特集|飲食店のインボイス
レシート、仕入れ、これからの納税。
飲食店のインボイスを、立場ごとに。
お客さんに渡すレシート、法人の会食や仕出しの取引、農家や個人の業者から直接仕入れる食材。インボイスは、飲食店の日々の場面に出てきます。2026 年 10 月 1 日からは、登録していない仕入先(免税事業者など)からの仕入れで差し引ける消費税が 80% から 70% になり、個人店の 2 割特例は 2026 年分で終わります。どこに関係するかは、登録しているか、消費税をどの方法で計算しているかで違います。お店の立場ごとに確かめられるよう、国税庁などの公表資料をもとに、7 つの章と新しい 6 本の記事にまとめました。
出典: 国税庁「令和8年度税制改正特集」、インボイス制度に関する Q&A 問113・問114・問114-2(令和 8 年 4 月改訂・追加)、タックスアンサー No.6102(令和 8 年 4 月 1 日現在法令等)、消費税の軽減税率制度に関する Q&A(個別事例編)問77(出前)
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お客さんに渡すレシート、法人の会食や仕出しの取引、登録していない農家や個人の業者からの仕入れ、2027 年分からの納め方。お店の立場によって関係する回が違うので、1 章に立場ごとの表を置きました。
10 月に変わったのは 3 つ。どれが関係するかは、お店の立場で違う
飲食店では、仕入先との取引、自店の消費税の納め方、お客さんや取引先との関係のそれぞれに影響が出ます。ただし、どこに影響が出るかは、お店の立場(登録しているか、消費税をどの方法で計算しているか)によって違います。
1 つ目は仕入れです。仕入先(直接取引する農家や個人の業者など)がインボイス発行事業者として登録していないとき(免税事業者など)、その仕入れで差し引ける消費税の割合が、2026 年 10 月 1 日から 80% から 70% になりました。その後は 50%、30% と下がり、2031 年 10 月 1 日以後は差し引けなくなります。改正前は「2026 年 10 月から 3 年間は 50%」の予定でした。
- 2023 年 10 月 1 日〜
2026 年 9 月 30 日 - 2026 年 10 月 1 日〜
2028 年 9 月 30 日 - 2028 年 10 月 1 日〜
2030 年 9 月 30 日 - 2030 年 10 月 1 日〜
2031 年 9 月 30 日 - 2031 年 10 月 1 日
以後
どの割合を使うかは、請求書の日付や支払った日ではなく、仕入れをした時期で決まります(原則)。出典: 国税庁「令和8年度税制改正特集」、インボイス制度に関する Q&A 問113・問113-3
2 つ目は、1 つの相手からの仕入れの上限です。1 つの免税事業者などからの仕入れの合計額(税込み)が年 1 億円(改正前は 10 億円)を超えると、超えた部分には経過措置を使えません。この上限は、2026 年 10 月 1 日以後に始まる課税期間から適用されます。3 つ目は、登録した個人店などが使ってきた 2 割特例です。2026 年 9 月 30 日を含む課税期間で終わり、個人は 2026 年分が最後です。
下の表で、自店の立場に近い行を確かめてください。消費税をどの方法で計算しているか分からないときは、3 行目と 4 行目の括弧の中の説明で見分けられます。
| お店の立場 | 10 月の切り替えで変わること | 読む回 |
|---|---|---|
| 登録して 2 割特例を使ってきた個人店 | 2026 年分が 2 割特例の最後。2027 年分からは、3 割特例・簡易課税・一般課税(本則)のどれで計算するかを考える | 第 3 回 |
| 登録していない(免税のまま)の店 | 自店が消費税を納めないことは変わらない。ただし、一般課税で計算している課税事業者のお客さんや取引先は、自店への支払いから差し引ける割合が 80% から 70% に下がる | 第 2 回・第 6 回 |
| 一般課税で計算している店(仕入れの消費税を実額で差し引く方法。法人や売上 1,000 万円超の店など) | 免税事業者などからの仕入れで差し引ける割合が 70% に下がる。帳簿の書き方と、仕入先が登録しているかを確かめる | 第 4 回 |
| 簡易課税・2 割特例・3 割特例で計算している店(仕入れの消費税を売上から計算する方法) | 仕入れの消費税は売上から計算するので、仕入先が登録しているかどうかで納める額は変わらない | 第 3 回・第 4 回 |
| 登録しているすべての店 | お客さんに渡すレシートや領収書の記載事項は、今回の改正の項目に入っていない | 第 5 回 |
2 行目: 取引先が一定の規模以下で 1 回税込 1 万円未満の支払いなら、2029 年 9 月 30 日まで少額特例で全額差し引けます(第 4 回)。
