Column
コラム
創業融資800万円と、生活・体力を守る現実的な資金計画の話
こんにちは、REDISHで開業サポートを担当しているYです。
今日は、実際にあった事例をもとに、ご依頼者様が抱えていた不安を紹介したいと思います。開業を考える方の多くが、同じような迷いや戸惑いを経験しています。数字や資料を前にすると、漠然とした不安が具体的な問いに変わる瞬間があるのです。
開業資金は約1,200万円。そのうち自己資金は400万円、残りは創業融資800万円。席数は13席、家賃は月26万円。軌道に乗った後の月商目安は224万円──。
ご依頼主様と私は、オンライン面談越しに資料を共有しながら、一緒に数字を整理していきました。飲食店で20年以上の経験がある方でも、具体的な資金や収支の数字を目の前にすると、言葉数は自然と少なくなり、慎重に考え込む様子が伝わってきます。
「この売上、本当に置いていいんでしょうか」
「2ヶ月目、こんなに下がる想定で大丈夫ですか」
不安というより、慎重さに近い迷いが画面越しに感じられました。
・自己資金だけでやっていけるか漠然と不安になる
・立地や席数で本当に利益が出るか、計算するほど迷う
・融資を通せる計画なのか、面談でどう説明すればいいか分からない
・初期投資や運転資金の使い方が適正か、判断に迷う
「この条件なら生活できるかもしれない」
「ここは少し保守的に置いたほうが安心かも」
声には出さなくても、画面越しに迷いと慎重さが伝わってきます。夢を語る時間は終わり、現実の数字と生活がどう重なるかを慎重に考えながら、少しずつ納得を探していく──そんな時間でした。
このコラムでは、こうした迷いに寄り添いながら、実際に使用された事業計画書の数字や収支モデル、融資審査で評価されたポイントをもとに、開業準備のリアルな感覚を整理しています。
- 資金計画の全体像(自己資金・融資・設備投資・運転資金のバランス)
- 月次収支の見通しと損益分岐点
- 融資審査で評価された市場分析や差別化戦略
- 実務経験を活かしたリスク管理策(オープン係数や赤字期間の想定)
詳しい数字や事例が気になる方は、ぜひこちらもご覧ください。
【創業融資800万円】飲食店歴20年の経験が光る!「ライ麦うどん」で差別化を実現した堅実な開業事例
https://redish.jp/columns/example_001/
数字と生活の間で揺れる
オンライン越しに一緒に考えた開業計画のリアル
渋谷区、主要駅から徒歩7分。周辺にはオフィスや住宅、学校、観光客が混在し、昼のランチから夜の夕食、テイクアウトまで幅広く対応可能な立地です。チェーン店やラーメン店が並ぶ中、「本格うどんを日常使いできる店」という差別化ポジションを狙いました。
この立地なら、月商224万円という目安も現実的かもしれない──そんな仮定を、オンラインで資料を共有しながら一緒に数字を確認しました。
飲食店勤務経験:約20年以上(ホール・運営中心)
業態:うどん店(関東では珍しいライ麦麺を使用)
立地:渋谷区、主要駅から徒歩7分
席数:13席(カウンターメイン)
客単価想定:ランチ約1,250円、ディナー約2,500円
自己資金:400万円
創業融資:800万円(日本政策金融公庫)
初期投資総額:約1,200万円(物件取得費・内装・設備・運転資金含む)
条件が揃った状態で、数字をどう置くか、どこまで下げて見積もるかを一緒に整理しました。席数や回転率を少し変えるだけで利益の余白がどう変わるか、融資返済や家賃を支払った後に手元にどれだけ資金が残るか──。
数字の一つひとつが、生活と直結する現実を映し出します。
単なる計算ではなく、「この前提で本当に生活できるのか」「もし思い通りに行かない日が続いたらどうなるか」といった、日々の現場感覚を重ねながら確認する時間でした。声には出さなくても、画面越しの表情や資料のスクロールの速さ、カーソルの動きから、迷いと慎重さが伝わってきます。
夢を語る余裕はありません。現実の数字と生活がどう重なるかを慎重に考えながら、少しずつ納得を探す──そんな時間です。結論は出さず、ただ同じ資料を眺めながら、「この前提なら生活できるかもしれない」「ここは少し下げたほうが安心かも」と、小さな確認を重ねる瞬間。数字の前で静かに揺れる心理の波を、私はオンライン越しにそばで感じていました。
まず並べた数字と、そのときの空気
事業計画の数字と、現実感の間
事業計画書には、実際に提出した数字が並んでいました。
事業計画の主な数字と前提条件
| 項目 | 金額・数値 | 前提条件 | 補足・リスクシナリオ |
|---|---|---|---|
| 月商 | 224万円 | 13席、ランチ回転率300%、ディナー回転率180% | 軌道に乗った後の想定売上 |
| 原価 | 67万円 | 原価率約30% | ー |
| 人件費 | 54万円 | オーナー自ら現場に立つ前提 | 人件費率24.3%、代わりが出られない場合リスク |
| 家賃 | 26万円 | 渋谷区、駅徒歩7分 | 固定費、支払遅延不可 |
| 営業利益 | 28万円 | 返済前 | 初期の売上減少時はマイナスの可能性 |
