Column
コラム
【この記事を監修した人】
公認会計士 松隈剛
公認会計士の資格を取得後、トーマツ監査法人で公開監査に従事。 その後、PwCでM&Aを担当。スパークスグループにてファンドマネージャーとして活躍。2015年にリディッシュ株式会社を創業。提携税理士法人であるクロスポイント税理士法人にシニアアドバイザーとしてジョイン。これまでに1,000店舗以上の飲食店経営を支援し、会計・税務、融資、集客などの経営課題を解決。
飲食店開業時に最も活用される日本政策金融公庫の創業融資の審査において、創業計画書(事業計画書)は最も重要だと言っても過言ではありません。ただし、その時作る事業計画の重要性はお金を借りるときだけではないということ――これを知っているか知らないかで、開業後の飲食店が成功するかどうかが決まります。 このコラムでは、具体的な書き方とポイントをできるだけ詳しく解説するだけでなく、本当に役立つ事業計画の作り方や活用方法を解説します。長文になるので、書き方を知りたい方は具体的な書き方の部分だけをまず見てもらえればと思います。 コラムの最後に特に記入フォーマットを用意しているので、穴埋め方式でかなり書きやすくなると思います。
そのあとに、次のコラム「開業後に役立つ事業計画書の活用法」もぜひみてください。お金を借りて、お店をオープンするのは大変ですが、それは始まりにすぎません。オープンした後が本当の勝負です。 本質的な事業計画の活用方法を学び、これから作っていくお店を長くお客さまに愛されるものにしていきましょう。
目次
創業融資と事業計画書の関係性
創業融資を申し込む際、提出が求められる創業計画書(事業計画書)は審査の要となる書類です。事業の実績がまだない創業時には、金融機関はこの計画書の内容をみて「貸しても大丈夫か」、つまり返済の可能性を重点的に判断します。
日本政策金融公庫のホームページでも、「適正な事業計画を策定し、それを遂行する能力がある方」に限定して融資を行うことを公式に明言しています。 jfc.go.jp
つまり、事業計画書の出来如何が創業融資の合否を大きく左右するのです。
創業計画書が重要視される理由は、計画書が定量的に事業の将来性や経営者の考えを示す唯一の材料だからです。創業の動機、事業の内容、市場の状況、資金の使い道や収支見通しといった情報がしっかり記載されていて、かつ最も重要なのは、その記載内容に説得力を持たせるための一貫性があるかどうかです。 それがあれば融資担当者も事業の成功可能性を具体的にイメージできます。反対に内容が薄かったり不明確だったりすると、「この計画で本当に大丈夫か?」と不安視され、審査通過は難しくなります。
また、創業融資の審査は事業計画だけでなく、面談も実施され、経営者本人の経験やスキル、返済能力、信用力も総合的に見られます。
しかしそれらも最終的には事業計画書の中で示されるものです。例えば過去の業務経験や自己資金の額も計画書に記載します。したがって、創業計画書は単なる書類ではなく、自分の経営者としての適性やお店の将来をアピールするプレゼン資料と言えます。しっかりと作り込んだ計画書を用意しましょう。
創業計画書の具体的な書き方(飲食店向け)
では、実際に飲食店向けの創業計画書はどのように作成すればいいのでしょうか。日本政策金融公庫の創業計画書フォームに沿って、飲食店ならではのポイントも踏まえながら主な項目を解説します。計画書を書く際は、あなたの店のコンセプトや強みがしっかり伝わるよう意識しましょう。飲食店の計画書では、特に事業改革の数字の裏付けとなるお店の強みやコンセプトを明確に伝えることが重要です。言葉で記入する項目と数字で記入する項目に矛盾がないことが求められます。 審査担当者は貸したお金が返済できるかどうかを見ています。ここが伝わらないと融資を受けるのが難しくなる傾向があります
本コラムでは、できるだけ簡単に書けるように、記入フォーマット補足:記入フォーマット と、コラムの最後に記入の具体例とポイント補足:記入の具体例とポイント をつけています。
創業計画の中で特に難しい部分は、2つに分かれます。
- ひとつは、日本政策金融公庫の創業計画書のフォーマットにあわせて記載する必要があるので、限られた文字数・言葉でアピールが必要なことです。
