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コラム

数字は揃っても、心は揃わない。開業前の迷いと向き合う時間

数字と感覚のズレに向き合った、開業準備の話

こんにちは。REDISHで開業サポートを担当しているYです。
今日は、実際に私たちが伴走した事例をもとに、開業を検討されていたご依頼主様が、
どんなことに迷いながら準備を進めていたのかを、少しだけお話しします。

465万円という融資額。
10席だけのカウンター。
月商目標は約268万円。
数字だけを見ると、ある程度現実的に組み立てられた計画に見えるかもしれません。

ただ、この数字を前にしていたのは、
開業を考えながらも、なかなか決断に踏み切れずにいたご依頼主様でした。
一流レストランでの経験があり、間借り営業では行列ができる日もあったそうです。
それでも、「本当に自分が店を持つタイミングなのか」という点については、
簡単には整理できなかったと話していました。

融資の話を進めるということは、後戻りしにくくなるということでもあります。
事業計画として数字を書き出すほど、判断そのものを迫られている感覚が強くなっていった、
そんな振り返りが印象に残っています。

このコラムでは、開業後の結果ではなく、その前段階でどんな迷いがあり、
どんな点で考えが止まりやすかったのかを、私たち支援側の視点も交えて整理しています。
ここからは、実際にどのようなサポートを行い、どんなところで判断が難しくなりやすかったのかを、順に見ていきます。

なお、売上や融資額、資金配分など、より具体的な数値や事業計画の内容については、
以下のコラムで詳しく紹介しています。
【創業融資465万円】一流レストラン経験&人気かき氷店の実績を武器に!二毛作レストランを成功させたオーナーの挑戦
https://redish.jp/columns/example_014/

飲食店経営や開業、税務・集客に関するご相談を受け付けています。

「条件は揃っている」と言われるほど、決められなくなる

事業として成立しそうでも、決断までは別の話

支援の初期段階で共有されたのは、すでに十分な下地があると感じられる経歴でした。
星付きフレンチでの調理経験。 パティシエとしての実務経験。 さらに、人気かき氷店の立ち立ち上げや運営に関わった実績もあり、間借り営業では、実際にお客様がついている状態でした。

事業計画書の観点で見れば、 「経験」「商品」「一定の需要」という要素は、すでに揃っているようにも見えます。 周囲から「もう開業できる条件は揃っているのでは」と言われることが多かったのも、自然な流れだったと思います。

ただ、ご本人の中では、その言葉がそのまま判断の後押しにはなっていませんでした。
条件が揃っているかどうかと、自分がその判断に納得できているかどうかは、別の話だったからです。

事業として成立する可能性は感じている。 一方で、「ここまで準備した状態で踏み出して、もし想定と違ったらどう受け止めるのか」 その点については、まだ整理しきれていない感覚が残っていました。
これは、開業を検討する方が、融資や事業計画と向き合い始めた段階で、一度は立ち止まりやすいポイントでもあります。

465万円という融資額が持つ、安心と緊張の両面

安心できる数字ほど、覚悟もはっきりしてくる

今回の事例では、日本政策金融公庫への融資申請額は465万円でした。 自己資金は900万円。 資金構成だけを見ると、自己資金比率は比較的高く、数字の上では安定感のある計画とも言えます。

実際、事業計画上では、設備投資と運転資金を分けて整理し、開業初期の資金繰りにも一定の余裕を持たせた内容になっていました。

ただ、この465万円は、単に「自己資金で足りない分を補うためのお金」という感覚ではなかったようです。
ご本人にとっては、この金額そのものが、 「この事業は成り立つのか」を第三者に見てもらうための数字、そんな位置づけに近かったのだと思います。

融資額が確定すれば、資金面での安心感は確かに増える。
一方で、返済が毎月発生するという現実も、同時に始まります。
本人は後から、「もし通ったら、それはそれで、もう戻れない感じがした」と話していました。
融資は、事業を前に進めるための手段である一方で、計画を“仮”のままにしておけなくなる出来事でもあります。
この465万円は、安心材料であると同時に、判断を先送りできなくなるラインを示す数字でもあったのかもしれません。

項目 金額 補足
自己資金 900万円 開業準備前に用意した資金
創業融資(日本政策金融公庫) 465万円 事業資金の不足分を補完
総初期投資額 1,365万円 設備・運転資金含む合計

月商268万円という数字が、現実的に感じられなかった理由

「回せる気がしない」という感覚が残っていた

事業計画上の月商目標は、約268万円でした。
ランチとディナーを分け、客単価と想定客数、営業日数を一つずつ積み上げて導いた数字です。
計算の過程自体は、決して無理のあるものではありません。
10席という規模を前提に、昼と夜で役割の異なる営業を想定した、論理的な組み立てでした。

それでも本人は、
「紙の上では成立しているけれど、自分がその毎日を実際に回している姿が、どうしても浮かばなかった」
と振り返ります。

ここで引っかかっていたのは、数字の正しさそのものではありませんでした。
問題だったのは、
数字と生活感覚とのあいだにあるズレです。
毎日の仕込み量はどのくらいになるのか。
10席を回し続ける集中力と体力が、週単位、月単位で本当に持つのか。
繁忙期と閑散期の波をどう受け止めるのか。
想定外の欠勤や、設備トラブルが起きたとき、その日の営業を誰がどう支えるのか。

月商268万円は、
条件がきれいに揃った場合に見える一つの目安にすぎません。
数字としては成立していても、同じ形で毎月再現される保証はどこにもない。
その感覚が、判断を簡単にはさせなかったのだと思います。

