Column
コラム
― 参入者が多い業態の罠と、勝ち残るための「構造」の全貌 ―
「いつかは自分のお店を」と考える人は少なくありません。
しかし現在の飲食業は、料理の腕だけで勝負できる世界ではなくなっています。
参入者が増え続けるなかで、成果を分けているのは個人の才能ではなく、業態そのものが持つ構造です。
本コラムでは、個人開業が集中する「ラーメン」「居酒屋」「カフェ」「定食屋」「バー」の5業態を対象に、選ばれやすさと撤退率の高さが同時に成立している理由を構造的に分析します。
感覚論ではなく、業態が内包する前提条件から読み解いていきます。
- 2026年、飲食業界を取り巻く3つの大きな圧力
- 人気5業態における選ばれやすさと撤退の実態
- 融資を受けるために求められる事業計画書の考え方と、事前に整えておくべき要素
変化の激しい時代において、判断を左右する前提条件を整理します。
2026年、飲食業界を取り巻く「不都合な前提」
まず、私たちが立っている土俵の現状を正確に把握する必要があります。
2026年の日本の飲食業界は、個々の努力だけでは回避できない、3つの構造的な圧力に晒されています。
1. インフレの定着と「1,000円の壁」の崩壊
2020年代前半に始まった原材料価格の上昇は、すでに一過性の局面を終えました。
小麦、食肉、食用油に加え、電気・ガスといったエネルギーコストも高止まりしています。
その結果、かつて成立していた「安くて旨い」は、経営者の長時間労働や利益の圧縮なしには成り立たない構造になりました。
価格を上げられない店ほど、体力を削られていく状況です。
2. 「タイパ」志向の定着と外食需要の二極化
消費者は外食に対して、「わざわざ店に行く理由」を以前にも増して厳しく見極めるようになっています。
日常的な食事はコンビニやデリバリーで効率的に済ませる一方、
外食には「非日常性」「体験価値」「強い専門性」を求める傾向が強まっています。
この二極の間に位置する、特徴が曖昧な個人店ほど選ばれにくくなり、最も厳しい競争環境に置かれています。
3. 人件費の上昇と「人」に依存する経営リスク
最低賃金の上昇と労働人口の減少により、人材確保は年々難易度を増しています。
単に人を雇えば回る、という時代はすでに終わりました。
2026年時点での現実的な選択肢は、
「人を雇わずに回る設計をする」か、
「高い報酬を支払っても生産性で回収できるモデルをつくる」か。
中途半端な人員依存は、コストとリスクの両方を抱え込む結果になりがちです。
個人開業が集中する主要5業態と、その参入理由
| 順位 | 業態 | 理由と特徴 |
|---|---|---|
| 1位 | ラーメン店 | 専門性が高く、10坪前後の小箱で高回転を狙えるため。 |
| 2位 | 居酒屋 | 特別な調理技術よりも「人柄」や「空間」で勝負しやすいため。 |
| 3位 | カフェ・喫茶店 | 「好き」を形にしやすく、比較的クリーンな環境で始められるため。 |
| 4位 | 定食屋・大衆食堂 | 日常食として流行り廃りがなく、常連客による安定が見込めるため。 |
| 5位 | バー・スナック | 最も初期投資が低く、店主一人の労働集約型で成立するため。 |
個人店が集中する5つの業態について、その「参入理由(光)」と「廃業理由(影)」、そして2026年版の「生存戦略」を深掘りします。
1. ラーメン店|高回転モデルに潜む修羅場
個人経営の中で最も店舗数が多く、同時にブランド化の成功例も多い業態です。
【光】なぜ参入が集中するのか: 修行先から独立するというルートが比較的明確で、開業後の姿を具体的に描きやすい点が大きな理由です。
10坪前後のカウンター主体の店舗でも、回転率を高めれば月商500万円規模を狙えるモデルが存在し、少人数運営でも成立しうると考えられています。
また、ラーメンは「国民食」と言えるほど市場規模が大きく、集客母数が非常に広いことも参入を後押ししています。
【影】なぜ撤退に至りやすいのか: 大きな要因は、原価管理と労働負荷を同時にコントロールする難しさにあります。
素材や製法へのこだわりが強くなるほど原価率は上がりやすく、40%を超えるケースも一定数見られます。
さらに、早朝からの仕込みを店主一人で担う体制は、数年で心身の限界を迎えやすい構造です。
加えて、近隣に資本力のあるチェーン店が出店した場合、価格や広告投下量で対抗できず、短期間で客足を失うケースも少なくありません。
