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開業前に知っておきたかった、現場での“意外な落とし穴”

こんにちは。 REDISHで開業サポートを担当している花上です。
私はこれまで、神奈川・京都の5つ星ホテルで5年間、主に婚礼料理やフレンチの現場に携わり、仕込みから提供まで一切の妥協が許されない環境で経験を積んできました。その後は街づくり会社の飲食部門にて、約3年間フードディレクターとして従事し、飲食店や企業のメニュー開発、撮影ディレクションなど、店舗づくりの上流から現場運用まで幅広く関わってきました。

そうした経験の中で、何度も目にしてきたのが—— 「図面では完璧だったのに、いざ営業してみると回らない」という現実です。

飲食店の現場では、この“設計と運用のズレ”が想像以上に大きな差を生みます。開業前はどうしてもコンセプトや内装デザインに意識が向きがちですが、実際の売上や継続性を左右するのは、“日々のオペレーションの快適さ”です。
本コラムでは、これから開業を目指す方に向けて、現場に立って初めて気づく「意外な落とし穴」を、実体験をもとにお伝えします。今回はその中でも特に見落とされがちな2つのポイントについて、掘り下げていきます。

1. 「動線・設計」の落とし穴

図面上の「広さ」は、現場ではほとんど意味を持ちません。重要なのは、“無駄な一歩が発生しない配置”“ストレスなくすれ違える幅”です。
例えばキッチン。
冷蔵庫、コンロ、盛り付け台、電子レンジ——これらがスムーズな導線上に並んでいるかどうかで、作業効率は大きく変わります。一歩動くごとに2〜3秒のロスが発生し、それが1日単位では数十分、1ヶ月では数時間にもなります。この差は、ピークタイムの回転率やスタッフの疲労に直結します。

ここで意識したいのは、“点”ではなく“流れ”で設計することです。 例えば「冷蔵庫→仕込み→加熱→盛り付け→提供」という一連の動きが、振り返りや往復を最小限にできているか。頭の中だけでなく、実際にその場を歩くイメージでシミュレーションすることで、見えてくる違和感があります。
さらに見落とされがちなのがコンセントの位置です。
「ここにあれば便利だったのに」が一度発生すると、延長コードや無理な配置で現場が歪み続けます。結果として見た目だけでなく安全性も損なわれ、日々の小さなストレスが積み重なります。使用する機材の配置と動きを前提に、“どこで・何を・どの向きで使うか”まで具体的に落とし込むことが重要です。

ホールにおいては、「メイン動線の死守」が最優先です。
席数を増やしたくなる気持ちは当然ですが、通路幅(80〜90cm)を削ると本末転倒になります。お客様が椅子を引いた状態でも、スタッフがスムーズに配膳・バッシングできるかどうか。この余白がなければ、提供スピードが落ち、結果的に回転率も売上も下がります。

また、ピークタイムを想定した「人の交差」も重要な視点です。 料理を運ぶスタッフ、下げ物をするスタッフ、入退店するお客様——これらが同時に動いたときに、詰まりやストレスが発生しないか。実際の営業シーンを想定して動線を検証することで、“回る店”かどうかが見えてきます。
さらに、動線はスタッフだけでなく「お客様の体験」にも直結します。 狭さや混雑によるストレスは、無意識のうちに滞在満足度を下げ、再来店意欲にも影響します。つまり動線設計は、単なる効率の問題ではなく、売上とブランド体験の両方に関わる重要な要素なのです。

2. 「身体の負担」という隠れたコスト

もう一つの落とし穴は、“人の体”にかかる負担です。
設備投資は目に見えますが、身体への負荷は見えにくく、しかし確実に経営へ影響を与えます。日々の営業で蓄積される小さな疲労や違和感は、やがてパフォーマンスの低下や離職、休業といった大きな損失へとつながります。
例えば作業台の高さ。
一般的には85cmが基準とされますが、それが自分に合うとは限りません。目安は「身長 ÷ 2 + 5cm」。わずか数センチの差でも、長時間の仕込みや調理では腰や肩への負担が大きく変わります。結果として、疲労の蓄積や怪我につながり、集中力の低下や作業スピードの鈍化を招きます。

ここで重要なのは、「自分だけでなくスタッフ全員にとって最適か」という視点です。
複数人で回す現場では、平均値に寄せるのか、調整できる設計にするのか(まな板や台のかさ上げなど)、運用を前提にした工夫が必要になります。
また、立ち仕事が前提となる飲食店では、「足元の環境」も見逃せません。
クッション性のあるマットを部分的に取り入れるだけでも、長時間の疲労軽減につながりますし、靴の選定ひとつでも体への負担は大きく変わります。こうした細かな配慮が、日々のコンディションを安定させます。

床材の選定も同様です。
デザイン性だけで選んでしまうと、「滑りやすい」「水が溜まる」といった問題が後から発生します。滑る床は労災リスクを高め、水はけの悪い床は悪臭や清掃負担の増加を招きます。排水勾配や素材の特性まで含めて検討することが不可欠です。場合によっては、床流しができる仕様のほうが運用しやすいケースもあります。
さらに見落とされがちなのが、「清掃のしやすさ=身体への負担」という視点です。
掃除に時間がかかる設計や、無理な姿勢を強いるレイアウトは、営業後の疲労を大きく増幅させます。結果として清掃の質が下がり、衛生面のリスクにもつながりかねません。

身体への負担は、“慣れ”でカバーできるものではなく、“設計”でしか防げない領域です。
だからこそ開業前の段階で、「長く無理なく働き続けられるか」という視点を持つことが、結果的に最も大きなコスト削減につながります。

最後に

店舗づくりは「見た目」よりも「使い続けられるかどうか」が本質です。
1日の小さなストレスやロスは、積み重なることで確実に経営を圧迫します。逆に言えば、日々のオペレーションがスムーズに回る設計は、それだけで利益を生み続ける“資産”になります。

開業前に一度立ち止まり、「この店で自分は1日何歩動くのか」「その動きに無理はないか」を具体的にシミュレーションしてみてください。

可能であれば、実際の動きを想定して動線をなぞる、ピークタイムをイメージして複数人で動いてみる、といった“現場目線の検証”を行うことで、図面では見えなかった課題が浮き彫りになります。
また、「自分が回せるか」だけでなく、「誰が入っても回るか」という視点も重要です。人に依存しすぎない設計は、スタッフの育成やシフト運用の柔軟性を高め、長期的な安定経営につながります。

お店は完成した瞬間がゴールではなく、そこから何年も使い続けていく“現場”です。 だからこそ、“美しく見える設計”だけでなく、“無理なく回り続ける設計”に目を向けること。
その積み重ねが、結果としてお客様の満足度を高め、長く愛される店をつくる土台になります。

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