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コラム
飲食店を開業しようと考えたとき、多くの人がまず思い浮かべるのは「立地」「メニュー開発」「内装デザイン」「原価率」などではないでしょうか。もちろんそれらは重要です。しかし、実際にお客様の満足度やリピート率を大きく左右するのは、日々の“接客”です。
そして接客の土台となるのが「言葉遣い」、特に敬語です。
私自身も接客に立つ立場として日々使いますし、スタッフ教育をする中でも「敬語の使い方」は必ず向き合うテーマです。だからこそ、開業前・開業直後のタイミングで一度しっかり整理しておくことを強くおすすめします。
この記事では、飲食店接客でよくある敬語ミスとその改善方法、そして開業時にやっておきたいスタッフ教育の具体策まで、実践的に解説します。
なぜ飲食店にとって「敬語」がそこまで重要なのか
飲食店は「料理を提供する場所」であると同時に、「体験を提供する場所」でもあります。
料理がどれだけ美味しくても、
- 横柄な言い方をされた
- 言葉遣いが雑だった
- どこか違和感のある接客だった
こうした印象が残ると、「また来たい」とは思ってもらえません。
逆に、料理が平均点でも、
- 感じが良い
- 言葉遣いが丁寧で安心感がある
- 気持ちよく過ごせた
こうした体験があると、再来店の可能性は高まります。
敬語は単なる形式ではなく、「お客様を大切にしている姿勢」を伝えるツールなのです。
第一印象は“最初の一言”で決まる
お客様が入店して最初に触れるのは、料理でも内装でもなく「言葉」です。
「いらっしゃいませ」の声のトーン
「お待ちしておりました」の一言
「本日はありがとうございます」という締めの挨拶
これらが自然で心のこもったものであれば、それだけでお店への信頼感が生まれます。
反対に、ぶっきらぼうな言い方や不自然な敬語は、無意識のうちに違和感として残ります。人は論理よりも感情で判断する生き物です。その感情を左右するのが“言葉の印象”です。
敬語はクレーム予防にもなる
実は、敬語は売上アップだけでなく、クレーム防止にも直結します。
例えば、料理提供が遅れてしまったとき。
❌「今作ってますので、もう少し待ってください」
⭕️「大変お待たせして申し訳ございません。まもなくお持ちいたします」
内容は同じでも、受け取る印象は大きく異なります。
丁寧な言葉遣いは、お客様の感情の“角”を取る役割を果たします。
トラブルが起きたときこそ、敬語の質が店の品格を表します。
スタッフの“育ち”が見える部分でもある
お客様は、無意識のうちにスタッフの言葉遣いから
- 教育が行き届いているか
- 店としての基準があるか
- オーナーの考え方はどうか
といった部分まで感じ取っています。
敬語が整っている店は、「きちんとしている」という印象につながります。これは価格帯に関係ありません。カジュアル業態であっても、言葉が整っているだけで信頼感は格段に上がります。
「また来たい」は小さな積み重ねで決まる
リピーターが生まれる理由は、劇的な体験よりも“心地よさの積み重ね”です。
- 注文時にきちんと目を見て話してくれた
- 料理説明が丁寧だった
- 帰り際に感謝の言葉があった
こうした一つ一つのやり取りが、「この店は感じがいい」という印象をつくります。
敬語は、その積み重ねを支える基礎部分です。
派手ではありませんが、確実に効いてきます。
敬語は“コストをかけずにできる差別化”
立地は変えられません。
原価率にも限界があります。
広告費を増やすにも予算が必要です。
しかし、敬語の質を上げることは、ほとんどコストがかかりません。
必要なのは、
- 正しい知識
- 意識づけ
- 継続的な確認
だけです。
にもかかわらず、ここを徹底している店舗は意外と多くありません。だからこそ、丁寧な言葉遣いは“静かな差別化”になります。
