【税理士監修】飲食店の人件費率の目安とは?FL比率から考える利益改善のポイント

近年、原材料費や光熱費の高騰に加え、人手不足による人件費の上昇など、飲食店を取り巻く経営環境はますます厳しくなっています。
そのような中で、「売上は伸びているのに利益が残らない」「忙しいのに思うようにお金が増えない」といったご相談をいただく機会が増えています。原因はさまざまですが、その中でも特に多いのが人件費に関する課題です。
現場と数字の両方を見てきた経験から感じるのは、人件費は単純に削減すればよいものではなく、売上やサービス品質とのバランスを取りながら適正化することが重要だということです。
今回は、飲食店経営における人件費の適正水準や、人件費を見直す際のポイントについて解説します。
※本記事は2026年9月時点の情報に基づいています。2026年度の地域別最低賃金は10月1日以降順次改定され、全国加重平均は1,177円(前年度1,121円から+56円)となる見込みです。改定後は最高額が東京都1,280円、最低額が宮崎県1,085円となり、都道府県ごとに水準・発効日が異なります。本記事内のシフト・人件費の試算は、この改定を踏まえた時給水準で行っていますが、実際の設定にあたっては必ず自店舗の所在地の最新の地域別最低賃金をご確認ください。
飲食店の人件費率は売上の何%が適正?【目安とFL比率】
飲食店の人件費は、一般的に売上の30%前後が目安とされています。
なお、ここでいう「人件費」は、アルバイト・社員の給与や賞与に加え、社会保険料の企業負担分などの法定福利費を含めて計算するのが一般的です。一方、法人の代表者に支払う役員報酬を人件費率に含めるかどうかは店舗によって扱いが分かれます。役員報酬を含めて計算すると人件費率は高く見え、含めずに計算すると低く見えるため、他店や一般的な目安と比較する際は、自店がどちらの定義で算出しているかを必ず確認しましょう。
ただし、この数字はあくまでも一般論であり、立地や業態、営業時間、提供するサービス内容によって適正な水準は異なります。そのため、「人件費率が30%を超えているから危険」と一概に判断するのではなく、自店のビジネスモデルに照らして考えることが重要です。
また、飲食店経営では「FL比率」という非常に重要な指標があります。
- F(Food):食材原価
- L(Labor):人件費
この2つを合計した割合をFL比率と呼び、一般的には60%以内に収めることが理想とされています。例えば、「食材原価率30% + 人件費率30% = FL比率60%」となります。ただし、この「食材原価率30%+人件費率30%」という内訳はあくまで一例であり、実際に望ましい配分は業態によって異なります。重要なのは内訳の比率そのものではなく、合計であるFL比率を60%程度に近づけることです。
FL比率は飲食店の収益性を判断するうえで欠かせない指標です。売上から最も大きな割合を占める「食材費」と「人件費」を適切にコントロールできなければ、家賃や水道光熱費などの固定費を支払った後に十分な利益を残すことが難しくなります。
フルサービス型店舗
居酒屋やレストランなど、スタッフによる接客サービスを重視する店舗は人件費率が高くなる傾向があります。
- 席への案内
- オーダー受付
- 料理やドリンクの提供
- 会計対応
など、多くの業務を人が担うためです。特に高単価業態では、お客様へのサービス品質が売上に直結するため、人件費率が30%を超えるケースも珍しくありません。
セルフサービス型店舗(券売機・セルフオーダー等を導入している店舗)
一方で、券売機を導入したラーメン店やテイクアウト専門店、セルフオーダーを導入している店舗では、人件費を比較的抑えやすい傾向があります。同じラーメン店・定食店であっても、フルサービスで接客するか、券売機やセルフレジで省人化するかによって人件費率は大きく変わるため、「業態」だけで判断せず「自店のオペレーション設計」で考えることが重要です。
近年は、以下のようなITツールや機器の導入による省人化が進んでいます。
- モバイルオーダー
- セルフレジ・キャッシュレス決済
- 配膳ロボット
こうした仕組みを活用することで、人件費率を低く抑えながら効率よく運営できるケースが増えています(キャッシュレス決済の導入メリットについては、こちらの記事もあわせてご覧ください ※社内リンク挿入予定)。
大切なのは「自店の業態に合った目標設定」
経営者の方の中には、「同業他社は人件費率が25%だから、自店も下げなければ」と焦ってしまう方もいます。しかし、業態やサービス内容が違えば適正な人件費率も当然異なります。
重要なのは他店との比較ではなく、以下の要素を定期的に確認しながら、自店にとって無理のない目標値を設定することです。
- 現在の人件費率
- FL比率