【2026年版・生存戦略】: 「すべてを店内で完結させる」という前提を一度見直す必要があります。
プロ仕様の濃縮スープやセントラルキッチンを活用し、仕込み時間と労働負荷を削減することで、経営の持続性は大きく改善します。
空いた時間をSNS運用や限定メニュー設計に充てるなど、運営を“スマート化”する発想が不可欠です。
また、一杯1,500円前後を正当化するためには、味だけでなくトッピング構成や店内体験を含めた、ブランドとしての一貫性が求められます。
2. 居酒屋(個人酒場)|「コミュニティ」が諸刃の剣になる業態
居酒屋は、「酒を介した交流」を価値とする、日本独自の外食文化に根ざした業態です。
【光】なぜ参入が集中するのか: 料理や価格帯の幅が広く、店主の人柄や世界観をそのまま店の魅力に転換しやすい点が特徴です。
常連客が定着すれば、広告費をかけずとも一定の来店が見込めるため、景気変動の影響を受けにくい業態と考えられてきました。
【影】なぜ撤退に至りやすいのか: 最大のリスクは、「常連客への依存」です。
特定の客を優遇し続けた結果、初来店の客が入りづらい空気が生まれ、店が内向きのコミュニティ化してしまうケースは少なくありません。
常連の来店頻度が落ちた瞬間に売上が急減する構造は、想像以上に脆弱です。
加えて、若年層を中心とした酒離れが進んだ結果、アルコール消費量に依存する売上モデルそのものが、構造的に縮小局面に入っています。
【2026年版・生存戦略】: 「酒を売る店」から「時間と体験を提供する店」への再定義が求められます。
ノンアルコールや低アルコールのドリンクを充実させ、飲まない客でも客単価3,000円前後を支払える設計をつくること。
また、モバイルオーダーの導入などでオペレーションを効率化し、接客は常時行うのではなく、「必要な場面で濃く行う」形に切り替えることが、持続可能性を高めます。
3. カフェ・喫茶店|「世界観」が収益を圧迫する業態
最も「好き」を起点に開業されやすい一方で、数字上は最も厳しい業態の一つです。
【光】なぜ参入が集中するのか: 内装や家具、食器にこだわり、自分の「理想の空間」を形にしやすい点が大きな魅力です。
他の業態に比べて油や火を使う工程が少なく、営業時間も昼間中心に設計しやすいため、クリーンなイメージがあります。
その結果、飲食未経験者や女性、シニア層の開業も目立つ業態となっています。
【影】なぜ撤退に至りやすいのか: 最大の問題は、固定費と売上構造の関係が十分に計算されていない点にあります。
「家賃を賄うために、コーヒーを何杯売る必要があるのか」という基本的な算数が抜け落ちたまま開業するケースは少なくありません。
客単価が低く、滞在時間が長いという特性上、満席が続いても売上が伸びにくく、結果として赤字状態が常態化します。
忙しさと収益が比例しない、「稼働しているのに利益が残らない」構造に陥りやすい業態です。
【2026年版・生存戦略】: 「カフェ単体」での収益完結を前提にしない発想が必要です。
店内の一部を物販スペースとして活用する、あるいは時間帯を切り替えて夜は会員制バーやイベント利用にするなど、坪当たりの売上を引き上げる設計が不可欠になります。
加えて、テイクアウト比率を50%以上に設定することで、「席数=売上上限」という制約から解放されることが、持続性を高める鍵となります。
4. 定食屋・大衆食堂|「効率」が収益を左右する業態
地域の日常に溶け込む業態である一方、経営面では極めてシビアな判断が求められます。
【光】なぜ参入が集中するのか: 流行に左右されにくく、来店客の属性(近隣住民・会社員など)が比較的明確です。
毎日食べても飽きにくい定番メニューは、継続的なリピートを生みやすく、安定した来店が期待できます。
【影】なぜ撤退に至りやすいのか: 最大の要因は、インフレ環境への対応の遅れです。
「定食は800円台」という過去の価格感覚に縛られ、原価や人件費が上昇しても値上げに踏み切れないまま、利益が削られていくケースが多く見られます。
また、メニュー数を増やしすぎた結果、食材ロスや調理時間が膨らみ、オペレーション全体の効率が著しく低下することも少なくありません。
【2026年版・生存戦略】: メインメニューを3種類程度に絞り込み、選択肢を減らすことが第一歩です。
これにより、注文時の迷いを減らし、調理スピードを上げ、在庫管理を単純化できます。
