売上は順調でも手元にお金がない理由とは?個人事業主のための資金管理法

【この記事を監修した人】 公認会計士 松隈剛 公認会計士の資格を取得後、トーマツ監査法人で公開監査に従事。その後、PwCでM&Aを担当。スパークスグループにてファンドマネージャーとして活躍。2015年にリディッシュ株式会社を創業。提携税理士法人であるクロスポイント税理士法人にシニアアドバイザーとしてジョイン。
「売上は順調なのに、なぜか手元にお金が残らない…」
個人事業主や小規模事業者の方から、このようなお悩みを非常に多くいただきます。帳簿上はしっかりと利益が出ているはずなのに、銀行口座を見ると次の支払いに追われて資金繰りに不安を感じる——。
実は、この現象の多くは事業と個人のお金が混ざっていることが原因です。 今回は、なぜお金が残らなくなるのかという理由と、今すぐ実践できる具体的な資金管理の対策について整理して解説します。
なぜ?事業と個人のお金を分けないリスク
個人事業主は法人と違って「会社」という別人格が存在しないため、売上・経費・プライベートの生活費をすべて同じ口座で管理してしまいがちです。一見すると手軽で便利に思えますが、実は以下のような大きなリスクが潜んでいます。
1. 利益があっても手元に現金がない
例えば「月商100万円・経費40万円」なら、帳簿上の利益は60万円です。しかし、そこから生活費や過去の借入返済で50万円を使ってしまうと、手元に残る現金はわずか10万円になってしまいます(※分かりやすさのための単純化した例です。実際の飲食店の利益率は原価率・人件費率等により異なります)。 数字上は「儲かっている」のに現金が不足するため、事業拡大のタイミングや急な支払いが発生した際に、大きなストレスやリスクとなります。
2. 税金の支払いで資金ショートを起こす
個人事業主は、所得税や住民税、個人事業税、消費税などを、年に1回〜数回に分けて納付します。 例えば年間利益が500万円の場合、所得税・住民税だけであればおおむね53〜70万円程度ですが、これに個人事業税、国民健康保険料、国民年金保険料まで含めると、100〜150万円程度の負担になります(青色申告の有無や各種控除、お住まいの自治体により変動します)。飲食店は個人事業税(税率5%)の対象業種にあたるため、所得税とは別に納付が発生する点も見落とされがちです。また、前年の所得税額が15万円以上になると、翌年分の所得税の一部を7月・11月に前払いする「予定納税」の対象にもなるため、確定申告のタイミング以外にも納税資金を確保しておく必要があります。 さらに、基準期間の課税売上高が1,000万円を超えている、またはインボイス発行事業者として登録している場合は、消費税の納税も必要になります(課税売上高1,000万円以下の免税事業者は原則不要です)。インボイス制度の負担を軽くする「2割特例」は個人事業主の場合2026年分の確定申告までで終了しますが、2027年分・2028年分は、納税額を売上にかかる消費税の3割に抑える「3割特例」が個人事業者向けに設けられており、負担はここから段階的に増えていく形になります。 (※本記事の税制・料率等の内容は2026年9月時点の情報に基づきます。) 普段から生活費と事業資金を同じ口座で管理していると、これらの納付期日が近づくたびに「現金が足りない!」という事態に陥りやすくなります。
3. 正確な経営判断がしづらくなる
事業用と個人用のお金が混ざると、帳簿を見ても正確な収支が把握できません。その結果、「売上は伸びているのに利益が出ていない」「どこでお金が消えているのか分からない」といった不安が生じ、値上げやコスト削減などの重要な経営判断や投資判断が曖昧になってしまいます。
4. 将来の資金計画や融資審査で不利になる
お金の流れが不透明だと、数ヶ月先のキャッシュフロー予測や設備投資・人材採用の計画が立てにくくなります。また、金融機関からの融資審査や補助金申請の際にも、事業の収支が分かりにくいと審査で不利になる場合があります。
儲かっているのにお金が残らない典型パターン4選
「儲かっているのにお金が残らない」と感じる方に多い、典型的なパターンを整理しました。
(1)生活費を事業口座から直接引き出している
事業の売上から生活費をその都度引き出していると、資金の流れが不透明になります。売上が増えた月ほど「余裕がある」と思い込み、無計画に生活費を増やしてしまいがちです。その結果、翌月以降の資金繰りが苦しくなり、税金や事業費の支払いに影響が出ます。
(2)税金や社会保険の支払い準備をしていない
個人事業主は給与天引きがないため、所得税や国民年金・健康保険料を自分で管理して確保しておく必要があります。利益が出ている感覚があると「来月払えば大丈夫」と先延ばしにしがちで、納付期日に一気に口座残高が減って運転資金が底をつくパターンです。
(3)不足分を借入やクレジットカードで補填している
資金不足を補うためにカードローンやクレジットカード決済を利用すると、短期的には安心できます。しかし、利息や翌月以降の返済負担が増えて固定費化し、結果的にお金が残らない状態が続きます。また、「本当に必要な支出」と「無駄な支出」の区別がつきにくくなり、資金管理の見直しが遅れてしまいます。
(4)借入金の元本返済を見込んでいない