| 損益分岐点 | 190万円 | ー | 月商が下回る場合の生活資金確保が課題 |
リスクシナリオ(オープン初期・不調月)
| シナリオ | 月商 | 営業利益 | コメント |
|---|---|---|---|
| 開業直後 | 134万円 | -10万円 | オープン係数で売上を60%に設定 |
| 2ヶ月目想定 | 90万円 | -32万円 | 売上40%、資金繰り表で確認 |
| 雨の日・閑散日 | 120万円 | -18万円 | 回転率低下、ランチ・テイクアウト中心 |
一般的な飲食店指標で見れば、健全な数字です。しかし、画面越しにその数字を眺めるご依頼主様の表情は、決して安心したものではありませんでした。
「この224万円って、忙しい月を基準にしていませんか」
その一言から、数字の裏にある現実を慎重に見極めたいという思いが伝わってきます。席数13席という前提で、ランチ回転率300%、ディナー180%という設定、曜日差や雨の日の売上落ち込みまで、一つずつ確認していきました。
数字そのものよりも、その数字が生まれる営業風景を具体的に想像できるか──それが本人にとって重要でした。さらに、自己資金400万円と創業融資800万円という資金構成、初期投資や運転資金の配分も踏まえ、融資返済後に手元資金がどのくらい残るか、売上が予想より落ち込んだ場合でも生活できるかを、一緒に仮定しながら整理していきます。
数字と生活のバランスを見極める時間。慎重に考えながら少しずつ納得を積み重ねていく、その空気が伝わってくる瞬間でした。
オープン係数という、少し気が重くなる前提
最悪のケースを織り込む、オープン係数の考え方
この計画では、開業直後の売上をあえて下げて設定していました。
開業1ヶ月目:想定売上の60%
2ヶ月目:40%
3ヶ月目以降:徐々に回復
例:簡易版オープン係数表
| 月 | 売上(オープン係数) | 営業利益 | 月末残高 |
|---|---|---|---|
| 1ヶ月目 | 134万円(60%) | 14万円 | 414万円 |
| 2ヶ月目 | 90万円(40%) | -17万円 | 397万円 |
| 3ヶ月目 | 150万円(70%) | 25万円 | 422万円 |
| 4ヶ月目以降 | 224万円(100%) | 77万円 | 499万円 |
この前提は「オープン係数」と呼ばれ、開業直後の盛り上がり(オープニング景気)が落ち着く反動をあらかじめ数字に織り込み、資金繰りや月末残高への影響を現実的に確認するための手法です。
2ヶ月目に売上を40%に落とす想定を見たオーナーは、少し戸惑った表情を見せました。「ここまで下げる必要はありますか」と。しかし、20年以上現場で経験してきた本人にとって、この前提は単なる慎重さではなく、過去の経験に基づく現実的な整理でした。
私たちはこの前提をもとに、「この条件なら生活できるか」「ここは少し保守的に置いたほうが安心かも」と一緒に仮説を立てながら数字を確認。運転資金352万円と自己資金400万円を組み合わせ、融資800万円の返済も含めた月末残高がプラスを維持できるかを何度も検証しました。
単に数字を並べるだけでなく、「この前提で生活できるか」「万一売上が落ち込んだらどうなるか」を具体的にイメージすることが、計画の現実味を高めます。こうした最悪のケースも事前に組み込む姿勢こそ、融資審査において「現実的に事業を運営できる経営者」と評価される大きな要素です。
数字だけでは決めきれなかった理由
数字だけでは見えないリスクと生活感
FL比率が54.3%に収まっていても、安心とは言い切れません。数字だけでは見えない現実が、オーナーの日常や体力、生活リズムと密接に結びついているからです。
・人が急に辞めたらどうなるか
・雨が続いた月はどうなるか
・自分が体調を崩した週はどうなるか
計画上は、オーナー自身が現場に立つ前提で人件費を抑えています。しかし、それが毎日続くかどうかは体力や生活のリズム次第。数字は静かに並んでいますが、現実は刻一刻と変化します。
さらに、開業直後の売上低下(オープン係数)も含めて検証済みです。1ヶ月目60%、2ヶ月目40%という現実的なシナリオを前提に、資金繰りや月末残高にどの程度影響するかを確認しました。オーナー自身も「ここまで下げる必要がありますか」と一瞬戸惑いましたが、過去の経験に基づく現実的な整理として不可欠な前提です。
融資審査でも、このようなリスク管理の姿勢は重要です。市場分析や差別化戦略、原価率・収益性、設備投資の妥当性など、数字の裏にある現場感覚や運転資金の確保を示せることが、信頼につながります。
「この計画、続けられそうですかね」
その問いにすぐ答えを出すことはありません。資料を眺めながら、最悪のケースも含めて資金の動きを確認し、生活に直結する数字をどう置くか慎重に検討──少しずつ納得感を積み重ねていく時間です。自己資金400万円、運転資金352万円、融資800万円を前提に、赤字期間でも月末残高がプラスを保てるかを一緒に確認する──そんなプロセスが、この段階での大切な作業でした。
