居酒屋の開業ガイド|実例6件で「1日何人で黒字か」を計算する

居酒屋の開業ガイド

結論 居酒屋開業に「必要な金額」という一つの答えはありません。実際の開業計画を並べると、融資額は 300 万円から 3,355 万円まで 11 倍の幅があり、月の固定費も 15 万円から 358 万円まで開きます。意味のある問いは「いくら必要か」ではなく「自分が組もうとしている条件なら、1 日に何人来れば黒字になるか」です。この記事はその計算を、実例の数字と置き換え可能な式で示します。

居酒屋開業に必要な数字は、1 つに決まらない

以下は、実際に融資が実行された居酒屋の開業計画 6 件です。すべて公開済みの事例から、収支計画に書かれている数字をそのまま並べています。

業態融資額客単価席数月額家賃月の固定費
惣菜×居酒屋300 万円昼 1,000 円 / 夜 2,000 円16 席4.25 万円15 万円
弁当兼居酒屋400 万円昼 約 500 円13 席17.4 万円40.4 万円
マネジメント居酒屋635 万円昼 800 円 / 夜 4,500 円25 席15.6 万円62.8 万円
弁当×居酒屋(二毛作)700 万円昼 1,000 円 / 夜 3,500 円25 万円95 万円
白湯おでん居酒屋1,300 万円4,500 円小規模36 万円135 万円
演出型居酒屋(駅前)3,355 万円2,500 円39 万円358 万円

同じ「居酒屋」でこの幅です。 そして幅を作っている最大の要因は店の広さではなく、人を雇うかどうかと、家賃をいくら払う立地を選ぶかです。上の 2 件(融資 300 万円・400 万円)はどちらもオーナー 1 人で回す設計で人件費がゼロ、家賃も 4〜17 万円台です。一番下の 1 件は人件費 161 万円・家賃 39 万円で、固定費が 358 万円になります。

固定費が違えば、必要な客数も違います。以下、レンジの両端で実際に計算します。

計算過程 — 小規模・高単価(客単価 4,500 円)

白湯おでん居酒屋の開業計画(融資 1,300 万円)の数字です。

[前提]
  客単価      4,500 円
  原価率      30%  → 粗利率 70%  → 1 人あたり粗利 3,150 円
  人件費      46 万円(正社員 1 名・アルバイト 1 名)
  家賃        36 万円
  支払利息     3 万円
  その他経費  50 万円(水道光熱費・広告費等)
  ────────────────────────
  固定費合計  135 万円 / 月

[赤字ライン]
  必要売上 = 135 万円 ÷ 0.70            = 約 193 万円 / 月
  必要客数 = 135 万円 ÷ 3,150 円         = 約 429 人 / 月
             429 人 ÷ 営業 26 日         = 1 日 約 16 人

[目標月商 299 万円のライン]
  必要客数 = 299 万円 ÷ 4,500 円         = 約 664 人 / 月
             664 人 ÷ 26 日              = 1 日 約 26 人

1 日 16 人で赤字を回避でき、26 人で計画通りの利益が出ます。 客単価 4,500 円という設定がこれを可能にしています。1 人が 4,500 円使う店では、粗利が 1 人あたり 3,150 円あるため、少ない客数でも固定費を回収できます。

なおこの計画では、開業当初の想定売上 203 万円は損益分岐点 193 万円をわずかに超えるだけで、利益は月 7 万円程度です。「初月から回る」という前提で運転資金を薄くすると、ここで詰まります。

計算過程 — 駅前大型・中単価(客単価 2,500 円)

演出型居酒屋の開業計画(融資 3,355 万円)の数字です。

[前提]
  客単価      2,500 円
  原価率      27%  → 粗利率 73%  → 1 人あたり粗利 1,825 円
  人件費      161 万円(売上比 約 25%)
  家賃        39 万円(駅前一等地)
  支払利息・その他 158 万円(販促費・水道光熱費・金利等)
  ────────────────────────
  固定費合計  358 万円 / 月