- 営業利益
- 客数や客単価の推移
人件費は単なるコストではなく、お客様満足度やサービス品質を支える「投資」でもあります。数字だけを追うのではなく、「利益を残しながら良いサービスを提供できる水準」を見極めることが、飲食店経営の成功につながります。
シフトを増やしたのに利益が出ない理由
「人手不足だからスタッフを増やした」「サービス向上のためにシフトを厚くした」にもかかわらず、利益が改善しないケースは珍しくありません。
飲食店では、人員配置が適切でなければ、人件費だけが増加して利益を圧迫してしまいます。原因として特に多いのが、「売上ピーク」と「人員配置」のミスマッチです。
よくある失敗パターン
- ランチ後のアイドルタイムにスタッフが余っている
- 平日の夜と週末で同じ人数を配置している
- 閑散時間帯にもフルメンバーで営業している
- 雨の日や予約の少ない日でも通常体制でシフトを組んでいる
こうした状態では、スタッフが出勤していても十分な業務量がなく、「待機時間」に対して給与を支払っている状態になってしまいます。
人件費は変動費と思われがちですが、実際にはシフトが確定すると「固定費」に近い性質を持ちます。そのため、売上が計画どおりに伸びなければ、そのまま利益を圧迫する要因となります(この「損益分岐点」の考え方については、こちらの記事もあわせてご覧ください ※社内リンク挿入予定)。
「人を増やせば売上が伸びる」からの脱却
例えば、2026年10月以降の最低賃金改定を踏まえ、時給1,300円のスタッフを1日5時間追加した場合、額面の人件費は1日あたり6,500円増加します。
さらに、社会保険料の企業負担分などの法定福利費を考慮する必要があります。正社員や社会保険加入対象のアルバイトの場合は給与総額の15%前後が目安、加入要件を満たさない短時間パートやスポットワーカーの場合は雇用保険料・労災保険料のみで数%程度となるケースが多いですが、ここでは目安として15%を上乗せすると、実質的な人件費増加額は約7,475円になります。
ここで注意したいのは、売上が7,475円増えただけでは、この人件費増加分を回収できないという点です。売上の中には食材原価などの変動費も含まれており、その全額が利益になるわけではないためです。
回収に必要な売上増加額は、次の式で考えます。
必要売上増加額 = 追加した人件費(法定福利費込み) ÷ 限界利益率(売上から食材原価などの変動費を差し引いた粗利の割合)
例えば限界利益率を70%とすると、7,475円 ÷ 70% = 約10,680円以上の売上増加が必要になる計算です。
「人を増やしたから売上が伸びるはず」という感覚ではなく、「増えた人件費(法定福利費込み)を、限界利益率で割り戻した売上増加分できちんと回収できるか」という視点で判断することが重要です。
根拠のあるシフト設計を行うためには、以下のデータを活用しましょう。
- POSデータによる時間帯別売上分析
- 曜日別の来店傾向分析
- 予約状況の把握
- スタッフごとの生産性の確認
経験や勘だけに頼るのではなく、数字を活用した人員配置を行うことが利益改善への近道です。
アルバイト採用で見落としがちなコスト
採用コストというと、求人媒体への掲載費をイメージする方が多いかもしれません。しかし実際には、それ以外にも多くの「隠れコスト」が発生しています。
飲食店では慢性的な人手不足から「まずは採用すること」が目的になりがちですが、本当に重要なのは「採用した人材が戦力として定着すること」です。
1. 面接・採用にかかる時間
オーナー様や店長が面接を行う時間も、本来は人件費です。求人応募への対応や日程調整、面接、採用後の手続きなど、採用活動には想像以上の時間がかかっています。
2. 教育コスト
新人教育中は既存スタッフの手が止まり、現場全体の生産性が低下します。また、飲食店では接客・調理・衛生管理・レジ操作・メニュー知識など覚えることが多く、一人前になるまでには一定の期間とコストがかかります。
3. 制服や備品代
ユニフォームや名札、ロッカー用品なども採用人数に比例して増加します。1人あたりでは小さな金額でも、離職と採用を繰り返すことで大きな負担となります。
4. 早期離職による損失
最も大きな損失は早期離職です。採用・教育したにもかかわらず数週間〜数か月で退職してしまうと、それまでにかかった募集費や教育コストはすべて回収できません。
そのため、「採用人数を増やす」こと以上に、「定着率を高める環境づくり」に取り組むことが、結果として人件費の最適化につながります。
- 働きやすい環境を整える
- 教育体制を整備・標準化する
- コミュニケーションを活性化する
- 評価制度や昇給基準を明確にする
タイミーなどスポットワーカー活用時の注意点
