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税理士監修|節税しすぎは危険?飲食店経営で失敗しない税金対策とは

飲食店経営では、「売上を伸ばすこと」と同じくらい「利益を守ること」が重要です。
せっかく売上が増えても、税金の負担が大きくなれば手元に残るお金は減ってしまいます。そのため、多くの経営者が節税について関心を持っています。
しかし、節税は単純に税金を減らせばよいというものではありません。過度な節税は金融機関からの評価を下げたり、将来的な資金調達に悪影響を及ぼしたりするケースもあります。
この記事では、飲食店経営者が知っておべき合法的な節税方法や注意点、法人化の判断基準について税理士の視点から詳しく解説します。

監修:中村 謙一 (クロスポイント税理士法人|代表社員)

事業会社の経理職を経て税理士業界へ進み、現在はプロフェッショナル組織「REDISH」のプロジェクトにも参画。実務経験に裏打ちされた管理会計や資金繰り支援を得意とし、現場に寄り添った経営サポートを強みとする。

また、VBAからGASへの移行など、ITを活用したデータ処理の自動化による業務効率化にも注力しており、迅速かつ正確な対応を実現している。

節税と脱税はまったく違う

飲食店経営者が節税を考える際に、まず理解しておきたいのが「節税」と「脱税」の違いです。
節税とは、税法で認められた制度や特例、各種控除を適切に活用し、納税額を合法的に抑えることを指します。事業を継続していくうえで重要な経営戦略の一つであり、多くの企業や個人事業主が実践しています。

一方で脱税は、本来申告しなければならない売上を隠したり、実際には発生していない経費を計上したりすることで税金を不正に減らす違法行為です。

特に飲食店は現金取引が発生しやすい業種であるため、税務署から売上管理の実態を重点的に確認される傾向があります。売上の除外やレジデータと申告内容の不一致、架空経費の計上などが発覚した場合には、本来納めるべき税金に加えて延滞税や加算税などのペナルティが課される可能性があります。
また、税務調査で問題が指摘されると、金融機関からの信用低下や融資審査への悪影響につながることもあります。

節税は「税金を払わないこと」ではなく、「法律の範囲内で適正な税額に抑えること」です。長期的に安定した経営を実現するためにも、正しい知識に基づいた合法的な節税対策を行うことが重要です。

飲食店がまず取り組むべき節税は「経費の適正計上」

飲食店の節税対策として、最も基本的かつ効果が大きいのが経費の適正計上です。
実際には経費として認められる支出があるにもかかわらず、領収書の紛失や記帳漏れによって計上できていないケースは少なくありません。経費を正しく計上することで課税対象となる利益を適正に抑えられるため、結果として税負担の軽減につながります。
飲食店で経費計上できる主な項目には次のようなものがあります。

食材費・ドリンク仕入れ
テイクアウト容器や割り箸などの消耗品費
制服やエプロンなどの被服費
チラシやSNS広告などの広告宣伝費
POSレジや予約システムの利用料
クレジットカードやQR決済の手数料
水道光熱費
インターネットや電話料金などの通信費
配達や買い出しに使用する車両関連費
取引先との会食費や接待交際費
セミナーや勉強会への参加費
税理士報酬やコンサルティング費用

近年はデリバリーサービス利用料やモバイルオーダーシステム利用料なども重要な経費項目となっています。新しいサービスを導入した際には、経費処理の方法を確認しておくとよいでしょう。
また、開業初期の飲食店では自宅の一部を事務作業や経理業務のスペースとして利用するケースも少なくありません。この場合は「家事按分(かじあんぶん)」を行うことで、家賃や光熱費、通信費の一部を経費として計上できる可能性があります。

例えば、自宅全体のうち20%を事務スペースとして継続的に使用している場合には、家賃や電気代、インターネット料金などの20%を事業経費として計上できるケースがあります。
ただし、家事按分は合理的な根拠が必要です。面積割合や使用時間などを基準に説明できるようにしておきましょう。
さらに見落とされやすい経費として、店舗視察を兼ねた飲食代、業界誌や専門書の購入費、スタッフ採用のための求人掲載費などがあります。これらも事業との関連性が明確であれば経費として認められる可能性があります。

節税のために特別な対策を行う前に、まずは日々の経費を正確に記録することが重要です。領収書や請求書は月ごとに整理し、会計ソフトやクラウド会計を活用してタイムリーに記帳する習慣をつけましょう。
経費の計上漏れを防ぐだけでも、年間の税負担が数万円から数十万円変わるケースは珍しくありません。飲食店経営における節税の第一歩は、「経費を増やすこと」ではなく「本来計上できる経費を漏れなく記録すること」だといえるでしょう。

青色申告特別控除を活用する

個人事業主として飲食店を経営している場合、ぜひ活用したいのが「青色申告制度」です。
青色申告は単なる確定申告の方法ではなく、個人事業主が利用できる代表的な節税制度の一つです。正しく活用することで、所得税や住民税の負担を大幅に軽減できる可能性があります。
青色申告の最大のメリットは「青色申告特別控除」です。
複式簿記による記帳を行い、電子申告(e-Tax)など一定の要件を満たすことで、最大65万円の所得控除を受けることができます。

