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コラム

経験はあるはずなのに、不安が消えなかった理由

数字を並べるほど、迷いが増えていった開業準備の話

こんにちは。
REDISHで開業サポートを担当しているYです。
今日は、実際に私たちが伴走した事例をもとに、開業を検討されていたご依頼主様が、
どんな不安を抱えながら準備を進めていたのかを、少しだけお話ししたいと思います。
事業計画の、最初のファイルを開いた日のことを、今でもよく覚えています。
エクセルのシートには、すでにいくつかの数字が並んでいました。

  • 席数は16。
  • 営業時間は11時から23時。
  • ランチは1,500円、ディナーは5,000円。

どれも、これまで積み重ねてこられた経験を考えれば、
「現実的ではない」と言う数字ではありません。

「この数字、書いてしまうと、引き返せなくなる気がして」

 この記事では、30年の経験を持つプロが、なぜ数字を前に立ち止まり、どのように不安を整理していったのかを綴ります。

  • 経験がある人ほど、軽々しく数字を書けない理由
  • 正解を探すより、「崩れた後」を想像していた時間
  • 融資金額という名の「余白」を決める重み

 数字を前にした迷いの正体を探っていきます。

その一言を聞いたとき、
この開業準備は、単なる“計算の作業”ではなく、
気持ちを整理する時間でもあるのだと感じました。
事業計画の数字を一緒に見直し始めてから、
ご依頼主様は、何度も同じ言葉を口にされていました。
「これだけやってきたのに、本当に大丈夫なんでしょうか」
30年。
調理場にも立ち、サービスにも入り、店長として現場を回し、
経営側として数字を見る立場にもあった方です。
外から見れば、十分すぎるほどの経験があるように映ります。
それでも、数字を前にすると、手が止まる。
売上の欄を見て、少し黙り込む。
家賃の行までスクロールして、また上に戻る。
「月商295万円って、書いてしまっていいんですかね」
その言葉は、自信がないというよりも、これから背負う責任の重さを、
もう一度、自分自身に確かめているように聞こえました。

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このコラムで扱った、具体的な数字や資金計画、
融資までの流れについては、
以下のコラムで詳しく紹介しています。
【創業融資900万円】経験を活かした自家製生パスタ店 30年の実績を武器にしたイタリアンオーナーの開業事例
https://redish.jp/columns/example_011/

経験がある人ほど、軽々しく数字を書けない

自信がないからではなく、現実を知っているから

30年という時間は、単なる年数ではありません。
成功した日もあれば、
思ったほど数字が伸びなかった月もある。
人が辞めた日。
原価が想定より跳ね上がった日。
オペレーションが崩れて、クレームが続いた夜。
そうした場面を一つひとつ経験してきたからこそ、
「平均」や「想定」という言葉に、自然と慎重になります。
事業計画の売上欄を見ながら、ご依頼主様はこんな確認を何度もされていました。
「この売上って、何も起きなかった月ですよね」
「もし人が一人休んだら、どこまで下がりますか」
月商295.9万円という数字も、
「これくらいはいけそう」という感覚だけで
置かれたものではありませんでした。

  • ランチとディナー、それぞれの想定客数が条件通りに積み上がった場合
  • 週末と平日のバランスが大きく崩れなかった月
  • 仕込みや提供スピードが安定し、回転数が確保できた前提

そうした複数の条件を重ね合わせたうえで、
「この条件がそろえば、ここまで届くかもしれない」
という位置づけで、そっと置かれた数字でした。
だからこそ、
その数字を入力する手が、なかなか進まなかったのだと思います。
経験があるからこそ、数字の裏側にある「崩れたときの景色」まで
一緒に思い浮かんでしまう。
軽々しく書けないのは、自信がないからではなく、
現実を知っているからこその慎重さでした。

数字を詰めるほど、不安が増える瞬間

正解を探すより、「崩れた後」を想像していた時間

原価率30%。
飲食業界では、比較的よく目にする数字です。 原価を抑えられている店も多く、この水準を一つの基準にすること自体は、珍しいことではありません。
ただ、実際に私たちが話していたのは、 「30%をどうやって守るか」よりも、 「もし30%を超えた月が来たら、どこから手を入れるか」ということでした。