登録するかは、お客さんと取引先から考える
インボイスを求めるのは、消費税を納めていて、仕入れや経費の消費税を差し引きたい事業者です。飲食店なら、会社の経費として精算するお客さん(会食・打ち合わせなど)や、仕出し・ケータリング・卸などで取引する事業者のうち、一般課税で消費税を計算している相手です。家族連れや友人どうしなど一般の消費者は、インボイスを必要としません。
インボイスの登録を受けるかどうかは、事業者の任意です。国税庁の Q&A は、「顧客が消費者のみの場合には、必ずしも適格請求書を交付する必要はありません」と説明しています。
登録すると、売上の規模にかかわらず消費税を納める義務が生まれます。登録しないと、課税事業者のお客さんや取引先は、お店への支払いにかかる消費税を、原則として一部しか差し引けません(2026 年 10 月からは 70%)。消費者だけのお店と、法人の会食や仕出しが多いお店とでは、登録しないことの影響の大きさが違います。
まず、売上のうち「会社の経費として支払われる分」と「取引先の事業者からの分」がどのくらいあるかを、レシートや請求書の控えで確かめます。そのうえで、「お客さんに求められる度合い」と「登録したときに増える納税と手間」を並べて比べるのが、考える順番の骨組みです。
登録には「登録希望日の 15 日前まで」などの期限があり、取りやめるときも届出の期限があります。経過措置で登録した人には、取りやめても 2 年間は免税事業者に戻れない決まりが当たることがあります。これから開業する個人のお店は、開業した年の 1 月 1 日から登録を受けたい旨を書いた申請書を、その年の 12 月 31 日までに出せば、その年の 1 月 1 日にさかのぼって登録を受けられます。開業届の出し方は、下の「あわせて読む」の記事で解説しています。
登録した個人店は、2027 年分から計算の方法を 3 つから選ぶ
インボイス制度を機に登録し、2 割特例で消費税を計算してきた個人のお店にとって、2026 年分は 2 割特例の最後の年です(2 割特例は、2026 年 9 月 30 日を含む課税期間で終わります)。その確定申告の期限は 2027 年 3 月 31 日です。2027 年分からは、3 割特例・簡易課税・一般課税(本則)の 3 つから計算の方法を選ぶことになります。
3 割特例は、納める消費税を売上にかかる消費税額の 3 割にできる特例です。届出は要らず、申告書に書くだけです。基準期間(2 年前)と特定期間(前年の 1〜6 月)の課税売上高がいずれも 1,000 万円以下であること(特定期間は、課税売上高の代わりに給与などの支払額で判定することもできます)などの条件があり、法人は使えません。
簡易課税では、飲食店業は第 4 種(みなし仕入率 60%)ですが、自分で作った飲食物の持ち帰り販売は第 3 種(70%)です。店内の飲食と持ち帰りの両方があるお店は、売上を区分して記録しておくことが前提で、区分していない部分には低い方の率(60%)が当てはまります。2 割特例・3 割特例の次の課税期間から簡易課税に移る場合は、その課税期間の申告期限までに届出書を出せばよくなりました。
どの方法が合うかは、お店の数字で変わります。前の年の帳簿をもとに、税理士と一緒に試算すると確かです。
出典: 国税庁「令和8年度税制改正特集」、インボイス制度に関する Q&A 問114・問114-2・問115-2・問117、タックスアンサー No.6505・No.6509、消費税法基本通達 13-2-8 の 2
納税に備えたお金の分け方と、確定申告の期限を過ぎたときのことは、下の「あわせて読む」の記事で取り上げています。
仕入先が登録していないとき、引けるのは 10 月から 70%
飲食店は、農家や個人の業者から直接仕入れるときなど、インボイス発行事業者として登録していない相手から仕入れることがあります。こうした相手(免税事業者など)からの仕入れは、原則として消費税を差し引けません。ただし経過措置で一部を差し引けて、2026 年 10 月 1 日からは 70% です(割合の移り変わりは 1 章の図)。この章は、主に一般課税(仕入れの消費税を実額で差し引く方法)で計算しているお店の話です。
なお、卸売市場で卸売業者が出荷者から委託を受けて売る野菜・果実・魚・肉などの生鮮食料品等と、農協や漁協などが組合員から売値や出荷先などの条件を付けずに委託を受け、共同計算で精算して売る農林水産物は、出荷した人のインボイスの交付義務が免除されています。こうした仕入れでは、卸売業者や農協などが作成する一定の書類を保存することが、仕入れの消費税を差し引く要件です。