例えば課税所得が500万円の場合、65万円分の所得を差し引いて税額計算が行われるため、所得税と住民税の負担を軽減できます。所得水準によって異なりますが、実際には数万円から十数万円程度の節税効果が期待できるケースもあります。
また、青色申告のメリットは特別控除だけではありません。
主なメリットとして以下の制度があります。

最大65万円の青色申告特別控除
赤字を3年間繰り越せる純損失の繰越控除
家族への給与を経費計上できる青色事業専従者給与
30万円未満の資産を即時経費化できる少額減価償却資産の特例

飲食店では開業直後や店舗改装時などに赤字が発生することがありますが、青色申告をしていればその赤字を翌年以降の黒字と相殺できるため、将来の税負担を軽減できます。
また、配偶者や家族が店舗運営を手伝っている場合は、一定の要件を満たすことで給与を経費として計上できるため、所得分散による節税効果も期待できます。
近年はクラウド会計ソフトの普及によって複式簿記のハードルも大きく下がっています。開業したばかりの飲食店であっても、早い段階から青色申告を選択することをおすすめします。

小規模企業共済で将来資金を準備しながら節税

飲食店オーナーに人気の高い節税制度の一つが「小規模企業共済」です。
小規模企業共済は、中小企業経営者や個人事業主のために設けられた退職金制度であり、「経営者のための退職金積立制度」とも呼ばれています。
最大の特徴は、支払った掛金が全額所得控除の対象になることです。
掛金は月額1,000円から70,000円まで500円単位で設定でき、経営状況に応じて増額や減額も可能です。

例えば毎月70,000円を積み立てた場合、年間の掛金は84万円になります。この84万円がそのまま所得控除となるため、課税所得を大きく圧縮できます。
課税所得が高い経営者ほど節税効果も大きくなるため、利益が安定している飲食店には特に有効な制度といえるでしょう。
さらに、小規模企業共済は積立だけでなく将来的な資金確保の面でもメリットがあります。
受取時には、

一括受取の場合は退職所得扱い
分割受取の場合は公等年金等の雑所得扱い

となり、税制上の優遇を受けられます。
また、一定の範囲内で積立金を担保に低金利の貸付制度を利用できるため、急な資金需要が発生した際の備えとしても活用できます。
飲食業は景気や立地の影響を受けやすく、将来の収入が不安定になることもあります。老後資金の準備と節税を同時に実現できる制度として、多くの飲食店オーナーが利用しています。

iDeCoを活用して所得税・住民税を削減する

将来の資産形成と節税を両立したい場合は、iDeCo(個人型確定拠出年金)の活用も有効です。
iDeCoは自分で掛金を積み立て、自分で運用商品を選択しながら老後資金を形成する制度です。
個人事業主の場合、掛金は全額が所得控除の対象となるため、所得税と住民税の負担を軽減できます。
例えば年間40万円を積み立てた場合、その40万円分だけ課税所得が減少するため、その分税金を抑えることができます。
iDeCoには次の3つの税制メリットがあります。

掛金が全額所得控除になる

掛金は全額が所得控除となります。
そのため、利益が出ている飲食店経営者ほど節税効果を実感しやすい制度です。

運用益が非課税になる

通常、投資信託や株式などで得た利益には税金がかかります。
しかしiDeCoの運用益は非課税で再投資されるため、長期間運用するほど複利効果を期待できます。

受取時も税制優遇がある

将来受け取る際には退職所得控除や公的年金等控除などの優遇措置が利用できるため、受取時の税負担も抑えられます。

ただし、iDeCoには注意点もあります。
最大のデメリットは、原則として60歳まで資金を引き出せないことです。
飲食店経営では設備故障や店舗改装、運転資金不足など予期せぬ資金需要が発生することがあります。そのため、手元資金に余裕がない段階で無理に掛金を増やしすぎると、資金繰りを圧迫する可能性があります。
まずは事業運営に必要な運転資金を十分に確保したうえで、余裕資金の範囲内で活用することが大切です。
小規模企業共済とiDeCoは併用も可能なため、利益が安定している飲食店オーナーであれば、両制度を組み合わせることで大きな節税効果と将来の資産形成を同時に実現できるでしょう。

設備投資に関する税制優遇を活用する

飲食店経営では、厨房機器や冷蔵・冷凍設備、POSレジ、券売機、空調設備など、高額な設備投資が必要になる場面が少なくありません。
これらの設備は購入した年に全額を経費計上するのではなく、法定耐用年数に応じて減価償却を行い、数年にわたって経費化するのが原則です。
しかし、中小企業や個人事業主向けには設備投資を後押しするための税制優遇制度が設けられており、一定の要件を満たすことで通常よりも有利な税務処理が可能になる場合があります。
代表的な制度としては次のようなものがあります。

