Column
コラム
飲食業界における「人手不足」は、もはや一時的な問題ではなく構造的な課題となっています。求人を出しても応募が来ない、採用してもすぐに辞めてしまう、現場は常にギリギリの人数で回している──こうした状況に心当たりのある経営者・店長の方も多いのではないでしょうか。
しかし、人手不足は単に「人を増やす」ことでしか解決できない問題ではありません。むしろ重要なのは、「少ない人数でも回る仕組み」を作ること、そして「人が辞めない環境」を整えることです。本コラムでは、飲食店が実践できる人手不足解消の具体策を、現場視点で解説します。
1. 人手不足の本質は「採用難」ではなく「定着率」
多くの飲食店が「人が足りない=採用がうまくいかない」と捉えがちですが、本質はそこではありません。実際には、「採用しても辞めてしまう」ことが問題の大部分を占めています。
例えば、月に2人採用しても2人辞めていれば、常に人手不足のままです。逆に言えば、採用人数が同じでも「辞めない仕組み」があれば、人手不足は徐々に解消されていきます。
さらに重要なのは、「採用コスト」の観点です。求人広告費、面接工数、教育時間など、1人を採用するためには目に見えないコストがかかっています。短期離職が続くほど、このコストは積み上がり、結果的に利益を圧迫します。
つまり、人手不足は“人が足りない問題”ではなく、“人が定着しない構造の問題”とも言えます。
では、なぜ人は辞めるのでしょうか。主な理由は以下の通りです。
- 人間関係のストレス
- 業務負荷が高い(忙しすぎる)
- 評価や感謝が見えない
- 成長実感がない
- シフトの融通が利かない
これらはすべて「現場の設計」で改善可能な要素です。言い換えれば、現場の作り方次第で離職率はコントロールできるということです。
2. “辞めない職場”を作る3つのポイント
(1)業務の「属人化」をなくす
特定の人しかできない業務が多いと、その人に負担が集中し、結果的に離職につながります。また、新人も「覚えることが多すぎる」「自分には無理そう」と感じて早期離脱しやすくなります。特に飲食店では、「あの人じゃないと回らない」という状態が起きがちですが、これは組織として非常にリスクの高い状態です。
対策として有効なのが、以下のような標準化です。
- マニュアルの整備(動画・写真ベースが効果的)
- 業務の細分化(1タスクを小さくする)
- 誰でもできるオペレーション設計
加えて、教育の“属人化”も見直す必要があります。「教える人によって言うことが違う」状態は、新人の混乱とストレスを生みます。
- 教え方の統一(OJTの手順化)
- チェックリストによる習得管理
- 習得ステップの見える化
重要なのは、「ベテラン前提の現場」をやめることです。新人でも戦力になる設計こそが、定着率を大きく左右します。
(2)“忙しさ”の正体を分解する
「忙しいから人が足りない」と感じている場合、その忙しさの中身を分解することが重要です。忙しさは感覚ではなく、構造で捉えるべきです。例えば、
- 無駄な動線(行ったり来たりしている)
- 二重作業(同じことを何度もやっている)
- 非効率な注文・提供フロー
- ピークタイムに業務が集中している
これらを改善するだけで、必要な人員は大きく変わります。現場改善の第一歩として有効なのが、「1日の業務を書き出すこと」です。どの時間帯に何をしているのかを可視化することで、ムダや偏りが明確になります。特に効果が高いのが以下の施策です。
- モバイルオーダー導入
- 配膳導線の最適化
- メニュー数の削減
さらに一歩踏み込むと、仕込みの前倒し(ピーク前準備の徹底)、セルフサービス化(返却・水・取り分け)、ピークとアイドルで役割を変えるシフト設計といった工夫も有効です。「人を増やす前に、仕事を減らす」という視点を持つことで、同じ人数でも生産性は大きく変わります。
(3)“承認”を仕組みにする
飲食店は忙しいがゆえに、「ありがとう」や「助かったよ」といった声かけが後回しになりがちです。しかし、これが積み重なるとスタッフのモチベーションは確実に下がります。人は給与や条件だけで働き続けるわけではありません。「自分がここにいていい理由」が感じられないと、離職につながります。
効果的なのは、承認を“仕組み化”することです。
- 日報・チャットでの称賛文化
- 週1回のフィードバック時間
- 小さな目標と達成の可視化
加えて、評価の“曖昧さ”をなくすことも重要です。
- 何ができれば昇給・昇格なのか明確にする
- スキルごとの評価基準を作る
- 感覚ではなく基準で評価する
また、店長やリーダーだけでなく、スタッフ同士で承認し合う仕組み(「ありがとうカード」や簡単な表彰制度、月1回のMVP選出、チーム単位での目標達成共有)も有効です。人は「見てもらえている」「必要とされている」と感じるだけで、働く意味を見出します。この積み重ねが、定着率に大きな差を生みます。