敬語は単なるルールではなく「文化」
最終的に目指すべきは、「正しい言葉を言わせる」ことではなく、「自然に丁寧な言葉が出る文化」をつくることです。
そのためには、
- オーナー自身が丁寧に話す
- スタッフ同士も敬意をもって接する
- 言葉の乱れをそのままにしない
こうした日々の姿勢が欠かせません。
敬語は単なる形式ではありません。
それは、お客様をどう扱うかという“価値観”そのものです。
だからこそ、飲食店を経営する上で、軽視してはいけない重要な要素なのです。
飲食店接客でよくある敬語ミスと改善方法
ここからは、現場で本当によくある敬語ミスを具体的に見ていきましょう。
「なんとなく丁寧そう」で使っている言葉ほど、実は間違っているケースが多いものです。特にアルバイトスタッフが多い店舗では、“聞き慣れている言い回し”がそのまま定着してしまうことがあります。
だからこそ、開業時・教育時に一度しっかり整理しておくことが重要です。
1. 「お待ちできますか?」はNG
誤り例
❌「少々お待ちできますか?」
この表現は、一見丁寧に聞こえますが、「店側が待てるかどうかを尋ねている」ニュアンスになります。本来は、お客様に待っていただく状況です。
主語が逆転してしまっているのが問題です。
正しい表現
⭕️「少々お待ちいただけますか?」
⭕️「恐れ入りますが、少々お待ちいただけますでしょうか。」
「〜していただけますか」は、お客様の行為に対してへりくだる表現です。主語の意識を間違えないことが大切です。
さらに丁寧にするなら、
⭕️「大変恐縮ですが、少々お時間をいただけますでしょうか。」
といった表現も使えます。
ポイントは、「誰が行動するのか」を常に意識することです。
2. 「ご注文を伺います」ではなく「ご注文をお伺いします」
「伺う」は謙譲語です。そのため、そのままでも謙譲の意味を持ちますが、接客では「お」をつけた形がより自然です。
誤り例
❌「ご注文を伺います」
正しい表現
⭕️「ご注文をお伺いします」
ただし注意点もあります。二重敬語にならないよう、構造を理解して使うことが重要です。
❌「ご注文をお伺いさせていただきます」
これは過剰敬語になりがちです。接客では丁寧さを意識するあまり、言葉を重ねすぎる傾向がありますが、やりすぎは逆効果です。
基本は「お伺いします」で十分丁寧です。
また、状況によっては、
⭕️「ご注文がお決まりでしたら、お伺いいたします」
といった言い回しも自然です。
3. 「〜になります」は多用しない
飲食店で非常に多いのが「〜になります」の乱用です。
誤り例
❌「こちらが本日のおすすめになります」
❌「コーヒーになります」
「〜になります」は“変化”を表す言葉です。すでに出来上がっている料理や商品に対して使うのは、本来の意味から外れています。
正しい表現
⭕️「こちらが本日のおすすめです」
⭕️「コーヒーでございます」
言い切るほうが、むしろ上品で落ち着いた印象になります。
なぜ「〜になります」が広がったかというと、断定を避けたい心理があるからです。しかし、接客においては曖昧さよりも明確さのほうが安心感につながります。
特に開業時は、スタッフ全員が「〜になります」を無意識で使っていないか、意識的にチェックするとよいでしょう。
4. 「よろしかったでしょうか?」の違和感
誤り例
❌「ご注文は以上でよろしかったでしょうか?」
過去形になっているため、「すでに終わったことを確認している」ような印象になります。
正しい表現
⭕️「ご注文は以上でよろしいでしょうか?」
些細な違いですが、こうした言葉の積み重ねが店の印象を左右します。
ただし、状況によっては過去形が自然な場合もあります。
例:
「先ほどのご説明でよろしかったでしょうか?」
この場合は“過去の説明”を指しているため問題ありません。
重要なのは、「なんとなく」ではなく、意味を理解して使うことです。
5. 「少々お待ちくださいませ」は本当に必要?