- ふたつめは必要資金や事業の見通しの定量的な数字を一つ目と矛盾がないように作成する必要があることです。
1. 記入が難しい創業計画書の記入項目1(定性情報)
われわれが数々の飲食店の創業融資のサポートを手掛ける中で、コンパクトな表現でアピールをするために、記載が特に難しい部分のひとつ目は以下の項目です。
- 1.創業の動機(200文字程度)
- 2.取扱商品・サービス
- 事業内容(100文字程度)
- セールスポイント(150文字程度)
- 販売ターゲット・販売戦略(150文字程度)
- 競合・市場など企業を取り巻く状況(150文字程度)
以下、順番に記載例を示しながらポイントを解説します。
1.創業の動機: (200文字程度)
なぜ飲食店を開業しようと思ったのか、そのきっかけや熱意を記載します。開業に向けどんな準備をしてきたか、計画性をアピールしましょう。例えば「〇年間飲食業に従事し経験を積んだ上で、磨いてきた〇〇の料理を提供し、お客さまを喜ばせたい」など具体的に書くと良いです。
2.取扱商品・サービス
- 事業内容(100文字程度)
どういうお客さまに(誰に)どんな特徴を持った何を提供するお店なのか簡潔に記載します。
- セールスポイント
「セールスポイント」は商品・サービス魅力を詳細を伝えるところで、他店と異なる「とくにお店の強みとして強調したいこと」を記入します。言葉を変えていうと、お客さまに選ばれる理由を記載するところです。
- 販売ターゲット・販売戦略(150文字程度)
: 想定する主な顧客層(ターゲット)は誰かと、顧客のニーズを記載します。例えば「オフィス街のビジネスマン向けにランチと夜の居酒屋需要を狙う」「若い女性がSNSでシェアしたくなるスイーツカフェ」など具体的に描きます。また出店予定地域の競合店や立地の人通り、周辺の客層の情報も書き添えると説得力が増します。ターゲットに対してどのように認知して来店してもらうかの戦略も記載します。チラシ配布やSNS活用、グルメサイトへの掲載、オープニングキャンペーンなど、具体的な集客施策を書くと良いでしょう。飲食店は開店直後の集客が肝心なので、その計画が練られていると評価されます。
- 競合・市場など企業を取り巻く状況(150文字程度)
「競合・市場など企業を取り巻く状況」は、なぜ選ばれるかを伝えるところです。「競合・市場など企業を取り巻く状況」では、他の飲食店との差別化ポイントや、地域特性などを記入します。
どういうお客さまに(誰に)どんな特徴を持った何を提供するお店なのか簡潔に記載します。
「セールスポイント」は商品・サービス魅力を詳細を伝えるところで、他店と異なる「とくにお店の強みとして強調したいこと」を記入します。言葉を変えていうと、お客さまに選ばれる理由を記載するところです。
: 想定する主な顧客層(ターゲット)は誰かと、顧客のニーズを記載します。例えば「オフィス街のビジネスマン向けにランチと夜の居酒屋需要を狙う」「若い女性がSNSでシェアしたくなるスイーツカフェ」など具体的に描きます。また出店予定地域の競合店や立地の人通り、周辺の客層の情報も書き添えると説得力が増します。ターゲットに対してどのように認知して来店してもらうかの戦略も記載します。チラシ配布やSNS活用、グルメサイトへの掲載、オープニングキャンペーンなど、具体的な集客施策を書くと良いでしょう。飲食店は開店直後の集客が肝心なので、その計画が練られていると評価されます。
「競合・市場など企業を取り巻く状況」は、なぜ選ばれるかを伝えるところです。「競合・市場など企業を取り巻く状況」では、他の飲食店との差別化ポイントや、地域特性などを記入します。
たとえ公庫のフォーマット欄が狭くても、別紙を活用して詳細に記載するくらいの意気込みで作成すると、熱意と準備の丁寧さが伝わります。
2. 記入が難しい創業計画書の記入項目2(定量情報)
記載が特に難しい部分のふたつ目は定量情報である、以下の①必要資金と調達方法と事業の見通しです。 この定量情報と一つ目の創業動機やセールスポイントなどの定性情報に一貫性が求められます。
①必要な資金と調達方法」は借入希望額と資金用途を記載するところです。