さらに、ご飯・味噌汁・漬物をセルフサービスに切り替えるなど、人件費を抑えるための徹底した合理化が、2026年時点では現実的な勝ち筋となります。
5. バー・スナック|「属人性」を内包した業態
最も小資本で始めやすい一方、人に強く依存する構造を持つ業態です。
【光】なぜ参入が集中するのか: 本格的な厨房設備を必要とせず、居抜き物件も多いため、初期投資を比較的抑えて開業できます。
店主自身の接客や人柄がそのまま店の価値となりやすく、原価率も低く設計しやすいことから、来店が安定すれば高い利益率を確保できる可能性があります。
少人数、あるいは一人で完結する運営モデルを描きやすい点も、参入を後押ししています。
【影】なぜ撤退に至りやすいのか: 最大のリスクは、売上が店主個人の稼働に直結している点です。
病気や怪我、家庭の事情などで店主が店に立てなくなった瞬間、営業そのものが止まり、キャッシュフローが途絶える構造になりがちです。
また、深夜営業を前提とした不規則な生活は、長期的には体力だけでなく判断力にも影響を及ぼし、経営判断の質を下げていく要因になり得ます。
【2026年版・生存戦略】: 「店主がいなくても成立する要素」を意図的に組み込むことが重要です。
例えば、希少なウイスキーやカクテルのコレクション、音響やオーディオへの強いこだわり、あるいは特定の趣味(映画、音楽、登山、ITなど)に特化したライブラリー機能を持たせることで、来店動機を店主個人以外にも分散させることができます。
店主は常に主役である必要はなく、「場を設計する側」に回ることで、属人性のリスクを緩和することが可能になります。
なぜ「個人」は失敗を繰り返すのか ― 構造的な欠陥の正体
多くの個人店主が同じような形でつまずく背景には、いくつかの共通した構造があります。
それは能力や努力の問題というより、最初の前提設定のズレに起因しています。
1. 「技術者」で止まり、「経営者」になれていない
「美味しいものを作れば売れる」という考え方は、供給が限られていた時代には成立していました。
しかし現在は、選択肢が過剰な市場です。
飲食店経営において重要なのは、「いかに知ってもらうか(集客・導線設計)」と「いかに利益を残すか(原価・固定費管理)」であり、これらが実務の大半を占めます。
調理は依然として重要ですが、経営全体で見れば一要素に過ぎず、技術だけでは継続性を担保できない構造になっています。
2. 初期投資に予算を使い切ってしまう
仮に開業資金が1,500万円あった場合、そのすべてを内装や設備に投じてしまうケースは少なくありません。
しかし、2026年時点での現実的な考え方は、「総予算の少なくとも3割は運転資金として確保する」ことです。
開業直後は想定通りに客数が伸びない期間が必ず発生します。
半年程度、売上が低迷しても耐えられる資金的余裕があることで、過度な値下げや無理な集客に走らずに済み、結果としてサービス品質や判断の安定につながります。
3. 「自分」を過信し、「仕組み」を軽視する
「自分なら休みなく働ける」「この立地でも自分なら客を呼べる」。
こうした前提は、短期的には成立しても、長期的には破綻しやすい考え方です。
個人店であっても、店主が体調不良で1週間店に立てなくなった場合を想定し、
最低限のキャッシュの蓄えや業務の簡素化、自動化を初期段階から組み込む必要があります。
属人的な努力ではなく、止まっても致命傷にならない設計が、継続の分かれ目になります。
2026年版・融資を勝ち取る「大人の事業計画書」
個人飲食店が日本政策金融公庫や地方銀行から融資を受ける際、
担当者が見ているのは情熱や夢ではなく、数字と前提の整合性です。
1. 「楽観」ではなく「悲観」に寄せた売上計画
評価されやすいのは、最悪のケースを想定した計画です。
例えば、平日の雨天時など、客数が想定の40%程度まで落ち込んだ場合でも、
家賃や返済が滞らない設計になっているかどうか。
一方で、「毎日満席」を前提にした計画は、根拠が薄く、リスク管理が甘いと判断されやすくなります。
2. 明確な「出口戦略」の提示
万が一、経営が想定通りに進まなかった場合、どの段階で、どのように損切りするのか。
居抜き物件としての売却可能性や、EC販売など別チャネルへの転換案が示されている計画は、
「撤退まで含めて考えられている」と評価されやすくなります。
逃げ道の存在は、無責任さではなく、リスク管理能力の証明です。
3. 事業と生活費を完全に切り分ける
「「お店の利益で生活する」という説明は、融資審査ではマイナスに働きがちです。