「くださいませ」は、丁寧さを強める表現です。しかし、すべての場面で使うとやや過剰になります。
自然な表現
⭕️「少々お待ちください」
高級業態やフォーマルなレストランでは「くださいませ」がブランドイメージに合う場合もあります。しかし、カジュアル業態で無理に使うと、かえって不自然になります。
大切なのは“業態とのバランス”です。
言葉遣いは、店の世界観と一致している必要があります。
- 町の定食屋
- カフェ
- ビストロ
- 高級和食店
それぞれに合った丁寧さがあります。
無理に格式ばるよりも、自然で統一された言葉遣いのほうが信頼感を生みます。
よくある「丁寧すぎる」ミスにも注意
敬語の間違いは、「足りない」だけでなく「やりすぎ」もあります。
例:
❌「こちら、お水のほう、お持ちさせていただきます」
❌「ご確認のほう、お願いいたします」
「〜のほう」は不要なクッション言葉です。
また「させていただきます」は、本来“許可を得て行う”ニュアンスがあります。
正しくは、
⭕️「お水をお持ちいたします」
⭕️「ご確認お願いいたします」
シンプルで十分丁寧です。
改善のコツは「短く、明確に」
敬語を整えるコツは、
- 主語を意識する
- 言い切る
- 余計な言葉を足さない
この3点です。
長くすれば丁寧になるわけではありません。
むしろ、簡潔なほうが洗練された印象になります。
敬語は一朝一夕で完璧になるものではありません。しかし、よくある間違いを知っておくだけで、接客の質は大きく変わります。
開業するなら、まずは自分の言葉を見直すこと。
そして、スタッフが迷わない“基準”をつくること。
それが、選ばれる店づくりの土台になります。
正しい敬語を使うための基本知識
敬語には3種類あります。
- 尊敬語(相手を立てる)
- 謙譲語(自分がへりくだる)
- 丁寧語(です・ます)
この構造を理解していないと、「なんとなく丁寧そう」で言葉を選んでしまい、誤用が増えます。
特に飲食店では、“丁寧に言おうとするあまり”敬語を重ねすぎてしまい、不自然な表現になるケースが少なくありません。
それぞれの違いを具体的に理解する
例えば「見る」という動詞を例にすると、
- 尊敬語:ご覧になります
- 謙譲語:拝見します
- 丁寧語:見ます
誰の行動なのかによって、使う言葉は変わります。
お客様がメニューを見るなら
→「メニューをご覧ください」
スタッフが確認するなら
→「メニューを拝見します」
このように、「誰が動作をするのか」を基準に考えると、敬語は整理しやすくなります。
接客では“主語の意識”が最重要
敬語ミスの多くは、主語を曖昧にしていることから起こります。
- お客様の行動なのか
- 自分(店側)の行動なのか
ここを明確にするだけで、誤用は大幅に減ります。
特に注文時、料理提供時、会計時は、「誰が何をするのか」を瞬時に判断する力が必要です。
オーナーは“説明できるレベル”まで理解する
開業前に、まずは自分自身がこの違いを説明できる状態になりましょう。スタッフに教える立場になるからです。
「これはこう言うものだから」ではなく、
- なぜこの言い方が正しいのか
- なぜこちらは不自然なのか
理由まで伝えられると、スタッフの理解度は一気に上がります。
理解して使う敬語は崩れにくく、暗記だけの敬語はすぐに乱れます。
完璧を目指すより“基礎を徹底する”
すべての敬語を完璧に使いこなす必要はありません。まずは、
- 二重敬語を避ける
- 「〜になります」を減らす
- 主語を意識する
といった基本を徹底することが大切です。
敬語は難しいものではありません。構造を理解し、シンプルに使うだけで、接客の質は確実に上がります。
そしてその積み重ねが、店の品格となり、信頼へとつながっていくのです。
開業前にやっておくべき接客準備
1. 接客マニュアルを作る
- 挨拶の統一
- 注文時の言い回し
- 料理提供時の言葉
- 会計時のフレーズ
これを文章化しておくだけで、教育の効率は大きく変わります。「各自に任せる」は、ほぼ確実にバラつきが出ます。
2. ロールプレイを必ず行う
文章で読んで理解するのと、口に出すのは別物です。実際に立って、
- 注文を取る
- クレーム対応を想定する
- 満席時の案内を練習する
こうした練習を繰り返すことで、自然な敬語が身につきます。
3. オーナー自身が模範になる
スタッフ教育で最も影響力があるのは、オーナーの姿勢です。オーナーが雑な言葉遣いをしていると、どんなマニュアルも機能しません。逆に、オーナーが常に丁寧な言葉を使っていれば、それが店の文化になります。
敬語は「形」ではなく「姿勢」
大切なのは、完璧な敬語を話すことではありません。
- お客様を大切に思っているか
- 心から歓迎しているか
- 感謝の気持ちがあるか
これが言葉に乗っているかどうかです。どれだけ文法的に正しくても、声が小さい、目を見ない、無表情――これでは気持ちは伝わりません。
