Column
コラム
近年、原材料費や光熱費の高騰に加え、人手不足による人件費の上昇など、飲食店を取り巻く経営環境はますます厳しくなっています。
そのような中で、「売上は伸びているのに利益が残らない」「忙しいのに思うようにお金が増えない」といったご相談をいただく機会が増えています。原因はさまざまですが、その中でも特に多いのが人件費に関する課題です。
私は調理師専門学校卒業後、飲食店の現場を経験し、その後、公認会計士・税理士として数多くの飲食店の経営支援に携わってしてきました。現場と数字の両方を見てきた経験から感じるのは、人件費は単純に削減すればよいものではなく、売上やサービス品質とのバランスを取りながら適正化することが重要だということです。
今回は、飲食店経営における人件費の適正水準や、人件費を見直す際のポイントについて解説します。
監修:中村悦也(クロスポイント税理士法人)
調理師専門学校を卒業後、飲食店での現場経験を積み、その後公認会計士として大手監査法人にて飲食業向け会計監査に従事。さらに税理士事務所で中小企業支援の実績を重ねるなど、「飲食業界に強い」専門家として活動しています。
現場を知る会計・税務のプロだからこそ、飲食店オーナーが抱えるリアルな悩みや課題に寄り添い、資金繰り・税務・経営管理まで幅広くサポート。飲食店開業を目指す方々の夢の実現を力強く支援しています。
人件費は売上の何%が適正なのか?
飲食店の人件費は、一般的に売上の30%前後が目安とされています。
ただし、この数字はあくまでも一般論であり、立地や業態、営業時間、提供するサービス内容によって適正な水準は異なります。そのため、「人件費率が30%を超えているから危険」と一概に判断するのではなく、自店のビジネスモデルに照らして考えることが重要です。
また、飲食店経営では「FL比率」という重要な指標があります。
F(Food):食材原価
L(Labor):人件費
この2つを合計した割合をFL比率と呼び、一般的には60%以内が理想とされています。
例えば、
食材原価率:30%
人件費率:30%
であれば、FL比率は60%となります。
FL比率は飲食店の収益性を判断するうえで非常に重要な指標です。なぜなら、売上から最も大きな割合を占めるコストが「食材費」と「人件費」だからです。この2つを適切にコントロールできなければ、家賃や水道光熱費などの固定費を支払った後に十分な利益を残すことが難しくなります。
フルサービス型店舗
居酒屋やレストランなど、スタッフによる接客サービスを重視する店舗は人件費率が高くなる傾向があります。
例えば、
席への案内
オーダー受付
料理やドリンクの提供
会計対応
など、多くの業務を人が担うためです。
特に高単価業態では、お客様へのサービス品質が売上に直結するため、人件費率が30%を超えるケースも珍しくありません。
セルフサービス型店舗
一方で、ラーメン店やテイクアウト専門店、セルフオーダーを導入している店舗では、人件費を比較的抑えやすい傾向があります。
近年は、
モバイルオーダー
セルフレジ
配膳ロボット
などの導入によって、省人化を進める店舗も増えています。
こうした仕組みを活用することで、人件費率を低く抑えながら運営できるケースもあります。
大切なのは「業態に合った目標設定」
経営者の方の中には、「同業他社は人件費率が25%だから、自店も下げなければ」と考える方もいます。しかし、業態やサービス内容が違えば適正な人件費率も当然異なります。
重要なのは他店との比較ではなく、
現在の人件費率
FL比率
営業利益
客数や客単価の推移
を定期的に確認しながら、自店にとって無理のない目標値を設定することです。
人件費は単なるコストではなく、お客様満足度やサービス品質を支える投資でもあります。数字だけを追うのではなく、「利益を残しながら良いサービスを提供できる水準」を見極めることが、飲食店経営の成功につながります。
シフトを増やしたのに利益が出ない理由
「人手不足だからスタッフを増やした」
「サービス向上のためにシフトを厚くした」
それにもかかわらず利益が改善しないケースは珍しくありません。
