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原価30%は理想論?現場が感じる“リアルな原価管理”と生き残るための戦略

こんにちは。
REDISHで開業サポートを担当している花上です。
これまで、神奈川・京都の5つ星ホテルにて5年間、婚礼料理やフレンチを中心に経験を積んできました。その後は街づくり会社の飲食部門にて約3年弱、フードディレクターとして店舗や企業のメニュー開発、メニュー撮影などに携わってきました。

現場と企画、両方の視点から飲食に関わってきた立場として、今回は「原価管理」というテーマについてお話ししたいと思います。

飲食業界において「原価率30%」という言葉は、もはや常識のように語られています。開業セミナーや経営書でも繰り返し登場し、ひとつの“正解”として認識されている方も多いのではないでしょうか。しかし、実際の現場に立ってみると、この30%という数字がいかに理想的で、時に非現実的なものかを痛感する場面が多くあります。

特にフレンチのコース料理や婚礼料理のように「クオリティを下げられない」「食材の選定に妥協できない」業態では、この原価率を守ること自体が非常に難しい課題です。料理人としてのプライドや、お客様の期待値を考えれば、単純に食材の質を落とすという選択肢は取りづらく、結果として原価は自然と膨らんでいきます。

原価30%が崩れる本当の理由

原価率が上がってしまう理由は、単に「高い食材を使っているから」だけではありません。むしろ現場では、もっと複雑な要因が絡み合っています。

まず大きいのが人手不足です。小規模店舗では特に顕著で、仕込みやオペレーションに十分な人員を割けないケースが多く見られます。その結果、本来であれば手作りできるソースやデザート、下処理工程を既製品に頼らざるを得なくなり、仕入れコストが上昇します。さらに既製品はロスが出にくい反面、単価が高く設定されているため、結果として原価率を押し上げる要因になります。

加えて見逃されがちなのが、「見えないコスト」とのバランスです。本来、手作りすれば原価は抑えられるケースでも、その分の人件費や時間コストが増え、結果として全体の利益を圧迫することも少なくありません。つまり、フード原価だけを切り取って最適化しようとすると、かえって経営全体では非効率になることもあるのです。

また、メニュー構成の問題も見逃せません。例えば「看板メニュー」にこだわりすぎるあまり、その一品だけで利益を出そうとするケースです。しかし、こだわり抜いた料理ほど原価が高くなるのは当然であり、その一皿で利益を確保するのは現実的ではありません。むしろ無理に価格を上げれば、お客様にとっての“価値との乖離”が生まれ、注文率の低下につながるリスクもあります。

さらに、原価が崩れる要因として「ロス管理の甘さ」も挙げられます。特にコース料理や多品目展開の店舗では、仕込み量のブレや急なキャンセル、天候による来客数の変動などによって、食材ロスが発生しやすくなります。このロスは帳簿上は見えにくいものの、実質的には原価率を押し上げる大きな要因です。

そしてもう一つ重要なのが、「売れ方の偏り」です。理想的な原価設計は、すべてのメニューがバランスよく注文される前提で組まれがちですが、実際には人気商品に注文が集中します。もしその商品が高原価であれば、想定していた原価率は簡単に崩れてしまいます。
つまり、原価率が崩れる背景には「人」「オペレーション」「メニュー設計」、そして「ロス管理」や「売れ方の偏り」といった複数の要素が複雑に絡み合っているのです。単純に“食材の問題”として片付けられるものではなく、店舗全体の設計そのものが問われていると言えるでしょう。

単品で考えないという発想

ここで重要になるのが、「単品で原価を合わせようとしない」という考え方です。多くの方が陥りがちなのが、各メニューごとに原価率30%を目指そうとするアプローチですが、これは現場ではあまり現実的ではありません。

例えば、原価率が50%を超えるような看板料理があったとしても、それ自体は問題ではありません。むしろ、その料理が集客の核になっているのであれば、積極的に打ち出すべきです。重要なのは、その高原価メニューを含めた“全体”で利益が出ているかどうかです。

この考え方は、いわば「ポートフォリオ戦略」です。高原価・低利益の商品と、低原価・高利益の商品を組み合わせ、全体でバランスを取るという発想です。

具体的には、「原価は高いが注文されやすい看板商品」と、「原価が低く利益を取りやすいサイドメニューやドリンク」をどう設計するかが鍵になります。例えば、前菜やデザート、パン、ドリンクといったカテゴリーは比較的原価コントロールがしやすく、全体の利益を下支えする役割を持たせることができます。

また、コース設計においても同様です。一皿ごとに原価を均等に整えるのではなく、「ここはしっかり原価をかけて印象を残す」「ここは構成や見せ方で満足度を担保しつつ原価を抑える」といった強弱をつけることで、全体としての満足度と収益性を両立させることができます。

さらに重要なのは、「売れる導線」を設計することです。どれだけ理想的なポートフォリオを組んでも、実際の注文が想定通りに動かなければ意味がありません。メニュー表の配置やおすすめの打ち出し方、スタッフの声かけによって、利益の取りやすい商品へ自然に誘導していく設計が不可欠です。
このように、原価管理は単なる計算ではなく、「何を売るか」だけでなく「どう売るか」まで含めた設計の問題です。単品最適ではなく全体最適で捉えることで、はじめて現場で機能する原価コントロールが実現します。