融資を受けるには、どのようにお金を準備して、何にお金使うか、説明する必要があります。以下、記入例です。 これらの設備資金や運転資金は後述する事業の見通しと整合した数字である必要があります。 例えば、特に家賃や内装・厨房機器と、運転資金の部分は事業の見通しの数字と整合する必要があり、本来はエクセルなどの表計算ソフトで、裏付けとなる事業計画書を詳細に作ってから、転記するのが理想です。
難しい場合は、専門家に相談するか、まず自己資金から借入可能額(通常自己資金の3ー4倍程度)を算定し、そこから達成可能な月商(※)と家賃を決め、残りの使える金額で、必要なものに割り振っていきながら算定します。
※ 通常、必要資金の最大3倍以内 合計1000万の場合、売上月商200万程度、業態によって異なる、客単価が高いと設備に比べて客が回転しないため低めだが利益率は高くなる傾向
<当社が手掛けた実際の例>
必要な資金 | 見積先 | 金額 | 調達の方法 | 金額 | |
---|---|---|---|---|---|
設備資金 | 688万 | 自己資金 | 200万円 | ||
厨房機器 備品 物件取得 内装工事費 |
0 10 353 325 |
親、兄弟、知人、友人等からの借入 | |||
日本政策金融公庫からの借入 | 657万円 | ||||
運転資金 (目安2,3か月分) |
商品仕入 家賃 人件費 その他経費 |
169万円 56 31 45 37 |
他の金融機関からの借入 | 0万円 | |
合計 | 857万円 | 合計 | 857万円 |
設備にかかる費用は「設備資金」に記入
設備にかかる費用は、「設備資金」に記入します。事業をするために購入が必要な設備は、全て記入します。
設備資金には、次のようなものが入ります。
- 物件の敷金・保証金
- 物件の内装費・テーブル・椅子、冷暖房機器
- 厨房の調理機器
- ホームページ作成費
- 看板
- レジなどのIT機器
あらかじめ、必要なものをリストアップし、必要な設備にいくらかかるのか計算しておきましょう。なお、設備資金にはすべて見積書が必要です。見積書は、購入先に依頼して作成してもらえます。
運営にかかる費用は「運転資金」に記入
事業の運営にかかる費用は、「運転資金」に記入します。運転資金は2~3ヶ月分を目安に借入を検討しましょう。
運転資金には以下のようなものがあります。
項目 | 主な用途 |
---|---|
人件費 | 従業員やアルバイトの給与 |
家賃 | 店舗の家賃や駐車場の料金 |
支払利息 | 借入金の利息 |
広告宣伝費 | 口コミサイトへの登録料やSNSでの宣伝費用など |
備品費 | 箸や調味料入れ、トイレットペーパー、おしぼりなど |
水道光熱費 | 水道代、電気代、ガス代 |
通信費 | インターネットなどの通信料 |
外注費(顧問料) | 税理士や社労士などに支払う費用 |
飲食店を開業する人は、お店を運営する上でかかる費用を洗い出して、1ヶ月あたりどれくらい必要か確認しましょう。
⓶事業の見通し(月平均)」は収益性を記載するところです。
融資担当者は、事業の収益や、収益から返済ができるかを確認します。「⑧事業の見通し(月平均)」では、売上の根拠を明らかにして、事業計画を伝える必要があります。
実際の例を掲載
創業当初 | 軌道に乗った後 | 売上高 | ||
---|---|---|---|---|
売上高① | 100万円 | 168万円 | 【創業当初】 売上高1,482,000円(原価率33%) ランチ:@1,000✕20席✕26日✕1回転=520,000円 ディナー:@4,000✕20席✕26日✕0.4回転=832,000円 テイクアウト:@1,000✕5食✕26日=130,000円 人件費:240,000円、家賃:150,000円 その他:光熱費、通信費、消耗品費、支払手数料など 【軌道に乗った後】 |
|
売上原価② | 30万円 | 51万円 | ||
経費 | 人件費 | 22万円 | 28万円 | |
家賃 | 16万円 | 16万円 | ||
支払利息 | 2万円 | 2万円 | ||
その他 | 22万円 | 25万円 | ||
合計③ | 62万円 | 70万円 | ||
利益①-②-③ | 8万円 | 48万円 |
個人事業主の場合は、利益から生活費や借入金の返済費を工面できるかどうかを確認しましょう。
売上の根拠が分かるように計算式を記入する