3. 採用を“広げる”のではなく“絞る”
人手不足になると、「とにかく誰でもいいから採用したい」という思考になりがちですが、これは逆効果です。ミスマッチ採用は、早期離職と現場の負担増を招きます。さらに言えば、「採用の失敗」は1人分の問題では終わりません。教育コストの無駄だけでなく、既存スタッフの負担増やモチベーション低下にも直結します。結果として、既存スタッフの離職を引き起こす“負の連鎖”につながるケースも少なくありません。
重要なのは、「どんな人に来てほしいか」を明確にすることです。
- 学生中心にするのか
- 主婦層をターゲットにするのか
- フリーターを軸にするのか
ターゲットによって、求人内容やシフト設計、教育方法は大きく変わります。ここで有効なのが、「理想のスタッフ像」を言語化することです。
- どんな時間帯に働いてほしいのか
- どの業務を任せたいのか
- どんな価値観を持っている人が合うのか
これを明確にすることで、「来てほしい人に刺さる求人」に変わります。また、「働きやすさ(週2日・3時間OK、まかないあり、シフト柔軟対応)」を具体的に伝えることも重要です。さらに一歩踏み込むと、「テスト期間は週0でもOK」「子どもの急な発熱でも当日調整可能」「未経験でも1週間でレジに入れる研修あり」といった“生活に寄り添った具体性”が、応募の決め手になります。最後に重要なのが、求人と現場のズレをなくすこと。採用は“入口”ではなく、“定着まで含めて設計するもの”です。
4. テクノロジー活用は“代替”ではなく“補助”
近年、飲食店ではDX(デジタルトランスフォーメーション)の導入が進んでいますが、「人を減らすためのもの」と捉えると失敗します。正しくは、「人の負担を減らすためのもの」です。
多くの現場で起きている失敗は、「ツールを入れただけで満足してしまう」ことです。オペレーションに組み込まれていなければ、逆に手間が増え、現場のストレスになります。
例えば、
- モバイルオーダー → 接客負担軽減
- POS連携 → 会計ミス削減
- シフト管理ツール → 店長の負担軽減
これにより、スタッフは「人にしかできない仕事(接客・体験価値)」に集中できるようになります。さらに効果を最大化するためには、導入前に“何を削減したいのか”を明確にする、現場スタッフに使い方を教育する、使われているかを定期的にチェックする、といった運用設計が不可欠です。また、テクノロジー導入は「働きやすさのアピール(オーダーを取りに走らなくていい、レジ業務がシンプル、シフト提出がスマホで完結)」にもつながり、特に若年層の応募率を高め、満足度の向上と離職率の低下に寄与します。
5. “選ばれる店”になることが最大の解決策
最後に最も重要な視点です。それは、「働く側から選ばれる店になる」ということです。求職者もまた、複数の選択肢の中から職場を選んでいます。その中で選ばれるためには、以下が重要です。
- 雰囲気の良さ(口コミ・SNS)
- 働きやすさ(シフト・人間関係)
- 成長環境(教育・評価)
特に近年は、求職者が事前に口コミをチェックするケースが増えています。お客様向けの口コミだけでなく、「働く環境」としての評判も見られる時代です。ここで見落とされがちなのが、「店内の雰囲気は外に漏れている」という点です。スタッフ同士の会話、接客中の空気感、忙しい時の態度。これらはすべて、お客様だけでなく“未来の応募者”にも伝わっています。つまり、「いい店は人が集まり、悪い店は人が離れる」というシンプルな構造になっています。さらに言えば、“選ばれる店”は紹介で人が入ってくる、求人を出すとすぐ埋まる、辞めないので採用頻度が下がるといった好循環が生まれ、人手不足は自然と解消されていきます。
まとめ|人手不足は“設計”で解決できる
人手不足は、単なる採用問題ではありません。現場の設計、働き方、組織文化の積み重ねによって生まれる結果です。
・採用よりも「定着」に注力する
・業務を標準化し、属人化をなくす
・無駄を削減し、少人数で回る設計にする
・承認文化を仕組みとして組み込む
・ターゲットを明確にした採用を行う
・テクノロジーで負担を軽減する
そして何より、「ここで働きたい」と思われる店づくりが、最大の人手不足対策です。
最後に一つだけ視点を加えるなら、「人手不足=危機」ではなく「構造を見直す機会」と捉えることです。場当たり的に人を増やすのではなく、仕組みを整えることで、少人数でも強い店舗は実現できます。人が足りないからこそ、仕組みを見直すチャンスでもあります。今の現場を一度分解し、“人に依存しない強い店舗”を作っていきましょう。
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