出典: 国税庁「インボイス制度に関する Q&A」問45(卸売市場を通じた委託販売)・問46(農協等を通じた委託販売)、消費税法 第 30 条第 9 項第 4 号、消費税法施行令 第 49 条第 5 項・第 6 項、第 70 条の 9 第 2 項第 2 号
経過措置を使うには、帳簿に経過措置の対象である旨を書き、区分記載請求書と同じ事項が書かれた請求書などを保存します。割合は、請求書の日付ではなく仕入れをした時期で決まります。月末締めの請求書が 9 月と 10 月にまたがるときは、引渡しの日で分けて確かめます。
税込 1 万円未満の仕入れは、一定の規模以下の事業者なら、帳簿だけで差し引ける「少額特例」があります(2029 年 9 月 30 日まで)。1 つの相手からの仕入れの合計額(税込み)が年 1 億円(2026 年 10 月 1 日以後に始まる課税期間から。改正前は 10 億円)を超えると、超えた部分には経過措置を使えません。
仕入先が登録しているかどうかは、国税庁の「適格請求書発行事業者公表サイト」で、登録番号を入れて確かめられます。仕入先の一覧を作り、登録番号と確かめた日を書いておくと、帳簿の書き分けにも役立ちます。
簡易課税・2 割特例・3 割特例のお店は、消費税の計算で仕入れのインボイスを使いません。所得税法上(法人は法人税法上)の保存も必要なので、請求書や領収書は保存しておきましょう。
登録しているお店は、宛名のないレシートをインボイスにできる
登録しているお店では、お客さんに渡すレシートや領収書が、そのままインボイスとして使われることがあります。会社の経費として精算するお客さんは、そのレシートで消費税を差し引くからです。
飲食店業は、宛名を省ける「適格簡易請求書」を出せる業種です。適用税率と消費税額は、どちらか一方を書けば足ります。お店の名前と登録番号、取引の年月日、取引の内容、税率ごとに分けた合計額は欠かせません。
店内での飲食は 10%、持ち帰りと出前は 8% で、どちらになるかは飲食料品を提供する時点で決まります。酒類は持ち帰りでも 10% です。8% の品は、「※」などの記号とその意味を書くなどの方法で、軽減税率の対象と分かるようにします。
消費税額の端数の処理は、1 枚のレシートにつき税率ごとに 1 回です。登録しているお店がインボイスを出す義務があるのは、課税事業者のお客さんから求められたときで、消費者に対して出す義務はありません。
レジのレシートを 1 枚出して、登録番号・税率ごとの合計額・「※」とその意味を確かめてみてください。
ここで書いたインボイスを出す義務と、お客さんに領収書を求められたら出す決まりは、別の話です。宛名・但し書き・収入印紙など、領収書の一般的なルールは、下の「あわせて読む」の記事で解説しています。
※2027 年 4 月から 2 年間、飲食料品(持ち帰り・出前を含み、店内での飲食は含まない)の税率を引き下げる法律案が、2026 年 10 月 9 日に国会に提出されました。参議院の議案審議情報(令和 8 年 10 月 9 日現在)では、委員会に付託される前で、成立していません。
仕出しや会食の取引先に言われたら、まず国の Q&A を確かめる
登録していない(免税事業者の)お店が、仕出しやケータリングの取引先、会食で使ってくれる会社などから「インボイスの登録をしてほしい」「登録しないなら値段を下げてほしい」と言われることがあります。
財務省・公正取引委員会・経済産業省・中小企業庁・国土交通省の 5 つの機関が、免税事業者とその取引先向けの Q&A を出しています(2022 年 1 月 19 日公表、2022 年 3 月 8 日と 2026 年 1 月 30 日に改正)。Q&A は、取引先が課税事業者になるよう要請すること自体は「独占禁止法上問題となるものではありません」としつつ、一方的な通告などは「問題となるおそれがあります」と書いています。
Q&A は、売上先が消費者・免税事業者・簡易課税(2 割特例を含む)の事業者なら、免税事業者のままでも「取引への影響は生じないと考えられます」としています。2027 年分・2028 年分の 3 割特例も、仕入れのインボイスを使いません(国税庁の改正特集)。影響がある相手でも、影響は経過措置で差し引けない分に限られます(2026 年 10 月からは 30% 分)。
取引先が少額特例を使える規模で、1 回の支払いが税込 1 万円未満なら、2029 年 9 月 30 日までは差し引けなくなる分はありません(第 4 回)。
話し合いの前に、取引先がどの方法で消費税を計算しているかと、差し引けない 30% 分がいくらになるかを把握しておくと、話の土台がそろいます。お店が食材や経費の仕入れで消費税を支払っていることも、あわせて整理しておきます。
飲食店は、仕入先に免税事業者がいる「買手」の立場にもなります。Q&A は、買手が取引条件を見直すときは、相手と十分に協議し、自分の都合だけで低い価格を設定しないよう注意する必要があると書いています。
