誤解してほしくないのは、数字は夢を小さくするためのものではない、ということです。むしろ逆です。
- 固定費が明確になれば、適正な物件規模が見える
- 損益分岐点が分かれば、現実的な売上目標が立てられる
- 運転資金が足りなければ、今は準備期間だと判断できる
つまり数字は、夢を“継続可能な形”に変えるためのツールです。
開業はスタートであってゴールではない
オープン日は華やかですが、本当の勝負はその後です。
想定通りにいかない月、思った以上に厳しい現実、想像以上の責任。それらを乗り越ために必要なのは、情熱だけではなく「設計された数字」です。
最後に、ぜひご自身に問いかけてみてください。
- この固定費で、本当に無理はないか?
- この売上目標は、客数に落とし込むと現実的か?
- 想定外が起きても、耐えられる設計になっているか?
この3つに明確に答えられる状態で開業できれば、それはもう“賭け”ではなく、戦略です。
夢を長く続けるために。開業前こそ、冷静に数字と向き合う時間を持ってみてください。
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