[赤字ライン]
  必要売上 = 358 万円 ÷ 0.73            = 約 490 万円 / 月
  必要客数 = 358 万円 ÷ 1,825 円         = 約 1,962 人 / 月
             1,962 人 ÷ 営業 26 日       = 1 日 約 75 人

[目標月商 634 万円のライン]
  必要客数 = 634 万円 ÷ 2,500 円         = 約 2,536 人 / 月
             2,536 人 ÷ 26 日            = 1 日 約 98 人

1 日 75 人来て、ようやく赤字を回避します。 小規模・高単価の店(1 日 16 人)と比べて 約 4.6 倍の客数が必要です。融資額が 2.6 倍(1,300 万円 → 3,355 万円)なのに必要客数が 4.6 倍になるのは、規模を大きくすると人件費が固定費として乗るからです。

ここが居酒屋開業でいちばん誤解されやすい点です。「大きい店のほうが売上が立つから安心」ではなく、大きい店は毎月その売上を立て続けないと成立しないという構造です。この店は目標月商 634 万円に対して安全余裕が約 144 万円(23%)しかありません。

自分の店の数字で計算する

2 例は条件が違うだけで、式は同じです。自分の見込みを入れてください。

1 日あたり必要客数 = (家賃 + 人件費 + 水道光熱費 + 借入返済 + その他固定費)
                     ÷ (客単価 × 粗利率)
                     ÷ 月間営業日数

置き換えるときに効くのは、次の 3 つです。

  • 客単価を 500 円上げると、必要客数は減ります。 客単価 2,500 円・粗利率 73% の店を 3,000 円にすると、1 人あたり粗利が 1,825 円から 2,190 円になります。同じ固定費 358 万円に必要な客数は、1 日 75 人から 1 日あたり約 63 人に下がります
  • 人を 1 人雇うと(月 25 万円)、必要客数は増えます。 粗利 1,825 円の店で 1 日あたり約 5 人、粗利 3,150 円の店で約 3 人です
  • 借入の元金返済は費用ではありませんが、現金は出ます。 会計上の赤字ラインではなく、返済を足したラインを目標にしてください

この数字の限界(そのまま自分の店に当てはめないでください)

  • 母集団は 6 件で、居酒屋の平均ではありません。 実際に融資が実行された個別の開業計画であり、統計値として扱えるサンプル数ではありません
  • いずれも計画値で、決算の実績値ではありません。 開業前に立てた見込みです
  • 固定費に事業主自身の生活費を含んでいない計画があります。 オーナーの給与を月 30 万円取るなら、その分だけ必要客数が増えます(粗利 3,150 円の店で 1 日あたり約 4 人、1,825 円の店で約 6 人)
  • 営業日数を 26 日で計算しています。 週休 2 日(月 22 日)にすると 1 日あたり必要客数は約 2 割増えます
  • 客単価が昼と夜で分かれている事例は、必要客数を単一の数字で出せません。 表では客単価をそのまま併記し、計算は客単価が 1 つに決まる 2 件で行っています

居酒屋に固有の 3 つの論点

1. 深夜 0 時以降に酒を出すなら、警察署への届出が必要

居酒屋でいちばん見落とされるのが深夜酒類提供飲食店営業開始届出です。 午前 0 時以降も酒類を提供する場合、営業開始の 10 日前までに警察署へ届出をします。届出をせずに 0 時以降も酒を出すと無届営業になります。

居酒屋は夜遅い時間帯の需要が大きく、「最初は 0 時までのつもりだった」店が営業してみて需要に気づき、慌てて届出をするという流れがよくあります。営業時間の想定を楽観的に置かず、可能性があるなら先に届出を済ませておくほうが安全です。

なお、この届出ができない用途地域・立地もあります。深夜営業を収支計画に織り込むなら、物件を契約する前に確認してください。 契約後に判明すると、想定していた売上の一部が最初から立たなくなります。