創業計画書の「⑧事業の見通し(月平均)」では、売上の根拠が分かるように計算式を記入します。売上の根拠が曖昧だと、事業計画が不十分だとみなされる傾向があります。そのため、「⑧事業の見通し(月平均)」を記入するときは、計算式を使って、どのように売上を算出しているかを説明する必要があります。
たとえば、飲食店の売上は、「客単価✕席数✕営業日数✕回転率」から計算できます。
飲食店における売上計算方法の一例
- 客単価:1,000円
- 席数:20席
- 営業日数:26日
- 回転率:1回転
- 売上:1,000円✕20席✕26日✕1回転=520,000円
また、売上の根拠を記入する人は、「ランチやディナーなどのサービス構成」や「休日や平日などの曜日」で分けて計算するとより具体的に売上を記入できます。
- ランチ:@1,000✕20席✕26日✕1回転=520,000円
- ディナー:@4,000✕20席✕26日✕0.4回転=832,000円
- テイクアウト:@1,000✕5食✕26日=130,000円
日~水:@4,000✕20席✕18✕0.3回転=432,000円
金土:@4,000✕20席✕8日✕0.6回転=384,000円
※1ヶ月30日、定休日は週1(木曜日)、ディナーのみの営業の場合
「⑧事業の見通し(月平均)」を作成する人は、事業の実態にあわせて「サービス構成」や「曜日」で分けて計算式を記入しましょう。
実際の実務においては、公庫のフォーマットの数字を作成するのに、以下の例のようにエクセルなどの表計算ソフトを使って、数字に矛盾がなく説明できるように組み立てます。
<事業計画 具体例 一部のみ公開>
創業融資審査を通過するためのポイント
創業計画書を作成したら、それをもとに融資審査を乗り切るための戦略も考えておきましょう。日本政策金融公庫の審査でチェックされる重要ポイントと、面談や計画書でアピールすべき点を整理します。全てポイントに共通するのは、経営者が信頼でき、事業を軌道に乗せる能力があり、お金が返ってくるかどうかというポイントです。 審査担当者は創業計画書の内容と、面談を通してそれを見ていることに留意してください。
- 自己資金と資金計画の妥当性:
- 自己資金は多いに越したことはありませんが、特に融資希望額に対し自己資金がどれくらい占めるかが見られます。一般に自己資金の3~4倍程度が融資の上限目安と言われます。
- 計画書では自己資金額を明記し、不足分の融資についても使い道を明確に示しましょう。たとえば内装工事費〇〇万円、設備費〇〇万円など具体的な用途と金額を書き、見積書を用意します。資金の使途が不明瞭だと「本当にその額が必要?」と疑われてマイナス評価になるので注意が必要です。逆に、必要資金の根拠が明確で説得力があれば信頼感が増します。
- 事業計画の実現可能性:
- 計画書の内容が現実的で筋が通っていることは絶対条件です。
- 数字の裏付けや根拠があるか、無理な仮定や矛盾がないかを自分でも入念にチェックしましょう。
- 審査担当者は事業計画書を細かく読み、少しでも不自然な点があると指摘してきます。「根拠のない急激な売上増加」や「売上が伸びているのに仕入れや人件費が不自然に減少している」など矛盾した計画では信頼を得られません。計画書提出前に第三者の視点で見てもらい、不明点や疑問が残らない内容にブラッシュアップしましょう。数字面だけでなく、事業コンセプトと市場ニーズが合致しているか、経験・スキルと計画内容に齟齬がないかなども確認が必要です。
- 経営者の経験・スキルのアピール:
- 事業を成功させるためのスキルや知識を持っているかは重要な審査ポイントです。
- 創業計画書の「経営者の略歴」欄や別紙を活用して、飲食業での経験年数や専門知識、資格、人脈などをしっかりアピールしましょう。たとえば「調理師として10年間フレンチレストランに勤務し、副料理長を務めた経験あり」「以前の勤務先で店舗マネジメントやスタッフ教育を担当していた」など具体的な実績を書くことで、計画の実現可能性にも説得力が増します。また「仕入先との強固なコネクションがある」「開業予定地の地元コミュニティで協力者がいる」といった強みもプラス材料です。面談でも突っ込まれる部分なので、口頭でもスムーズに説明できるよう準備しておくと安心です。
- 返済計画と収支バランス:
- 融資ですから、返済していけるだけの利益が出る見込みかは最大の関心事です。