融資を受けて開業・運営している場合、返済のうち利息は経費になりますが、元本の返済は経費になりません。そのため、帳簿上は利益が出ていても、元本の返済分だけ手元の現金は減っていきます。開業時に融資を受けたケースでは特に見落とされやすいポイントです。
事業と個人のお金を分ける4つのメリット
事業と個人の資金を明確に分離することで、次のような大きなメリットが得られます。
- 資金の見通しが立てやすくなる 事業口座には売上と経費だけが入るため、「今月あといくら使えるか」「来月の納税にいくら必要か」が一目で把握できます。
- 生活費の無駄遣いを防げる 使えるお金の境界線ができるため、売上が増えた月でも無計画に生活費を増やしてしまうリスクを回避できます。
- 経営判断が正確になる 正確な利益に基づいて、値上げ・コスト削減・設備投資などの意思決定をブレずに行えるようになります。
- 将来の資金計画が立てやすくなる 数ヶ月先のキャッシュフローを予測しやすくなり、設備投資や販促費も無理なく計画できるようになります。
個人事業主が今すぐ実践すべき5つの具体策
お金を残せる仕組みをつくるために、個人事業主がすぐに実践できる具体的なステップを紹介します。
① 事業用口座と個人用口座を完全に分ける
- 事業用口座: 売上の入金、仕入れや経費の支払い
- 個人口座: 生活費、貯蓄
事業用口座から個人口座へ毎月決まった日に「給料」として定額を移すことで、毎月使える金額が明確になり、無駄遣いや資金ショートを防げます。※個人事業主が自分自身に支払う「給料」は税務上の経費にはならず、帳簿上は「事業主貸」として処理します。
② 税金専用の口座を作って毎月積立をする
事業口座とは別に「税金用口座」を用意し、毎月『利益(売上−経費)』の2〜3割を目安に自動で積み立てます。消費税の課税事業者であれば、消費税の分も別に積み立てておきましょう。納付期日に慌てることがなくなり、納税後も事業運営に必要な資金をしっかり確保できます。
③ 経費管理を徹底・ルール化する
クレジットカードや電子マネーは事業専用のものを決め、プライベートの支払いと分けます。仕入れや経費は領収書・レシートを必ず保管し、会計ソフトで自動集計することで、実際の利益と手元現金のギャップを最小化できます。
④ プライベートの生活費は「固定給」にする
事業が好調な月であっても、個人口座に移す金額はあらかじめ決めた一定額にします。余剰資金はすべて事業投資や貯蓄に回すことで、長期的な資金計画が立てやすくなります。
⑤ 定期的な資金確認を習慣化する
毎週1回、事業口座と個人口座の残高をチェックする習慣をつけましょう。経費や売上の流れを日常的に把握しておくことで、予期せぬ資金不足や過剰支出を未然に防ぐことができます。
飲食店ならではの資金管理の注意点
飲食店の場合、現金商売でありながらキャッシュレス決済も混在するため、一般の個人事業主以上に資金繰りの管理が複雑になりがちです。
- 入金タイミングのズレ:クレジットカードやQR決済は売上計上日と実際の入金日に数日〜1ヶ月程度のタイムラグが生じます。口座上の残高だけで「使えるお金」を判断すると、実際にはまだ入金されていない売上をあてにしてしまうことがあります。
- 仕入れの支払サイト:卸業者への支払いが「月末締め翌月払い」等の場合、売上の入金タイミングと支払いタイミングがズレるため、月をまたいだ資金繰り表で管理することをお勧めします。
ケーススタディ:月商50万円の個人事業主の場合
実際の数字でイメージしてみましょう(※業種を問わない、分かりやすさのための単純化した例です。実際の飲食店の利益率は原価率・人件費率等により異なります)。
- 売上: 50万円
- 経費: 15万円
- 帳簿上の利益: 35万円
従来のやり方(生活費を事業口座から直接支出)
- 生活費支出:25万円
- 税金・保険料支払い:10万円
- 手元に残る現金:0円
帳簿上は35万円の利益が出ているのに、実際には生活費や税金で全て消えてしまいます。税金の納付期日が重なる月は資金繰りが破綻するリスクがあります。
改善後(口座分け+税金積立+固定給)
- 生活費(個人口座へ固定給送金):15万円
- 税金積立(税金用口座へ送金):10万円
- 手元に残る現金(事業口座):10万円
口座を分けたことに加え、生活費を「使った分だけ引き出す」やり方から「上限を決めて渡す」固定給の形に見直した点が、10万円の余剰を生んだポイントです。口座を分けるだけで自動的にお金が残るわけではなく、生活費の使い方そのものを見直すことも合わせて重要になります。急な支払いへの対応や事業投資のチャンスにも柔軟に対応できるようになります。
まとめ:お金が残らないのは「儲け方」ではなく「仕組み」の問題
個人事業主が「売上は順調なのに手元にお金が残らない」と感じる原因は、儲け方の問題ではなく資金管理の仕組みにあります。
- 事業用口座と個人口座を分ける
- 税金用口座を作り、毎月積み立てる
- 生活費は固定給にして無計画な支出を防ぐ
この3つの習慣を取り入れることで、資金繰りは格段に安定し、帳簿上の利益をしっかりと手元に残せるようになります。
「儲かっているはずなのにお金が残らない」という悩みから解放され、安心して事業の成長に集中するために、まずは口座の分離と固定給化から始めてみましょう。
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