その他の手続き(保健所の飲食店営業許可、消防署の防火対象物使用開始届など)は一般の飲食店と同じです。期限つきの一覧は 飲食店開業の手続きと届出 にまとめています。

2. 単価帯を決めないと、席数も立地も決まらない

上の 2 例が示すとおり、客単価は「あとで決めること」ではありません。客単価が決まらないと、必要客数が出ず、必要客数が出ないと必要な席数も立地も決まりません。

客単価 2,500 円 / 粗利率 73% → 1 人あたり粗利 1,825 円
客単価 4,500 円 / 粗利率 70% → 1 人あたり粗利 3,150 円
                                     ↑ 同じ固定費でも必要客数が 1.7 倍ちがう

順番は、単価帯 → 必要客数 → 席数と回転 → 立地と家賃です。逆から入る(先に物件を見つける)と、その家賃を成立させる客単価と客数を後から探すことになり、無理な計画になります。

3. 昼の商売を足すかどうかで、固定費の重さが変わる

6 件のうち 3 件(惣菜×居酒屋弁当兼居酒屋弁当×居酒屋)は、昼に弁当・惣菜を売る二毛作型です。

この型の狙いは売上の上積みではなく、同じ家賃で 2 回商売をすることで、固定費 1 円あたりの回収効率を上げることにあります。実際、融資 300 万円の事例は家賃 4.25 万円・人件費ゼロで固定費 15 万円に収まっており、赤字ラインが極端に低くなっています。

ただし仕込みの工数は増えます。人件費ゼロの計画は「オーナーが昼夜通して働く」という前提であり、その労働の対価は月次利益の中に含まれています。固定費が低いことと、楽であることは別です。

実際の開業計画(数字の裏付け)

この記事の数字は、以下の公開済みの開業支援事例から取っています。前提の置き方や融資審査での説明のしかたまで公開しているので、自分の計画を組むときの型として使えます。

REDISH の開業支援は融資成功率 90% 以上です(詳細は 開業支援サービス)。数字の作り方そのものを一緒に組み立てます。

よくある質問

居酒屋の開業にはいくら必要ですか?

一つの答えはありません。上記 6 件では融資額が 300 万円から 3,355 万円まで分布しています。金額を先に決めるのではなく、客単価と席数と立地を決めて、そこから必要な資金を積み上げてください。 全業種の平均額は 飲食店の開業資金 で解説しています。

1 日に何人来れば黒字になりますか?

固定費と客単価で決まります。上記の例では、客単価 4,500 円・固定費 135 万円の店で 1 日約 16 人、客単価 2,500 円・固定費 358 万円の店で 1 日約 75 人です。自分の条件では、本記事の計算式に家賃・人件費・客単価を入れて出してください。

居酒屋の開業に資格は必要ですか?

調理師免許は必須ではありません。必要なのは店舗ごとの食品衛生責任者 1 名以上と、収容人員 30 人以上の場合の防火管理者です。深夜 0 時以降に酒類を提供するなら、別途警察署への届出が必要です。

小さく始めるほうが安全ですか?

赤字ラインは確実に下がります。固定費 15 万円の店と 358 万円の店では、必要な客数が根本的に違います。ただし小さい店は売上の上限も低く、オーナーの労働時間で成り立っている計画が多いという前提を理解しておく必要があります。安全さと、伸びしろと、自分の労働時間のどれを優先するかという選択です。

昼も営業したほうがいいですか?

同じ家賃で 2 回商売できるため、固定費の回収効率は上がります。上記 6 件のうち 3 件が昼の弁当・惣菜と夜の居酒屋を組み合わせた二毛作型です。ただし仕込みの工数が増えるため、人を雇わない前提なら労働時間が長くなります。

深夜営業の届出は後からでもできますか?

できますが、営業開始の 10 日前までという期限があるため、届出が受理されるまでの期間は 0 時以降に酒類を提供できません。深夜帯の売上を収支計画に入れているなら、その期間は計画通りの売上が立ちません。先に済ませておくほうが安全です。