ライ麦うどんという差別化の扱い方
差別化の強みと、数字に落とす難しさ
差別化要素として非常に強い素材です。ただし、それが売上にどう影響するかは別問題です。
・単価が上がる可能性
・説明コストがかかる可能性
・リピーターになるまでの時間
関東では珍しい「ライ麦麺」を使うこと自体は明確な強みですが、それだけで集客や売上がすぐに増えるわけではありません。時間帯や曜日、天候、テイクアウトの利用状況など、さまざまな条件で効果は変動します。さらに、テイクアウトに向きにくい性質もあり、どの客層がいつ選ぶかを正確に予測するのは難しいのです。
計画書では、この強みを明確に記載し、差別化としての価値を評価できる形にしました。しかし、売上予測には過度に織り込まず、あくまで保守的な数値設定を採用しています。「強みを数字に置き換えるタイミングや規模が不確実」という前提をオーナーと共有し、シミュレーションを何度も見直しました。
例えば、ランチの回転率やディナーの客単価にどのくらい反映させるか、リピーターになるまでの期間をどの程度控えめに見るか──。一つひとつの判断が、月末の手元資金や融資返済の安全性に直結します。支援者としての私は、当事者ではなく整理する立場で、「この数字に落とし込む場合、最悪のシナリオでも生活に影響が出ないか」を一緒に確認していました。
| 項目 | 想定値 | 補足 |
|---|---|---|
| ランチ回転率 | 1.5回転/席 | 強みを活かした場合の控えめ想定 |
| ディナー客単価 | 1,200円 | リピーターやテイクアウトの影響を控えめに反映 |
| リピーター定着期間 | 3ヶ月 | 新規客がリピーターになるまでの期間を保守的に設定 |
| 売上影響 | +10〜15% | 差別化の効果を過大評価せず、控えめに数値化 |
加えて、差別化の魅力が大きいほど、説明や接客で補う部分も増えます。メニューの説明に時間を割く必要や、お客様の理解度によって売上がブレる可能性も考慮しました。強みは武器であると同時に、扱い方次第でリスクにもなる──その両面を数字と感覚の両方で検証することが、開業準備には欠かせません。
赤字期間でも手元資金を維持できるかを一緒に検証する──この確認作業を経て、計画に対する判断材料が揃ったことになります。
融資面談を想定したときの迷い
融資審査で評価される「現実感」と「準備」
日本政策金融公庫の面談で、実際に聞かれるであろう質問もあらかじめ想定していました。
「売上が2ヶ月目に大きく落ちていますが、問題ありませんか」
この問いに対して、強気な言葉や「大丈夫です」と根拠のない返答を用意することはしませんでした。大切なのは、なぜ2ヶ月目に売上を40%まで下げたのか、その数字の背景と、それが過去の経験や運転資金の確保とどう結びつくかを、落ち着いて説明できることです。
・FL比率54.3%、家賃比率約12.5%
・人件費をオーナー自ら現場に立つ前提で抑えていること
・初期運転資金352万円+自己資金400万円で、赤字期間も月末残高がプラスを維持できること
これらの数字は、単に優秀さを示すためのものではありません。面談官に対して、「この条件でも返済を含めた資金繰りが成立する」という現実的な根拠を示すための材料です。さらに、数字だけでなく、想定されるリスクへの備えや、計画に対する冷静な検証プロセスを伝えることが、信頼につながります。
実際の面談では、数字の裏にある現場感覚や日々の運営イメージを言語化することも重要です。たとえば、客足が落ちる可能性がある曜日や時間帯、天候による変動、人が急に辞めた場合の対応──こうした現実的なシナリオを踏まえた説明は、単なる机上の計算では表せない安心感を与えます。
面談の準備段階でこうした確認を重ねることで、数字と現実感のギャップを埋め、最終的に「この事業を現実的に運営できる」と審査官に納得してもらえる下地を作ることができました。
まとめ|一緒に数字を見る、という距離感 数字を並べるだけでは見えないもの
私は、決断を促す立場ではありません。数字を少し外側から照らし、整理する役割を担う──数字の前で迷う人の隣に立ち、思考の整理を助ける、そんな距離感です。
最終的に本人から出た言葉は、「もう一度、初月の客数だけ見直しましょうか」というものでした。前に進むでも戻るでもなく、少し横にずれるような確認。迷いや慎重さを否定せず、現実と理想の間をそっと確認する感覚です。
事業計画は、単に開業の決断を下すための道具ではありません。不安や迷いを言語化し、目の前の数字と生活のバランスを考えるための「思考の道具」でもあるのだと、この瞬間に改めて感じました。
この計画が「正しい」と断言できるわけではありません。ただ、数字を下げてみる、置き置く直してみる──その時間を持ったこと自体が、後になって大きな意味を持つこともあります。
開業準備では、答えを急いで見つけるよりも、「自分ならどこが不安か」「どの前提に納得できるか」を丁寧に確認するプロセスが何より大切です。
この記事は、そんな思考の整理や迷いを言語化する手助けとして、そばに置いてもらえたらと思います。