飲食店では、人件費の増加がそのまま利益改善につながるわけではありません。むしろ、人员配置が適切でなければ、人件費だけが増加して利益を圧迫してしまうことがあります。
原因として多いのが、売上ピークと人员配置が合っていないことです。
例えば、
ランチ後のアイドルタイムにスタッフが余っている
平日の夜と週末で同じ人数を配置している
閑散時間帯にもフルメンバーで営業している
雨の日や予約の少ない日でも通常体制でシフトを組んでいる
といった状況です。
こうした状態では、スタッフは出勤していても十分な業務量がなく、「待機時間」に対して給与を支払っている状態になってしまいます。
人件費は変動費と思われがちですが、実際にはシフトが確定すると固定費に近い性質を持ちます。そのため、売上が計画どおりに伸びなければ、そのまま利益を圧迫する要因になります。
また、人件費増加分を回収するだけの
客数増加
客単価向上
回転率改善
が伴っていなければ、利益は残りません。
例えば時給1,100円のスタッフを1日5時間追加した場合、人件費は1日あたり5,500円増加します。利益率を考慮すると、その人件費を回収するためには単純に5,500円以上の売上増加必要になります。
「人を増やしたから売上が伸びるはず」という感覚ではなく、「増えた人件費を回収できるだけの売上が見込めるか」という視点が重要です。
そのためには、
POSデータによる時間帯別売上分析
曜日別の来店傾向分析
予約状況の把握
スタッフごとの生産性の確認
などを行い、根拠のあるシフト設計を行うことが求められます。
経験や勘だけに頼るのではなく、数字を活用した人員配置が利益改善への近道です。
アルバイト採用で見落としがちなコスト
採用コストというと、求人媒体への掲載費をイメージする方が多いかもしれません。
しかし実際には、それ以外にも多くのコストが発生しています。
飲食店では慢性的な人手不足から「まずは採用すること」が目的になりがちですが、本当に重要なのは「採用した人材が戦力として定着すること」です。
採用にかかるコストを正しく把握していないと、人件費管理の精度も低下してしまいます。
面接・採用にかかる時間
オーナーや店長が面接を行う時間も本来は人件費です。
求人応募への対応や日程調整、面接、採用後の手続きなど、採用活動には想像以上の時間がかかっています。
その時間、本来であれば店舗運営や売上向上のための業務に充てられた可能性もあります。
教育コスト
新人教育中は既存スタッフの手が止まり、生産性が低下します。
教育担当者が付けば、その分だけ現場の戦力が減ることになります。
また、飲食店の仕事は接客や調理だけでなく、
オペレーションルール
衛生管理
レジ操作
メニュー知識
など覚えることが多く、一人前になるまでには一定の期間が必要です。
制服や備品代
ユニフォームや名札、ロッカー用品なども採用人数に比例して増加します。
1人あたりでは小さな金額でも、採用と離職を繰り返すことで大きな負担になるケースがあります。
早期離職による損失
最も大きな見えないコストがこれです。
採用して教育したにもかかわらず、数週間や数か月で退職してしまうと、それまでにかけた募集費・教育費・管理コストは回収できません。
特に飲食店では学生アルバイトや短時間勤務者も多く、離職率が高くなりやすい傾向があります。
そのため、
採用人数を増やす
求人広告費を増やす
ことだけでなく、
定着率を高める
働きやすい環境を整える
教育体制を整備する
コミュニケーションを活性化する
評価制度や昇給制度を明確にする
といった取り組みが重要になります。
結果として、採用と離職を繰り返すよりも、既存スタッフが長く働いてくれる環境を整える方が、人件費の最適化と店舗の安定運営につながるケースは少なくありません。
タイミーなどスポットワーカー活用時の注意点
近年は人手不足の影響もあり、タイミーをはじめとしたスポットワーカーサービスを活用する飲食店が増えています。
「急な欠勤が出た」
「週末だけ人手が足りない」
「繁忙期だけ追加で人員を確保したい」