- 事業計画書の収支見通し欄や別途作成する収支計画表において、毎月いくらの売上に対し経費がいくらかかり、何年で返済完了する計画かを明示しましょう。日本政策金融公庫の場合、返済期間は運転資金で最長10年程度(据置期間※含む)ですので、自身の計画で無理なく返せるペースになっているか確認が必要です。
- 計画上は黒字でも、利益率が低すぎる場合は返済が滞るリスクがあります。一般に飲食店の営業利益率は10〜15%程度と言われますが、自店の業態で適切な水準になっているかチェックしましょう。計画書では「〇年目から月々〇万円の返済を開始し、〇年で完済予定。その間も資金繰りは問題なく回る見込み」といった形で触れておくと、担当者も安心します。
以上のポイントを押さえておけば、創業融資の審査通過率は格段に上がります。まとめると「自己資金の割合」「計画の現実性」「経験の有無」特に「返済可能性」が肝と言えるでしょう。
創業計画書ではそれらを過不足なく伝えることが大切です。なお、審査では計画書の内容について担当者との面談も行われます。書類に書いてあることをベースに質問されますので、矛盾なく自分の言葉で説明できるよう準備しておきましょう。
よくある失敗とその回避策
最後に、創業計画書に関して飲食店オーナー志望者が陥りがちな失敗と、その回避策について触れておきます。同じ失敗をしないよう、事前にチェックしましょう。
- 【失敗例1】計画書の内容が抽象的すぎる・肝心なことが書かれていない。
「熱い想い」は伝わるが具体的な事業計画が書かれていないというケースです。
例えば「お客様に愛されるお店にしたい」という熱意だけを書いて、肝心のビジネスモデルやマーケティング戦略が不明瞭では審査担当者は評価しようがありません。また、自分が伝えたいことばかりを書いて審査担当者が知りたいであろう情報(売上見込みの根拠や顧客像、返済計画など)が抜け落ちている計画書も散見されます。
対策としては、上述のチェックポイントに沿って網羅的に情報を盛り込むこと、第三者に読んでもらい「何が書いてあるかわからない箇所はないか」を確認することが有効です。読む人の立場に立って、過不足なく具体的に記載しましょう。
- 【失敗例2】計画に数字の裏付けがない、または数字に矛盾がある。
飲食店開業の計画でありがちなのが楽観的すぎる売上予測です。根拠がないのに「毎月売上が右肩上がりに伸びていく」ようなグラフを描いていたり、逆に経費については都合よく縮小傾向で見積もってしまったりすると説得力がないものになります。
審査担当者はその道のプロですから、数字の整合性を厳しく見ます。例えば「席数20席のカフェで月商500万円」と書けば明らかに非現実的ですし、「売上が倍増しているのに食材仕入れ費は据え置き」では矛盾しています。
計画の数字には必ず根拠を用意し、一貫性を保ちましょう。必要なら注釈や別紙で算出根拠を示すくらい丁寧に準備すると安心です。
- 【失敗例3】テンプレートのコピペに頼りすぎる。
創業計画書のひな形や記入例はインターネット上にも多く出回っています。これらは書き方の参考にはなりますが、そのまま写すのは厳禁です。審査担当者は日々多くの計画書を目にしているため、紋切り型の文章やありきたりな表現はすぐに見抜かれます。
「またこのパターンか」と思われては印象にも残りませんし、熱意も伝わりません。記入例を参考にしつつも、自分の言葉で自分の事業に即した内容を考えて書くことが大切です。あなたの計画ならではのエピソードやデータを盛り込めばオリジナリティが出ます。
本コラムでは、記入フォーマットを用意して書きやすいようにしていますが、そのフォーマットに当てはめた後に、可能であれば自分の言葉に書き換えてください。また面談時の自らの言葉による説明も重要です。
まとめと次のステップ
飲食店の創業融資において事業計画書がいかに重要か、そしてその計画書が開業後の経営にも直結するものであるかを解説してきました。創業計画書は単なる融資用書類ではなく、あなたのビジネスの設計図です。しっかりと作り込み、融資担当者にも自分自身にも響く計画を作成することで、融資審査の突破率も開業後の成功率も高まります。
初めて計画書を作るときは戸惑うかもしれませんが、本記事で紹介したポイントを押さえて一つずつ埋めていけば大丈夫です。もし不安な点があれば専門家に相談したり、先輩経営者の意見を聞くのも良いでしょう。計画段階で流した汗は、きっと未来の成功につながるはずです。