近年は人手不足の影響もあり、タイミーをはじめとしたスポットワーカーサービスを活用する飲食店が増えています。「急な欠勤」や「繁忙期の一時的な人員補強」には非常に有効な手段です。
しかし、活用方法を誤ると人件費だけが膨らみ、期待した効果が得られないケースもあります。
業務の切り分けが成功のポイント
スポットワーカーに依頼する際は、「短時間の説明で誰でも対応できる業務」を明確に切り出しておくことが重要です。
- 向いている業務:洗い場、バッシング、清掃、簡単な仕込み補助、ドリンク作成補助、開店・閉店準備
- 不向きな業務:レジ業務、クレーム対応、複雑な調理、店舗独自の運用が必要な接客
接客品質を重視する店舗で複雑なオペレーションを任せてしまうと、サービスレベルの低下につながるリスクがあります。
「人が足りない」ではなく「利益が出るか」で判断する
スポットワーカーは便利な反面、通常のアルバイトと比較すると手数料等を含めた総コストが高くなる傾向があります。例えば代表的なサービスであるタイミーの場合、企業側は原則としてワーカーへの支払賃金に加えて、賃金の30%程度のサービス利用料(+振込に関する手数料)を負担する仕組みです。
<実質コストの計算例> 時給1,300円のスポットワーカーに5時間依頼した場合
- 賃金:1,300円×5時間=6,500円
- サービス利用料(30%):6,500円×30%=1,950円
- 実質コスト:約8,450円(振込手数料等は別途)
同じ5時間を通常のアルバイト(時給1,300円のみ)に依頼した場合と比べると、約1,950円(約3割)割高になる計算です。この差額を理解したうえで、繁忙期の一時的な補強や急な欠勤対応など、割高でも依頼する価値がある場面に絞って活用するのが現実的です。
そのため、「人が足りないから呼ぶ」ではなく、「その時間を追加することで人件費以上の売上・利益を作れるか」という投資対効果の視点で判断しましょう。
スポットワーカー活用時に知っておきたい労務上の注意点
スキマバイトサービスを通じて働くスポットワーカーであっても、労働基準法上の「労働者」として扱われ、雇用主は仲介サービスの運営会社ではなく、実際に受け入れる飲食店側になります。厚生労働省も2025年7月、スマートフォンの仲介アプリを使ったスポットワークの労務管理ルールについて注意喚起するリーフレットを公表しており、以下の点は必ず押さえておきましょう。
- 労働条件の明示:単発・短時間の勤務であっても、賃金・労働時間・業務内容などの労働条件を明示する義務があります。
- 休業手当:店舗都合(悪天候による臨時休業など)で確定していたシフトをキャンセルする場合、労働基準法に基づき休業手当(業界団体のガイドラインでは予定していた給与額満額が目安)の支払いが必要になるケースがあります。「単発のシフトだから当日キャンセルしても問題ない」という認識は誤りです。
- 労災保険:勤務中にケガをした場合等は、原則として受け入れ企業(飲食店側)の労災保険の対象になります。安全衛生上の注意事項は、正社員・アルバイトと同様にきちんと伝えておく必要があります。
「仲介サービスを使っているから自店に労務管理の責任はない」と誤解しやすい部分のため、少しでも不安がある場合は社会保険労務士等の専門家に確認することをおすすめします。
マニュアル整備で戦力化する
繰り返し勤務してくれるスポットワーカーを増やすためにも、業務マニュアルの整備や作業手順の見える化を進め、初回勤務時の導入をスムーズにする工夫が効果的です。
まとめ:人件費は削るのではなく「最適化」で利益を残す
飲食店経営では、売上を上げることと同じくらい「正しくコストを管理すること」が重要です。
人件費を削りすぎれば、サービス品質低下やスタッフの負担増加・離職を招きます。反対に人員を増やしすぎれば、利益を圧迫して経営が不安定になります。
人件費改善のポイントをまとめます。
- 人件費率30%前後、FL比率60%以内を意識する(法定福利費・役員報酬を含めるかは自店の定義を明確に)
- 売上ピークとシフト配置を一致させる(POSデータの活用)
- シフト増員の際は、法定福利費込みの人件費を限界利益率で割り戻した必要売上増加額で採算を判断する
- 採用コストの全体像を把握し、定着率を高める
- スポットワーカーは手数料込みの実質コストを把握したうえで、業務の切り分けと回収できる売上を意識して活用する。労働条件の明示・休業手当・労災保険など、受け入れ企業としての労務管理責任も忘れずに
利益が安定している店舗ほど、人件費を単なるコストではなく「サービスを支える投資」と捉えています。数字と現場の両方を見ながら、無理なく利益を残せる店舗づくりを目指しましょう。
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