といった場面では非常に有効な手段です。
実際に、従来のアルバイト採用のように募集から面接, 採用までの時間をかける必要がなく、必要な時に必要な人数を確保できる点は大きなメリットといえるでしょう。
一方で、活用方法を誤ると人件費だけが膨み、期待した効果が得られないケースもあります。
業務の切り分けが成功のポイント
まず重要なのは、誰でも比較的短時間で対応できる業務を明確に切り出しておくことです。
例えば、
洗い場
バッシング
清掃
簡単な仕込み補助
ドリンク作成補助
開店前や閉店後の準備作業
などが代表的です。
これらの業務は短時間の説明でも対応しやすく、スポットワーカーとの相性が良い仕事といえます。
一方で、
レジ業務
接客クレーム対応
複雑な調理
金銭管理
店舗独自のオペレーションが必要な業務
などは店舗ルールや商品知識の理解が必要になるため、スポットワーカーには不向きな場合があります。
特に接客品質を重視する店舗では、経験や教育が不足したスタッフがお客様対応を行うことで、サービスレベルの低下につながる可能性もあります。
「人が足りない」ではなく「利益が出るか」で判断する
スポットワーカーは利便性が高い反面、通常のアルバイトと比較すると時間単価や手数料を含めた総コストは高くなる傾向があります。
そのため、
「人が足りないから呼ぶ」
という発想だけではなく、
本当に必要な日なのか
その時間帯の売上は十分見込めるのか
既存スタッフで対応できないのか
人件費以上の売上効果が期待できるのか
といった視点で判断することが重要です。
例えば、週末のピークタイムに1名追加することで回転率が向上し、売上が大きく伸びるのであれば十分に投資効果があります。
一方で、来客数が少ない日に漫然と利用してしまうと、人件費だけが増加して利益を圧迫してしまいます。
スポットワーカーを「戦力化」する工夫も重要
近年では同じ店舗で繰り返し勤務するスポットワーカーも増えています。
そのため、
業務マニュアルを整備する
作業手順を見える化する
初回勤務時の説明を標準化する
などの準備を行うことで、即戦力として活躍してもらいやすくなります。
スポットワーカーはあくまで「一時的な人員補充」ではありますが、上手に活用すれば採用コストの削減や人材不足の解消につながる有効な選択肢となります。
まとめ
飲食店経営では、売上を上げることと同じくらい「正しく管理すること」が重要です。
人件費を削りすぎれば、
サービス品質の低下
スタッフの負担増加
離職率の上昇
売上機会の損失
につながる可能性があります。
反対に、人員を増やしすぎれば利益を圧迫し、経営を不安定にしてしまいます。
重要なのは、売上や店舗運営とのバランスを見ながら「適正な人件費」を維持することです。
飲食店経営では、
人件費率30%前後を一つの目安にする
FL比率60%以内を意識する
売上ピークに合わせてシフトを組む
採用コストの全体像を把握する
定着率向上に取り組む
スポットワーカーを適切に活用する
といった視点が利益改善につながります。
私は飲食店の現場と会計・税務の両方に携わってきましたが、利益が安定している店舗ほど「人件費を単なるコストとして見ていない」という共通点があります。
スタッフはお店のサービスを支える大切な資産です。数字だけを追いかけるのではなく、現場の実態と経営数値の両方を見ながら判断することで、無理なく利益を残せる強い店舗づくりが可能になります。
人件費の見直しは、単なる経費削減ではなく、店舗経営をより良くするための経営改善活動として取り組んでいきましょう。
人件費や資金繰りのお悩みはお気軽にご相談ください
「人件費率が適正かわからない」
「FL比率を改善したい」
「スタッフを増やしたいが採算が合うか不安」
「開業後の資金繰りについて相談したい」
このようなお悩みをお持ちの飲食店オーナー様は、ぜひお気軽にご相談ください。
REDISH税務・開業では、飲食店の現場経験を持つ公認会計士・税理士が、単なる税務申告だけでなく、
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