即時償却
特別償却
税額控除
中小企業経営強化税制
中小企業投資促進税制

例えば、生産性向上につながる設備やデジタル化を推進する設備を導入した場合、取得した年度に大きな節税効果を得られる可能性があります。
また、近年ではセルフオーダーシステムやモバイルオーダー、キャッシュレス決済端末などの導入も進んでおり、対象設備に該当するケースもあります。
設備投資は節税だけでなく、業務効率化や人手不足対策、顧客満足度向上にもつながります。そのため、「税金を減らすために設備を買う」のではなく、「経営改善につながる投資を行った結果として節税メリットを得る」という考え方が重要です。
なお、税制優遇制度は適用期限や要件が定期的に見直されるため、設備購入後ではなく購入前の段階で税理士へ相談することをおすすめします。

節税しすぎると融資に不利になることがある

節税を考える際に見落とされがちなのが、金融機関からの評価とのバランスです。
飲食店経営では運転資金や設備資金、新規出店資金などの調達のために融資を活用する場面が多くあります。
銀行や日本政策金融公庫は融資審査を行う際、決算書や確定申告書を通じて企業の収益力や返済能力を確認します。

そのため、過度な節税によって利益を極端に圧縮してしまうと、「利益が出ていない会社」と評価される可能性があります。
例えば、本来1,000万円の利益が出ているにもかかわらず、多額の設備投資や経費計上によって利益を100万円まで圧縮した場合、金融機関は基本的に100万円の利益しか確認できません。経営者としては節税に成功したつもりでも、金融機関から見れば返済余力が小さい企業として映る可能性があります。

特に次のようなケースでは、ある程度の利益を残すことが重要になります。

新規出店を予定している
2店舗目・3店舗目の展開を計画している
店舗改装や大型設備投資を検討している
運転資金の融資を受ける予定がある
補助金や助成金の申請を検討している
将来的な法人化を考えている

金融機関は売上だけでなく、「利益を継続的に生み出せるか」を重視します。
そのため、節税対策を行う際は税額の削減だけを目的にするのではなく、資金調達や事業拡大も含めた経営全体の視点で判断することが大切です。
飲食店経営においては、「納税できる会社は良い会社」と評価されることも少なくありません。

個人事業主と法人はどちらが節税になる?

飲食店オーナーから頻繁に寄せられる質問の一つが、「個人事業主のままがよいのか、それとも法人化した方が節税になるのか」というものです。
結論から言えば、一概にどちらが有利とは言えず、利益水準や事業規模によって最適な選択は異なります。
個人事業主の場合、所得税は累進課税制度が採用されています。利益が増えるほど税率が上昇し、住民税も含めると税負担は徐々に重くなります。
一方で法人の場合は法人税が適用されるため、一定以上の利益が出ている場合には個人事業主より税負担を抑えられるケースがあります。
また、法人には節税面以外にもさまざまなメリットがあります。

役員報酬を経費計上できる
家族への給与設計がしやすい
退職金制度を活用できる
社宅制度を利用できる
生命保険を活用しやすい
事業承継対策がしやすい
金融機関からの信用力が向上する

特に複数店舗展開を目指している飲食店の場合、法人化によって対外的な信用力が高まり、融資や採用活動で有利になることもあります。
ただし、法人化にはデメリットもあります。法人住民税の均等割が発生するほか、社会保険への加入義務や税務手続きの増加など、維持コストも高くなります。
そのため、「節税になるから法人化する」のではなく、事業の成長段階や将来計画も踏まえて判断することが重要です。

法人化するベストなタイミングとは?

一般的に法人化を検討する目安とされているのは、年間所得(利益)が800万円〜1,000万円程度を超えるタイミングです。
この水準になると個人事業主の所得税率が上昇し始めるため、法人化による税負担軽減効果が期待しやすくなります。
また、次のような状況に当てはまる場合も法人化を検討するタイミングといえるでしょう。

2店舗目・3店舗目の出店を計画している
従業員数が増えてきた
利益が毎年安定している
銀行融資を積極的に活用したい
取引先との信用力を高めたい
将来的な事業承継を見据えている

特に飲食店では、店舗数が増えるほど資金調達や組織運営の重要性が高まります。法人化によって経営管理体制を整えることで、事業拡大をスムーズに進められるケースも少なくありません。
ただし、法人化による節税効果は経営者の役員報酬や家族構成、社会保険料負担などによって大きく変わります。実際に法人化を検討する際は、シミュレーションを行ったうえで税理士に相談することをおすすめします。

まとめ

飲食店でできる合法的な節税方法としては、次のようなものがあります。

経費を漏れなく計上する
青色申告特別控除を活用する
小規模企業共済に加入する
iDeCoを活用する
設備投資に関する税制優遇制度を利用する
利益水準に応じて法人化を検討する

ただし、節税は税金を減らすこと自体が目的ではありません。重要なのは、事業の成長や資金繰りを維持しながら、適正な税負担を実現することです。
過度な節税によって利益が少なく見えてしまうと、融資審査や補助金申請、新規出店計画に悪影響を及ぼす可能性があります。
飲食店経営では「節税」と「資金調達力」のバランスを取ることが重要です。目先の税額だけにとらわれず、将来の店舗展開や経営計画も見据えながら、自社に合った節税対策を進めていきましょう。
判断に迷う場合は、税理士へ早めに相談し、自社に最適な節税プランを検討することをおすすめします。

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