評価されるのは、「役員報酬として毎月いくらを支払い、社会保険料を含めた上で、事業としてどれだけ利益が残るか」という視点です。
個人事業であっても、法人経営に近い思考で数字を組み立てているかどうかが、信頼性を左右します。
個人店主が2026年に導入すべき「3つの武器」
資本力で大手に対抗することが難しい個人店にとって、
現実的な競争軸は「スピード」と「デジタルの使い方」です。
以下は、2026年時点で導入効果が高いと考えられる3つの武器です。
① イインスタ・TikTokの「運用」から「資産化」へ
毎日投稿を続けること自体は、個人店にとって大きな負担になりがちです。
それよりも重要なのは、来店客が自然に撮影し、共有したくなる環境を設計することです。
照明、盛り付け、背景、カウンター越しの動線などを工夫し、
客自身が発信者になる「UGC(ユーザー生成コンテンツ)」の構造をつくる。
これにより、広告費をかけずとも継続的に露出が生まれる“資産型の集客”が成立します。
② モバイルオーダーとセルフレジの「役割分担」
デジタル導入に対して、「接客が冷たくなるのではないか」と不安を抱く店主も少なくありません。
しかし多くの来店客は、注文のために店員を呼び、待たされる時間そのものにストレスを感じています。
注文や会計はシステムに任せ、人は
「料理の感想を聞く」「おすすめや限定情報を伝える」といった、
付加価値の高いコミュニケーションに集中する。
この役割分担こそが、満足度と効率を同時に高める設計です。
③ 「サブスク」と小さなファンコミュニティ
月額1,000円でコーヒー1杯無料、あるいは会員限定の裏メニューや先行案内。
こうした小規模な定額制を導入することで、
「雨の日でも来店する理由」と「毎月一定額が入る安定」をつくることができます。
重要なのは、大規模に広げることではなく、
“通ってくれる少数の客”との関係を仕組みとして固定化することです。
終わりに ― 飲食店経営は「自由」か、それとも「拘束」か
飲食店を経営するということは、自分の場所を持つということです。
それは大きな自由を与えてくれる一方で、
設計を誤れば、自分自身を店という箱に縛りつける結果にもなり得ます。
その差を分けるのは、才能や根性ではありません。
事前の準備と、手放す判断です。
- すべての客に好かれようとしない。
- すべての料理を完璧にしようとしない。
- すべての時間を仕事に捧げようとしない。
「何をやらないか」を決めることこそが、
2026年の個人店主にとって、最も現実的で強力な戦略になります。
開業前に自分に問いかけるべき10の質問
1. そのメニューは、半径500m以内の競合店が明日から簡単に真似できないものか?
2. 原材料費がさらに20%上昇しても、客に対して納得感のある値上げを告げられるか?
3. SNSで一切拡散されなかったとしても、その店には通う理由が残るか?
4. 自分が1ヶ月入院しても、店(あるいは生活費)は維持できる設計になっているか?
5. 家賃は、想定売上の10%以下に収まっているか?
6. その内装費を、「趣味」ではなく「投資」として数字で説明できるか?
7. 看板メニューの原価・粗利・利益を、1円単位で把握しているか?
8. 想定している客層が、実際にそのエリアを歩いているのを自分の目で数えたか?
9. 自分の労働時間を時給1,500円として計算しても、事業として利益は残るか?
10. 何よりも、その店をオープンすることに、「経営者としてのワクワク」はあるか?
この10問は、
1つでも「答えたくない質問」があるなら、そこが最大のリスクです。
すべてに即答できる人だけが、
「好き」ではなく「事業」として飲食店を始める準備が整っています。
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※「まだ構想段階」でも問題ありません。無理な勧誘は一切いたしません。
運営元:リディッシュ株式会社について
リディッシュ株式会社(REDISH) は、日本の飲食業界に特化した 飲食店経営支援サービスを提供するスタートアップ企業 です。2015年に創業され、飲食店が本来の料理やサービスに集中できるよう、経営のさまざまな側面を テクノロジーと専門知識でサポート しています
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