逆に、多少ぎこちなくても、相手を思う気持ちがこもっていれば、印象は柔らかくなります。敬語は“テクニック”であると同時に、“心の姿勢”を映すものです。
型があるから、気持ちが伝わる
ただし、思いだけでは伝われません。正しい言葉という“型”があってこそ、気持ちがきちんと届きます。
スポーツでも、自己流では安定しません。基本フォームがあるからこそ、力が正しく伝わります。敬語も同じです。
- 主語を意識する
- 余計な言葉を足さない
- 相手を立てる構造を理解する
こうした基礎があるからこそ、「大切にしています」という気持ちが自然に表現できます。
言葉は店の“価値観”を映す
お客様は、言葉の端々から店の姿勢を感じ取っています。
忙しいときに言葉が荒くなる店なのか。
どんな状況でも丁寧さを保てる店なのか。
その違いは、確実に印象として残ります。
敬語は単なるマナーではありません。それは、「この店はお客様をどう扱うのか」という価値観そのものです。
最終的に目指すべき状態
理想は、マニュアルを見なくても、自然に丁寧な言葉が出る状態です。
- スタッフ同士も丁寧に話す
- 感謝の言葉が習慣になっている
- 言葉が乱れたら自然に直せる
ここまでいくと、敬語は“努力”ではなく“文化”になります。そしてその文化は、必ずお客様に伝わります。
敬語は「形」だけでも、「気持ち」だけでも不十分です。型と姿勢が揃って初めて、強い接客になります。それが、長く愛される飲食店をつくる土台になるのです。
スタッフ教育で意識したい3つのポイント
- ミスを責めない
- 理由を説明する
- できている部分を評価する
敬語の指導で一番やってはいけないのは、「間違い探し」だけをすることです。
「それ違うよ」
「なんでそんな言い方するの?」
こうした指摘は、スタッフを萎縮させます。特にアルバイトや若いスタッフは、「怒られないように話す」状態になり、本来の笑顔や自然さが失われてしまいます。大切なのは伝え方です。
「この言い方のほうが、より丁寧に伝わるよ」
「今の言い方も悪くないけど、こうするともっと良くなるね」
改善提案として伝えることで、学ぶ姿勢が育ちます。
なぜ“理由”が重要なのか
敬語は暗記では続きません。
「こう言いなさい」ではなく、「なぜその言い方が適切なのか」まで説明することで、スタッフは応用ができるようになります。
例えば、
「“〜になります”は変化の言葉だから、すでにある料理には使わないほうが自然なんだよ」
と理由を添えるだけで、理解度はまったく変わります。
理解して使う敬語は、忙しい時間帯でも崩れにくいのです。
“できている部分”を必ず拾う
人は、認められた部分を伸ばします。
- 声が明るい
- 目を見て話せている
- 言い直せた
小さな成長を拾い、言葉にして伝えることが大切です。教育とは「直すこと」ではなく、「伸ばすこと」です。その積み重ねが、店全体の接客レベルを底上げします。
接客の質は売上に直結する
飲食店の売上は、
客数 × 客単価 × 来店頻度
で決まります。
このうち、立地や広告が影響するのは「客数」。メニュー構成や価格設計が影響するのは「客単価」。そして「来店頻度」に最も影響するのが、接客体験です。
お客様は、料理の味だけでリピートを決めているわけではありません。
- 居心地の良さ
- 安心感
- 大切に扱われている感覚
これらはすべて、言葉遣いと接客態度から生まれます。
“なんとなく良い店”の正体
「なんとなく居心地がいい」「また来たい」この“なんとなく”の正体は、小さな積み重ねです。
- 入店時の自然な挨拶
- 注文時の落ち着いた説明
- 料理提供時の一言
- 退店時の感謝の言葉
これらが整っている店は、強い広告を打たなくてもリピーターが増えていきます。逆に、どこか一つでも違和感があると、その小さな引っかかりが次回来店を遠ざけます。
まとめ:開業するなら、まず接客を整える
飲食店を開業するなら、メニュー開発や内装と同じくらい、接客と言葉遣いに時間をかけてください。敬語は細かいようでいて、店の品格を作る重要な要素です。
- 自分が正しく使えるようになる
- スタッフが迷わない仕組みを作る
- 言葉を店の文化として根付かせる
これができれば、価格競争に巻き込まれない、選ばれる店に近づきます。
料理は真似されることがあります。内装も時間が経てば古くなります。しかし、「感じの良さ」という無形の価値は、簡単には真似できません。
接客は「技術」です。だからこそ、学び、整え、磨くことができます。そしてその積み重ねが、やがて店の“ブランド”になります。
開業前の今こそ、敬語と接客を見直す絶好のタイミングです。言葉を整えることは、店の未来を整えることにつながります。
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