収支項目 金額 備考
売上高(想定) 268.2万円 月平均想定値(昼+夜)
売上原価 53.6万円 売上の約20%
人件費 56万円 正社員2名+法定福利費
家賃 47万円 月額固定費
経常利益 74.1万円 想定での利益

二毛作という業態が、不安を減らしたわけではなかった

リスク分散は、必ずしも心を軽くするわけではなかった

昼はかき氷、夜はコース料理。
いわゆる二毛作の業態です。
事業計画上では、
夏場に強いかき氷と、通年で売上をつくりやすい夜営業を組み合わせることで、
季節による売上の波をならす設計になっていました。
数字の上では、理にかなった構成だったと思います。

ただ、本人が感じていたのは、
「売上が安定する」という安心よりも、
「本当に両立できるのか」という感覚的な不安でした。
二毛作は、売上の軸が二つある分、日々の判断軸も増えます。
どちらの営業に、どれだけ力を割くのか。
仕込みや人員配置は、どう切り替えるのか。
繁忙期が重なったとき、現場は回るのか。
さらに、昼と夜で求められる集中力や身体の使い方が異なる中で、
自分の体力が一年を通して持つのか、という不安もありました。

「リスク分散」という言葉は、計画上では前向きに聞こえます。
しかし実際には、リスクを二つ同時に抱える感覚に近かったのかもしれません。
どちらか一方に振り切れないまま、両方を成立させ続けなければならない。
それでもご本人は、「やれるかどうか分からないからこそ、一つずつ現実として考えてみたい」 そう話していました。
二毛作という選択は、不安を消す答えではありませんでしたが、 自分が向き合うべき現実を、逃げずに見つめるための形だったのだと思います。

事業計画書は「説得資料」より「思考の棚卸し」だった

数字は誰かを説得するためだけじゃなく、自分の覚悟を確かめる道具だった

支援の中で、何度も行き戻りしたのが、
「この数字に、自分自身が納得できているか」という問いでした。
創業融資を進める以上、事業計画書は、当然ながら審査に提出するための書類でもあります。
融資額465万円、自己資金900万円。
月商268万円、原価率20%、家賃比率18%、人件費26%。
これらの数字は、第三者から見れば、比較的整った、現実的な計画に映る内容だったと思います。

ただ、ご本人にとっては、
「通すための数字」を並べる作業というより、
この数字の中で、自分が数年先まで立ち続けられるのかを確認する作業に近かったようです。
たとえば、原価率20%。
高収益を見込める数字ではありますが、
それは同時に、仕入れ管理や仕込み精度を落とせない日々が続く、という前提でもあります。
家賃比率18%も、数字だけ見れば抑えられていますが、
10席という規模で、その固定費を毎月どう受け止めるのか。
人件費26%についても、
「削れるかどうか」ではなく、
「削った先に残る負担を、自分が引き受け続けられるか」という視点で考えていました。

計画書を書き進める中で、不安がなくなったわけではありません。
むしろ、
「何が不安なのか分からない状態」から、
「どこが引っかかっているのか分かる状態」に変わっていった、

そんな印象のほうが近いかもしれません。
融資審査に向けた書類でありながら、同時に、自分自身に問いを返してくる資料でもある。
ご依頼主様にとって事業計画書は、誰かを説得するための完成形というより、
覚悟を持てるかどうかを確認するための思考の棚卸しだったように思います。

飲食店経営や開業、税務・集客に関するご相談を受け付けています。

決められなかった時間が、無駄だったわけではない

不安と向き合った時間が、数字だけでは見えない安心につながる

最終的に、開業は実現し、融資も無事に通りました。
ただ、それは「迷いが完全になくなったから」ではありません。
迷いながらも、条件を一つずつ確認し、
「この不安なら自分は抱え続けられるか」を丁寧に考え続けた結果、
準備は着実に積み上がっていきました。

月商268万円、席数10席、二毛作の業態、原価率や家賃比率。
数字の中に潜むリスクや、日々の体力の使い方、スタッフへの負荷。
こうした要素を、頭だけでなく体感として整理する時間があったからこそ、
開業後も現実の業務に耐えうる計画が見えてきたのです。

開業準備が長引くこと、判断が止まることは、
必ずしも後ろ向きな状態ではありません。
むしろ、この時間こそが、事業の土台を固めるプロセスになっていました。
そして、迷いながらも決断のタイミングを見極めた結果、
今は昼はかき氷、夜はコース料理という二毛作レストランで、
数字で確認していた通りの現実を、自分の手で動かす日々を迎えています。
決めきれなかった時間があったからこそ、開業後の安心感や手応えも、より確かなものになったのだと思います。

まとめ|決断は焦らず、整理の先に見えてくる

もし今、
数字を見れば進めそうなのに、心がついていかない感覚があるなら、
それは「判断が遅れている」のではなく、整理がまだ途中であるサインかもしれません。
そういう時には、誰かに決断を促される場ではなく、
数字や計画をそのまま置いて、言葉にしながら話せる環境があることが、意外と安心につながります。

無料相談は、何かを必ず決める場ではありません。
どこで迷い、何が不安で、どの順番で考えを進められるのか。
自分自身の思考の位置を確認する、ひとつの選択肢として活用できる場です。
迷いの時間も、立ち止まる時間も、無駄ではありません。
少しずつ整理が進むことで、数字と感覚が結びつき、次の一歩を踏み出す力になることもあります。
頭の片隅に置いて、気軽に立ち寄れる選択肢として考えてもらえたら嬉しいです。

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