パーティー・ビュッフェが鍵になる理由

では、具体的にどのようにバランスを取るのか。そのひとつの答えが「パーティー料理」や「ビュッフェメニュー」の活用です。
これらのスタイルは、実は原価コントロールが非常にしやすいという特徴があります。理由はいくつかあります。

まず、同一メニューを大量に仕込むことができるため、食材の仕入れコストを抑えやすい点です。スケールメリットが働くことで、単価を下げることが可能になります。また、提供方法も一皿ずつではなくまとめて出すため、盛り付けやサービスにかかる人件費も圧縮できます。

さらに、ビュッフェ形式であれば、お客様自身が取り分けるため、ポーションコントロールの自由度が高く、結果としてフードロスの最適化にもつながります。

加えて見逃せないのが、「メニュー設計の自由度」です。パーティーやビュッフェでは、コースのように一皿ごとの完成度を厳密に求められるわけではないため、食材の組み合わせや構成で原価を調整しやすくなります。例えば、原価の高いメイン食材に対して、付け合わせやベースとなる料理でバランスを取ることで、全体の満足度を維持しながらコストを抑えることが可能です。

また、あらかじめ人数や予算が見えているケースが多いため、「売上の見込み」が立てやすい点も大きなメリットです。通常営業のように来客数や注文内容に左右されにくく、計画的に仕込み・発注ができるため、結果として無駄な在庫やロスを減らすことができます。

さらに、パーティープランは価格設計の自由度も高く、「飲み放題付き」や「時間制」といった形で付加価値を組み込みやすいのも特徴です。ドリンクを含めたトータルでの粗利設計がしやすく、フード単体で無理に利益を取らなくても成立する構造をつくることができます。
このように、パーティーやビュッフェは単なる提供スタイルではなく、「原価と利益をコントロールするための設計手法」として非常に優秀なのです。高原価のコース料理で利益が取りづらい場合でも、こうしたプランを組み合わせることで、全体の原価率を健全な水準に近づけることができます。

現場の知恵は“全体最適”にある

現場で成果を出している店舗に共通しているのは、「部分最適ではなく全体最適」で考えている点です。単品の原価や利益だけを追いかけるのではなく、店舗全体で収益を最大化する設計をしていることがポイントです。

例えば、ランチは原価を抑えて回転率を重視し、ディナーは単価を上げて利益を確保する。あるいは、ドリンクでしっかり利益を出す設計にするなど、複数の収益ポイントを組み合わせています。デザートやサイドメニューは原価を抑えて粗利を稼ぐ一方、看板メニューやスペシャリテは原価が高くても集客力で価値を生む、といったようにバランスを取るのが現実的です。

重要なのは、「どこで利益を取るか」を明確にすることです。すべてのメニューで均等に利益を出そうとすると、結果としてどれも中途半端になり、魅力のない店舗になってしまうリスクがあります。また、数字上は利益が出ていても、お客様の満足度やリピート率が下がれば、長期的には経営に悪影響を及ぼします。

一方で、利益を取る商品とそうでない商品を明確に分けることで、メニューにメリハリが生まれ、お客様にとっても選びやすく、満足度の高い体験につながります。さらに現場では、この「全体最適」の考え方をスタッフ全員が理解しているかどうかも重要です。オペレーションが円滑になり、提供のムラやロスも減らせるため、結果として原価管理もより現実的に機能するようになります。

理想と現実のバランスをどう取るか

原価率30%という指標自体が間違っているわけではありません。あくまで「目安」としては非常に有効です。しかし、それを絶対的なルールとして現場に当てはめてしまうと、かえって経営を苦しめる要因になりかねません。

特にこれから開業を考えている方にとって重要なのは、「数字を守ること」ではなく「利益を残すこと」です。単純に原価率30%にこだわって高品質な料理を削ってしまったり、人件費を圧迫してサービスが回らなくなるようでは、長期的には利益どころか店舗の信用も損なわれます。そのため、原価率だけでなく、人件費や家賃、光熱費、回転率、さらには季節や曜日による来客数の変動など、すべての要素を含めた総合的な視点が欠かせません。

そして何より大切なのは、自分の店舗の強みを理解し、それを最大限に活かす設計をすることです。料理のクオリティなのか、空間の居心地なのか、接客やサービスの体験価値なのか。その軸が明確であれば、どこにコストをかけるべきか、どこを効率化するかも自然と見えてきます。

例えば、フレンチの小規模店舗であれば、ディナーのコース料理は利益度外視で満足度重視に設計し、ランチやアラカルト、ドリンクで利益を補完する構成にすることも可能です。また、季節の食材を取り入れる場合は、原価が高騰する時期でも提供量やメニュー構成を調整することで、全体の利益を安定させることができます。

まとめ

「原価30%」という言葉に縛られすぎる必要はありません。現場では、それ以上に柔軟で戦略的な思考が求められます。

単品での原価調整にこだわるのではなく、メニュー全体、さらには営業スタイル全体で利益を設計すること。パーティーやビュッフェといった手法を活用しながら、現実的なバランスを取ること。

それこそが、今の飲食業界で生き残るための“リアルな原価管理”なのです。

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