  • 仕入れロットを一時的に見直すのか
  • 原価の高いメニューの構成比を下げるのか
  • 忙しさが落ち着く時期に、人件費の出方を調整するのか

どれも、事業計画書を“きれいに見せるため”の話ではありません。 想定通りにいかない月が来たとき、 どうやって元の状態に戻るかを、先に言葉にしていました。
この店舗は席数16席、営業時間は長め。 客数が一気に跳ねる業態ではない分、 原価や人件費が少しずれるだけでも、数字への影響は小さくありません。
だからこそ、 「毎月30%を守れるか」ではなく、 「ズレたときに、立て直せるかどうか」が気になっていました。
FL60%前後という設定も、 いわゆる“理想値”というよりは、 「これを越え続けると、少しずつ体力が削られていくライン」として置かれていました。
一時的に超える月があること自体は、 必ずしも異常ではない。 ただ、それが続いたときに、 何も手を打てない状態だけは避けたい。
数字は、安心材料というより、 状況を知らせてくれる警報装置に近かったのかもしれません。
詰めれば詰めるほど、 「うまくいった場合」より、 「崩れたときの景色」が具体的になっていく。
それが、数字を細かく見直す時間の中で、 不安が増えていった理由だったように感じます。

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融資金額を決める時間は、想像以上に重かった

通すための数字か、続けるための余白か

900万円という融資額も、 最初から「これでいこう」と決まっていたわけではありません。
事業計画を作り始めた当初は、 もう少し抑えた金額も、選択肢として挙がっていました。
「800万円でも、足りますかね」
少し考えてから、 間を置くように、こんな言葉が続きます。
「ただ、その分、余裕はなくなりますよね」
内装を、もう少し簡素にするか。 厨房機器を、新品ではなく中古に切り替えるか。 運転資金を、3ヶ月ではなく2ヶ月分にするか。
どれも、数字上は成立します。 事業計画書としても、成立しなくはない。
それでも、 どれを選んでも、少しずつ不安が残る選択肢でした。
元の記事でも触れられている通り、 この計画では自己資金として330万円を投入し、 初期投資と運転資金を含めて、全体で1,230万円を見込んでいます。
その中で、 「どこを削れば融資が通りやすいか」よりも、 何度も話題に上がったのは、別の視点でした。
「融資が通ったあと、どんな気持ちで営業できるか」
開業直後は、 売上が計画通りにいかない月があることも想定しています。 体力的にも、精神的にも余裕がない状態で、 数字だけを追いかけることになるのか。
それとも、 多少のブレを受け止めながら、 落ち着いて判断できる余白を持てるのか。
運転資金を3ヶ月分確保するという判断も、 「安全だから」というより、 「焦らずに考える時間を残すため」だったように感じます。
融資金額は、 多ければいい、少なければいい、という話ではありません。
その金額で、 どんな状態でお店に立つことになるのか。 その姿を、何度も一緒に想像していました。
数字を詰める作業が続く中で、 この融資額を決める時間は、 想像していた以上に、重たい時間だったように思います。

事業計画書は、決意表明に近い

説得資料である前に、自分への確認書

数字や文章を整える作業は、 どこか“宣言”に近いところがあります。
「この条件で、やります」 「この前提で、進みます」
事業計画書に書かれているのは、 市場分析や売上予測、資金計画といった項目ですが、 実際には、その一つひとつが選択の積み重ねでした。
どの立地を選ぶのか。 どの客層をメインに想定するのか。 どの数字を“前提”として置くのか。
この計画書には、 月次収支、原価率、人件費、家賃比率、 さらに12ヶ月分の資金繰りの想定まで盛り込まれています。
それらは単なる数字の羅列ではなく、 「この条件が続く限り、このお店は成り立つ」 という仮説を、紙の上で組み立てる作業でした。
書類が完成に近づくにつれて、 ご依頼主様の言葉数は、少しずつ減っていきました。
修正点がなくなったからではありません。 むしろ、修正するたびに、 「本当にこの前提で進むのか」を 自分自身に問い直しているように見えました。
不安が消えたわけではありません。
原価が想定より上がったら。 売上が、しばらく届かなかったら。 体力的に厳しい月が続いたら。
そうした可能性をすべて理解したうえで、 それでも計画書にサインを入れる。
その行為自体が、 一つの決意表明だったのだと思います。
言葉が少なくなっていったのは、 自信がついたからではなく、 覚悟の分だけ、説明がいらなくなっていったから。
事業計画書は、 誰かを説得するための書類であると同時に、 自分自身に向けた約束でもある。
その重さを、 横で一緒に見ていた時間でした。