どの行為が法律に触れるかは、個別の事情で判断されます。迷ったときは、公正取引委員会や中小企業庁の相談窓口に相談できます。
レシートの写しと請求書を残し、判断ごとに相談先を分ける
登録しているお店は、インボイスとして渡したレシートの写しを 7 年間保存する必要があり、レジのジャーナルで足ります。受け取った請求書や領収書は、消費税の計算に使わないお店でも、所得税法上(法人は法人税法上)の保存が必要なので捨てずに保存しておきましょう。受け取ったレシートや領収書を日々どう整理して保管するかは、下の「あわせて読む|レシートの保管」の記事で取り上げています。
電子データで受け取った請求書や領収書は、2024 年 1 月からデータのまま保存するのが原則です。一般課税のお店が仕入れの消費税を差し引くには、帳簿とインボイスなどの保存が要件です。帳簿と電子の保存のルールは、税務調査の特集の第 4 回で取り上げています。税務調査の連絡が来たときに当日までにそろえる帳簿と書類は、下の「あわせて読む|調査の連絡が来たら」の記事にまとめています。
記帳の仕組みづくりは REDISH が担い、申告や税務調査への対応、税務の判断は提携税理士法人が担います。取引先の行為が法律に触れるかどうかの判断は、公正取引委員会などの公的な窓口や弁護士に相談します。
よくある質問
インボイスについて、よく聞かれること
10 月から、何が変わったのですか?
変わったのは 3 つです。登録していない仕入先(免税事業者など)からの仕入れで差し引ける割合が 80% から 70% になったこと、1 つの相手からの仕入れの上限が 1 億円(改正前は 10 億円。2026 年 10 月 1 日以後に始まる課税期間から)になったこと、2 割特例が終わりに向かうことです。「10 月から 50%」と書かれた解説を見かけることがありますが、それは令和 8 年度の税制改正の前の予定でした。改正後は、2028 年 10 月 1 日から 2030 年 9 月 30 日までが 50% です。
登録しないと、取引を切られますか?
登録するかどうかは事業者の任意で、登録しないこと自体が問題になるわけではありません。国の 5 つの機関の Q&A は、どの事業者と取引するかは基本的に自由だとしつつ、課税事業者にならなければ取引価格を引き下げる、応じなければ取引を打ち切るなどと一方的に通告することは「独占禁止法上又は取適法上、問題となるおそれがあります」と書いています(取適法は、下請法から変わった法律です)。実際に問題となるかは、取引の立場の強さや経緯など個別の事情で判断されるので、公的な窓口に相談してください。
2 割特例は、いつまで使えますか?
2026 年 9 月 30 日を含む課税期間までです。個人事業者は 2026 年分が最後で、その確定申告の期限は 2027 年 3 月 31 日です。2027 年分・2028 年分は、条件を満たす個人事業者なら 3 割特例を使えます。法人は 3 割特例を使えません。
レシートには、何を書けばいいですか?
飲食店業は適格簡易請求書を出せます。お店の名前と登録番号、取引の年月日、取引の内容(軽減税率の品なら、その旨)、税率ごとに分けた合計額、適用税率か消費税額(どちらか一方でよい)を書きます。宛名は要りません。8% の品は、「※」などの記号とその意味を書くなどの方法で分かるようにします。
誰に相談すればいいですか?
REDISH の税務サービスでは、日々の記帳の仕組みづくりを REDISH が、申告と税務の判断を飲食店に強い提携税理士法人が担います。登録するかどうかや、消費税をどの方法で計算するかといったお店ごとの判断は、提携税理士法人にご相談いただけます。取引先の行為が法律に触れるかどうかの判断は公正取引委員会などの公的な窓口や弁護士に、インボイス制度の基本的な質問は国税庁の消費税軽減税率・インボイスコールセンターに相談できます。
この特集の作り方
根拠を確かめて書いています
- 一次資料から書く
国税庁の令和 8 年度税制改正特集と Q&A、財務省の税制改正の解説、e-Gov の法令、財務省・公正取引委員会など 5 つの機関の Q&A を主な根拠にしています。改正前の予定(「2026 年 10 月から 50%」)で書かれた解説も残っているため、数字は国税庁の改正特集を基準にしています。各記事の末尾に参考資料を載せています。
- 別の担当が確かめる
書き手とは別の担当が、数字・日付・条文を一次資料と照らし合わせて確認しています。
- 税理士が監修する 確認待ち
中村謙一(税理士・クロスポイント税理士法人 代表社員)が税の内容を確認します。取引の法律にかかわる部分(第 6 回)は、国の Q&A の言い方のまま紹介し、どの行為が法律に触れるかの判断はしていません。
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