次のステップ: 事業計画の重要性を踏まえたら、実際にあなたのプランを形にしてみましょう。日本政策金融公庫の公式サイトから創業計画書の様式をダウンロードし、書き方のポイントをチェックしながら記入を進めてみてください。完成した計画書をもとに、日本政策金融公庫などへの創業融資の申し込みに挑戦しましょう。そして何より、計画書に込めた思いと戦略を胸に、理想の飲食店開業に向けて踏み出してください。
補足:記入フォーマット
【創業の動機 約200文字】
●●(例:大学在学中のアルバイト経験)を経験し、〇〇(例:独自の辛味スープや多彩なトッピング)の魅力に触れることで、〇〇(例:若者に新鮮な刺激を与えたい)という想いが生まれました。
そして、●●(例:独自研究の積み重ね)を重ねると同時に、自己資金を着実に貯め、業態にあった●●(例:駅前好立地の)物件にやっと巡り合い確保しました。
夢の実現に向け、挑戦する覚悟と具体的な計画をもって創業を決意いたしました。
(約200文字)
< 参照した具体例 >
【創業の動機(約200文字)】
私は大学在学中、深夜営業のラーメン店でアルバイトを経験し、独自の辛味スープや多彩なトッピングの魅力に触れました。
若者に新鮮な刺激と話題性を提供したいという想いから、これまで独自研究を重ね、自己資金を積み立て駅前好立地の物件を確保。
夢の実現に向け、挑戦する覚悟と計画をもって創業を決意いたしました。
(約200文字)
解説:
- 経験の具体性: 実際に経験したエピソード(例:大学在学中のアルバイト)を明記することで、情熱や実績が伝わります。
- 魅力の明示: 独自のメニューやサービスの魅力を具体的に表現し、他店との差別化を強調。
- 実現可能性の裏付け: 自己資金の準備や物件確保など、具体的な取り組みを示すことで、計画の現実性と信頼性をアピールできます。
ケース1:ラーメン店(若者向け)
創業の動機(約200文字)
例文:私は大学在学中、深夜営業のラーメン店でアルバイトを経験し、独自の辛味スープや多彩なトッピングの魅力に触れました。若者に新鮮な刺激と話題性を提供したいという想いから、これまで独自研究を重ね、自己資金を積み立て駅前好立地の物件を確保。夢の実現に向け、挑戦する覚悟と計画をもって創業を決意いたしました。
解説: 過去のアルバイト経験や独自研究の積み重ねを具体的に示すことで、情熱と実績をアピール。自己資金の準備や好立地物件の確保など、実現可能性への具体的な取り組みを明記している点がポイントです。
事業内容(約100文字)
例文:独自ブレンドの辛味スープと手作り麺によるオリジナルラーメンを中心に、選べるトッピングやサイドメニューも充実させた店です。
解説: 主力商品(オリジナルラーメン)と付随するサービス(選べるトッピング・サイドメニュー)を明確に記載し、事業内容が一目で理解できる内容です。
セールスポイント(約150文字)
例文:独自配合スパイスで作る辛味とコクの絶妙なバランス、SNS映えする彩り豊かな盛り付けが強みです。他店にはない限定メニューや季節メニューを随時展開し、若年層の注目とリピーターの獲得を狙います。
解説: 独自のスパイス配合やビジュアル面での工夫を挙げ、他店との差別化を図っています。限定・季節メニューの展開で常に新鮮さを提供し、リピーター獲得を狙う狙いです。
販売ターゲット・販売戦略(約150文字)
例文:主に大学生や20~30代の若者をターゲットとし、公式SNSで新メニューやイベント情報を発信。来店促進のため、初回来店割引やリピーター向けクーポンを実施し、口コミ拡散とインフルエンサーとの連携で認知度向上を図ります。
解説: ターゲットを明確に定め、具体的なプロモーション施策(SNS、割引、口コミ、インフルエンサー連携)を盛り込むことで実現性を示しています。
競合・市場状況(約150文字)
例文:駅前エリアには大手チェーンや個人店が存在する中、ラーメン需要は根強く高い市場環境です。既存店は定番メニュー中心ですが、当店は独自性ある辛味メニューで差別化。若者向けの斬新なコンセプトにより、激しい競争の中でも安定した集客が期待できます。
解説: 競合環境を正直に記載しつつ、根強い需要を背景に独自の辛味メニューで差別化できる点をアピールしています。