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面談対策で一番時間を使ったのは「詰まる質問」

面談で評価されるのは、完璧な回答ではない

融資面談の練習では、 流れるように答えられる質問よりも、 むしろ立ち止まってしまいそうな問いに、時間を使いました。
「ここ、少し言葉に詰まりそうですね」
売上の根拠。 自己資金の考え方。 万が一、計画通りにいかなかった場合の対応。
数字としては説明できるのに、 声に出そうとすると、少し間が空く。
そういう質問が、いくつもありました。
詰まるところには、 まだ自分の中で整理しきれていない感情があります。
「失敗したくない」 「でも、やらない選択肢はもうない」
その両方が同時にあるから、 言葉が一度、止まる。
面談対策というと、 “きれいな答えを用意する”作業だと思われがちですが、 実際にやっていたのは、その逆でした。
不安を無理に消すのではなく、 迷っていることを前提にしたまま、 どう話せば伝わるかを一緒に考える。
「正直に言うと、ここはまだ不安があります」 「ただ、その上で、こういう準備をしています」
そんな言い回しを、何度も試しました。
不思議なことに、 迷いを隠そうとするよりも、 整理されていない部分を認めたほうが、 言葉は少しずつ自然になっていきました。
融資面談は、 完璧な経営者かどうかを見る場ではありません。
この人が、 数字とどう向き合っているか。 不安を、どう扱おうとしているか。
その姿勢が、 言葉の端々に滲み出る場なのだと思います。
だからこそ、 一番時間をかけたのは、 “詰まらない答え”ではなく、 “詰まりそうな質問”でした。

開業後も、数字は「安心」ではなく「対話相手」

不安を消すのではなく、整理する存在

開業してからも、 数字は毎月、違う顔を見せます。
想定より良かった月。 理由がすぐには分からない落ち込み。 曜日別に見ると説明がつく数字もあれば、 何度見返しても首をかしげてしまう月もある。
数字は、 期待通りに動いてくれるものではありません。
それでも、 開業前に一緒に考えた数字たちは、 そのまま消えてしまうわけではなく、 「判断の材料」として、手元に残り続けます。
売上が落ちたとき、 いきなり結論を出さずに、 原価率や人件費の動きに目を向けてみる。
忙しいのに手応えがないとき、 感覚だけで悩まず、 FLのバランスを一度、数字で確かめてみる。
それは、 正解を教えてくれる存在ではありません。
むしろ、 「何が起きているのか」を 一緒に考えるための相手に近い。
焦ったときに、 感情のまま判断してしまいそうな瞬間に、 一度、立ち止まるための基準がある。
その基準があるかどうかで、 経営の判断だけでなく、 精神的な負担の重さも、大きく変わるように感じます。
数字は、 不安を消してくれるものではありません。
でも、 不安を一人で抱え込まなくて済むようにしてくれる。
開業後も、 数字は「安心」ではなく、 毎月向き合い続ける、対話相手なのだと思います。

まとめ|開業前の迷いは、なくならなくていい

「自分にもできるのか」
その問いに、はっきりした答えを持ったまま開業する人は、実はそれほど多くないのかもしれません。
経験があっても、準備を重ねても、最後に残るのは、少しの不安と、少しの覚悟。
大切なのは、迷いをなくすことではなく、その迷いを、どう扱ってきたか。
一人で抱え込まず、感覚だけに頼らず、数字と一緒に迷う時間を持ったかどうか。
それは、開業してから、じわじわと効いてきます。
判断を急ぎそうになったとき。
うまくいかない月に、気持ちが沈みそうになったとき。
「あのとき、ここまで考えていた」という事実が、自分を立ち止まらせてくれる。
この事例は、
完成された成功例というより、今も続いている思考の記録です。
計画通りにいくこともあれば、修正が必要になることもある。
それでも、考え続けている、という点では、開業前と変わっていません。
もし今、
事業計画書の数字を前に、手が止まっているとしたら。
それは、
覚悟が足りないからではなく、ちゃんと考えている証拠なのだと思います。
答えは、まだ途中でも。

もし、今ひとりで迷っているなら

REDISHでは、「正解を出す」ためではなく、
迷いながら考える時間を一緒につくるサポートをしています。
数字の見直しから、融資面談で言葉に詰まりそうな部分まで、
今の段階に合わせて整理することができます。
まだ相談するほどではない、そんな状態でも大丈夫です。
気になることがあれば、まずはお気軽にお問い合わせください。