開業判断ワークシート — 自分の数字で「1日何人来れば黒字か」を出す全手順

開業判断ワークシート — 自分の数字で「1日何人来れば黒字か」を出す全手順
飲食店の開業計画を進める際、「良い料理を出せば客は来る」「なんとなく月商200万円くらい行けば利益が出るだろう」といった曖昧な見立てでスタートしてしまうケースは少なくありません。しかし、店舗経営において事業の実現性を判断する絶対的な指標となるのは、「1日あたり最低何人の来店があれば黒字化するのか」という損益分岐点(必要客数)の明確な数値化です。
本記事では、損益分岐点から必要客数を導き出す構造を解説し、ご自身の想定数値を当てはめて計算できる手順と、その客数を実際に回せるかの現実味チェックまでを網羅して解説します。
1. 「1日何人来れば黒字か」が開業判断の絶対指標になる理由(FLRと固定費の構造)
飲食店経営における経費構造の基本は、「FLR」と呼ばれる3大コストと固定費の管理にあります。
- F(Food:食材費・原価):売上に対して30%〜40%程度が一つの基準となります。仕入れの規模や小ロット取引、仕入れルート(近隣スーパーや専門業者、地産地消の直売など)によって変動します。
- L(Labor:人件費):開業初期にワンオペレーション(1人営業)を採用する場合は大きく抑えられますが、売上規模や回転数によってはオペレーション負荷の限界に直面します。
- R(Rent:賃料・家賃):立地や坪数(例:10坪〜12坪で家賃15万円〜25万円など)によって定額で発生する固定的な経費です。
一般的に、FLRの合計(FLR比率)は売上高の70%程度以内に抑えることが健全経営の目標とされています。売上高から変動費(主に食材原価や一部の販売手数料など)を引いた限界利益で、家賃や水光熱費などの固定費および返済費用を回収し、さらに手元に残るキャッシュ(営業利益や最終的な手元キャッシュフロー)を確保しなければなりません。
精神論や曖昧なコンセプト設定ではなく、「想定客単価」と「固定費・変動費」から「1日何人の客数が必要か」を逆算して割り出し、それを日々の営業で達成可能か検討することこそが、開業計画を前進させるか撤回するかを判断する基準となります。
なお、ここで最初に押さえておきたいのが、「赤字を脱するだけのライン(損益分岐点)」と「目標とする利益を出すためのライン」は別の数字だという点です。次章では、この2つを分けて計算する手順を解説します。
2. 540事例のデータで出す「損益分岐点・必要客数」計算シミュレーションの全手順
当社が540本を超える支援事例・データから検証した計算プロセスに基づき、ご自身の想定数値を当てはめて必要客数を導き出せる手順を解説します。
ステップ1:想定する客単価と営業日数を設定する
まずは、自店が提供するメニュー構成から平均客単価を設定し、月間の営業日数を決めます。
- 昼(ランチ)客単価:[ ] 円(例:1,500円)
- 夜(ディナー)客単価:[ ] 円(例:6,000円)
- 月間営業日数:[ ] 日(例:週休2日・月22日営業など)
ステップ2:原価率(F)と固定費・人件費(L・R)を整理する
次に、毎月必ず発生する固定費と、売上に比例して発生する原価率を設定します。
- 原価率(F):[ ] %(例:35%〜40%)
- 家賃(R):月額 [ ] 万円(例:15万円、20万円、25万円など)
- 人件費(L):月額 [ ] 万円(ワンオペの場合は0円〜自家給料相当)
- その他固定費・諸経費:月額 [ ] 万円
⚠️ 注意:ワンオペでも店主の労働は「0円」ではありません。 人件費を0円として計算すると数字上の損益分岐点は下がりますが、実際には店主も生活費を稼ぐ必要があります。厳密な損益分岐点(=赤字ライン)を出す場合は0円で計算しても構いませんが、「実際に生活が成り立つライン」を知りたい場合は、店主の生活費相当額(例:月30万円)を固定費に加えて計算することをおすすめします。この違いは後述の事例Aで具体的に示します。
ステップ3:損益分岐点売上高と必要客数を計算する(赤字を脱するライン)
固定費と限界利益率から、「これ以上売上が落ちると赤字になる」というラインを算出します。
【計算式】
限界利益率 = 1 − 原価率(F)損益分岐点売上高 = 固定費(L+R+その他固定費)÷ 限界利益率1日あたりの損益分岐点客数 =(損益分岐点売上高 ÷ 月間営業日数)÷ 客単価
ここで出た客数が、「これを下回ると赤字になる」という最低ラインです。開業判断において、まず確認すべきはこの数字になります。
ステップ4:目標利益を出すための必要客数を計算する(任意)
損益分岐点はあくまで「赤字にならないライン」であり、そこには借入返済や事業拡大のための余剰資金は含まれていません。「毎月これだけの利益を残したい」という目標がある場合は、以下の式で必要客数を算出します。
【計算式】
目標達成売上高 =(固定費 + 目標営業利益)÷ 限界利益率1日あたりの必要売上 = 目標達成売上高 ÷ 月間営業日数1日あたりの必要客数 = 1日あたりの必要売上 ÷ 客単価
ステップ5:実際の算出事例を参照する
実際の開業シミュレーションデータから、条件ごとの収益モデルを見てみましょう。
【事例A】観光地の10席小規模店舗(ワンオペ想定・居抜き)
- 条件設定:
- ランチ客単価:1,500円(野菜中心メニュー)
- ディナー客単価:6,000円(コース・飲み放題込み)
- 家賃:15万円〜20万円以内
- 食材原価率:35%(限界利益率65%)
- 営業日数:月22日(週休2日)
① 損益分岐点(赤字を脱するライン)