ケース2:カフェ(近隣住民向け)
創業の動機(約200文字)
例文:大手カフェチェーンで7年間バリスタとして勤務し、自家焙煎の技術を習得。地元住民が気軽にくつろげる憩いの場を提供したいという思いから、独自のコーヒーとスイーツで地域コミュニティを育てる夢を実現すべく、自己資金を積み重ね、好立地の店舗を確保。今こそ地域密着型のカフェを創業する時と判断いたしました。
解説: バリスタとしての経験や自家焙煎技術を具体的に示し、専門性と実績が伝わります。地域コミュニティを育むという具体的なビジョンが、創業動機として説得力を増しています。
事業内容(約100文字)
例文:自家焙煎豆を使用したスペシャルティコーヒーと、旬の素材を活かした自家製スイーツを提供するカフェです。
解説: 提供する商品(コーヒー、スイーツ)が明確に伝わり、店のコンセプトが一目で理解できます。
セールスポイント(約150文字)
例文:豆の焙煎から抽出まで一貫管理し、常に新鮮な味わいを実現。シングルオリジンの選択や季節限定スイーツ、木調の落ち着く店内空間で、他チェーンとの差別化を図ります。
解説: 自家焙煎やシングルオリジン豆といった品質へのこだわり、内装など環境面も含めた差別化が明示されています。
販売ターゲット・販売戦略(約150文字)
例文:近隣在住の30~60代やビジネスマンを主なターゲットとし、地域フリーペーパー・チラシ配布、SNSやイベント(コーヒー教室等)で認知拡大。ポイントカード制度で常連客を獲得し、口コミによる集客も強化します。
解説: 対象となる顧客層を具体的に設定し、地域密着のプロモーション施策を実施する点が強みです。
競合・市場状況(約150文字)
例文:周辺には大手チェーンやコンビニもあるが、独自焙煎の高品質コーヒーと落ち着いた空間は希少です。テレワーク普及に伴い、昼間の利用需要も増加。品質重視の顧客層に向けた差別化で、地域市場で優位性を発揮できると判断しています。
解説: 競合店の存在を認識しながらも、独自の品質や空間作りで差別化できる点、市場トレンドを踏まえた分析が説得力を増しています。
ケース3:居酒屋(会社員・地域住民向け)
創業の動機(約200文字)
例文:地元飲食店で10年以上調理・接客を経験し、地域密着型の居酒屋を夢見ました。地元農家や漁協との連携により新鮮な食材を安定供給できる体制を整え、自己資金を計画的に準備。好立地の駅近物件を確保できたことから、会社員や地域住民が気軽に立ち寄れるアットホームな居酒屋を創業する決意に至りました。
解説: 飲食業界での豊富な経験や地元食材の仕入れルート、好立地物件の確保など、実績と準備状況が具体的に伝わります。
事業内容(約100文字)
例文:地元産の鮮魚・野菜を使った日替わり小皿料理と、リーズナブルな価格設定のドリンクを中心に提供する居酒屋です。
解説: 日替わりメニューや低価格戦略を通して、来店しやすさとリピートしやすい店舗運営が明示されています。
セールスポイント(約150文字)
例文:新鮮な地元食材を活かし、毎日変わるメニューで季節感を演出。リーズナブルな価格設定と、店主自らの温かい接客で、初来店でも安心して楽しめる雰囲気を提供します。
解説: 季節感を出す日替わりメニューと、低価格かつ温かい接客で、他店との差別化を図っています。
販売ターゲット・販売戦略(約150文字)
例文:主に駅近の会社員と地域住民をターゲットとし、駅前でのチラシ配布や早割ハッピーアワーを実施。週末のミニイベントやポイントカード制度で、リピーター獲得と口コミ拡大を図ります。
解説: 具体的なターゲット層を設定し、ハッピーアワーやミニイベント、ポイントカード制度など、集客・リピーター獲得の施策が実践的です。
競合・市場状況(約150文字)
例文:駅前はチェーン居酒屋や多様な飲食店がひしめく中、低価格かつ家庭的な雰囲気の店は少数。地元食材と温かい接客により、働く人々や地域住民の隙間需要を的確に捉え、安定した集客が見込まれます。
解説: 多くの競合が存在するエリアで、家庭的な雰囲気と低価格戦略による隙間市場を狙う点を強調。地元に根ざした店舗運営の強みが明確です。
ケース4:和食店(家族連れ向け)
創業の動機(約200文字)
例文:和食料理人として15年間、旅館や飲食店で修行し、健康志向の和食メニューを研究。自身が子育てを通し、外食時に家族全員が安心して利用できる店の必要性を痛感。栄養士資格も活かし、自己資金を準備。家族連れに優しい広い店舗を確保したため、安心・健康をテーマに和食店を創業する決意を固めました。
解説: 長い修行経験や栄養士資格を通じた専門性、さらに子育て経験から生まれた熱意が伝わります。家族全員が安心できる店舗運営への具体的な準備状況が、信頼性を高めています。
事業内容(約100文字)
例文:玄米や旬野菜を使用した健康定食と一品料理、キッズメニューを中心に、家族連れが安心して利用できる和食店です。
解説: メニューの具体性と「健康」「キッズ対応」という特徴を明示し、ターゲット層に訴求する内容です。
セールスポイント(約150文字)
例文:管理栄養士の視点で塩分控えめながら旨味を引き出した料理、子供も食べやすいメニュー構成が魅力。座敷やキッズスペース完備で、安心して家族で食事を楽しめる点が他店との差別化要素です。
解説: 栄養管理やキッズスペースなど、家族連れに特化した具体的な強みが、安心感と健康志向を際立たせています。
販売ターゲット・販売戦略(約150文字)
例文:近隣の子育て世帯(30~40代夫婦)を中心に、幼稚園・小学校へのチラシ配布や地域情報誌、SNSで宣伝。平日ランチや週末家族セット、月1回の食育イベントなどを展開し、リピーター獲得を目指します。
解説: 子育て世帯を明確なターゲットとし、地域の学校や情報誌を活用した宣伝で効果的に認知拡大を狙っています。メニューやイベントなど、ターゲット層に合わせた多角的アプローチが魅力です。
競合・市場状況(約150文字)
例文:周辺には洋食中心のファミリーレストランが多いが、健康志向和食店は希少です。子どもの栄養や健康に関心が高まる中、安心できる和食を求める需要は増加。家族連れに優しい環境で市場の隙間を狙います。
解説: 既存店舗との差別化として「健康志向」と「安心できる環境」を強調。子どもの健康意識の高まりと市場ニーズを捉えた戦略が評価されます。
ケース5:イタリアンレストラン(カップル・特別な日の利用向け)
創業の動機(約200文字)
例文:都内のイタリアン店でシェフとして10年間の実績を積み、本場イタリアでの研修経験を経て、特別な日の記念にふさわしい本格料理を提供する店を開く夢を持ちました。記念日利用に適した落ち着いた空間が少ないと感じ、自己資金の準備と路面店物件の確保を経て、理想のレストラン創業に踏み切る決意を固めました。
解説: シェフとしての経験や本場での研修実績が技術と信頼性を裏付け、記念日需要に応える市場ニーズに応じた店舗運営が示されています。
事業内容(約100文字)
例文:各地の伝統料理を活かしたコース料理とアラカルト、専任ソムリエによるワインペアリングを提供する予約制レストランです。
解説: コース料理・アラカルト、ワインペアリングという提供サービスを明示し、予約制で特別感を演出する業態が分かりやすく示されています。
セールスポイント(約150文字)
例文:現地直輸入の食材と本場の技術を活かした料理、専任ソムリエによる最適なワイン提案が魅力。落ち着いた内装と記念日向けデザートサービスで、非日常の特別感を演出します。
解説: 食材の直輸入や専任ソムリエの存在、内装や記念日向けサービスなど、他店との差別化ポイントを具体的に示しています。
販売ターゲット・販売戦略(約150文字)
例文:主に記念日や特別な日に利用する20~50代のカップル・夫婦をターゲットとし、SNSやグルメサイト、ホテル・式場との提携で認知拡大。オープニング限定割引や丁寧な接客でリピーター獲得を狙います。
解説: 記念日利用という明確なニーズを持つターゲット層に対し、複数の販路(SNS、グルメサイト、ホテル連携)で認知拡大を図る具体的な戦略が評価されます。
競合・市場状況(約150文字)
例文:地域内には老舗フレンチやカジュアルなイタリアンが存在するが、ワインと本格料理を組み合わせた高級店は希少。富裕層や記念日需要の高まりを背景に、独自サービスで市場での差別化が可能と判断しております。
解説: 既存の高級店との差別化として、ワインペアリングと本格料理という専門性を強調。富裕層や記念日需要の拡大という市場背景を分析し、差別化戦略が実現可能であることを示しています。