目標営業利益48万円を確保する場合の固定費(人件費0円)を逆算すると、固定費は約43万円になります。
- 損益分岐点売上高:43万円 ÷ 65% = 約66万円/月
- 1日あたり:約3万円
- 必要客数:1日あたり約9人(例:ランチ5名+ディナー4名など)
② 目標利益48万円を出すためのライン
- 目標達成売上高(月商目標):140万円
- 1日あたりの必要売上:約6万3,636円
- 必要客数:1日あたり約18人(例:ランチ10名+ディナー8名)
- 営業利益:約48万円
- 最終手元キャッシュフロー:約42万6,000円
③ 店主の生活費(自家給料相当)を固定費に加えた場合
上記①②はいずれも人件費0円(店主給与を計上しない)前提です。店主の生活費として月30万円を固定費に加えると、次のように必要客数が上がります。
- 固定費:43万円+30万円=73万円
- 損益分岐点売上高:73万円 ÷ 65% = 約112万円/月
- 1日あたり:約5.1万円
- 必要客数:1日あたり約15人(例:ランチ8名+ディナー7名)
同じ「ワンオペ・原価率35%」という条件でも、店主給与を含めるかどうかで損益分岐点の必要客数は「9人」と「15人」の間で変わります。開業判断では、どちらの前提で数字を見ているのかを必ず明確にしてください。
【事例B】10〜12坪のカフェ・バー業態(家賃25万円想定)
- 条件設定:
- 家賃:25万円
- 食材原価率:35%〜40%(小ロット仕入れやワイン等の原価考慮)
- FLR比率:売上の約70%以内
- 試算結果:
- 月商目標:200万円弱を見込むモデル
ステップ6:ご自身の数字で計算する
ご自身の数値を以下のワークシートに入力して計算してみましょう。
【開業判断ワークシート】
■ 損益分岐点(赤字を脱するライン)
1. 固定費(L+R+その他固定費):[ ] 円
※店主の生活費を含めるかどうかを明記
2. 原価率(F):[ ] % → 限界利益率:[ ] %
3. 損益分岐点売上高(1 ÷ 限界利益率):[ ] 円
4. 月間営業日数:[ ] 日
5. 1日あたりの損益分岐点売上(3 ÷ 4):[ ] 円
6. 想定平均客単価:[ ] 円
7. 1日あたりの損益分岐点客数(5 ÷ 6):[ ] 人
■ 目標利益を出すためのライン(任意)
8. 目標営業利益(月額):[ ] 円
9. 目標達成売上高((1+8)÷ 限界利益率):[ ] 円
10. 1日あたりの必要売上(9 ÷ 4):[ ] 円
11. 1日あたりの必要客数(10 ÷ 6):[ ] 人
3. ワンオペや業態限界から検証する「その客数は本当に回せるのか」の現実味チェック
計算上で「1日◯人来れば黒字」という数字が出たとしても、それで検証を終わらせてはいけません。最も重要なのは「その客数を店主一人(または想定人数)のオペレーションで本当に回し切れるのか」という物理的・体力的現実味のチェックです。
1. 席数と回転数の壁(1日8回転などの実現性)
10坪〜12坪程度の店舗で月商200万円弱を目指す際、全席の稼働率から「1日あたり8回転」といった高回転モデルを試算するケースがあります。 しかし、昼の営業で3回転〜4回転させる場合でも、ピーク時の調理・接客・片付け・会計のオペレーション負荷は極めて高くなります。これをワンオペでディナー帯まで含めて継続的に回し切れるのか、体力面やサービス品質の限界を冷静に評価する必要があります。
2. ワンオペにおけるサービス限界と繁忙期依存のリスク
ワンオペレーションは人件費(L)を最小化できるため利益率は高まりますが、以下の課題が発生します。
- 満席・高回転時のオペレーションボトルネック
- 仕込み時間と休日確保のトレードオフ(週休2日制を維持しながら仕込みを回せるか)
- 繁忙期依存の変動幅:桜のシーズンなどの繁忙期に1日20万〜30万円を売り上げて通常期の落込みをカバーするようなモデルの場合、繁忙期の労働負荷が極度に集中します。
3. オペレーション限界を突破するための補填策・売上構造の工夫
必要客数のハードルが高すぎる場合や、店内飲食のみでの回転数に限界がある場合は、事業計画に以下のような補填策を組み込むことを検討します。
- 客単価の構造を見直す:ディナーをコース主体にする、単価の高いドリンクメニューを拡充する。
- 追加収益源の導入:定休日や営業外時間を活用したケータリングやテイクアウト、富裕層向けサービスなどを計画に盛り込む。
- 仕入れ原価の最適化:小ロット仕入れで原価率が40%近くまで跳ね上がるリスクに対し、地元の農家巡りによる直接仕入れなどスポットで低原価の食材を組み合わせて平均原価率を抑える。
- 無駄な手数料の削減:来店1人あたり約200円(ディナーの場合・税抜)の手数料が発生する大手予約サイトへの依存を控える。例えば4人予約なら800円、月100人分の送客があれば約2万円の手数料負担になります。Googleマップ(MEO)や地域のネットワーク活動を活用した集客を主軸にして変動費を削ることが有効です。
結論:自分の数字で「実現可能な客数」に落とし込めるまで検証を繰り返す
「1日何人来れば黒字か」を算出した結果、それがワンオペでは到底回せない客数であったり、立地条件的に実現が難しい回転数であるならば、その開業計画は条件(家賃、単価、営業形態)を修正する必要があります。
精神論ではなく、客単価・固定費・仕入れ原価・オペレーション限界を数字で可視化し、「この客数なら確実に回せる」という確証を持って開業の判断を下しましょう。
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