電帳法:飲食店が最低限やるべきこと|義務と任意の線引きから実務フローまで解説

電帳法:飲食店が最低限やるべきこと|義務と任意の線引きから実務フローまで解説

飲食店の現場で勘違いされがちな電帳法対応の勘所

電子帳簿保存法(以下、電帳法)の改正以降、飲食店の現場では「すべてのレシートをスキャンしてデータ化しなければならない」「高額な専用ソフトを導入しないと罰則を受けるのではないか」といった誤解が多く見受けられます。

仕込みや接客、シフト管理など日々の業務に追われる飲食店オーナーにとって、法令対応にかけられる時間とコストには限りがあります。過剰な設備投資や過重な事務負担を避けるためには、まず法律上の「義務」と「任意(選択可能)」の境界線を正しく把握することが不可欠です。

※本記事は2026年10月時点の情報に基づいています

電帳法を構成する3つの区分

電帳法は、保存対象や取引の形態に応じて以下の3つの区分に分かれています。

  1. 電子帳簿等保存(任意) 会計ソフト等で最初から電子的に作成した総勘定元帳や仕訳帳などの帳簿、決算関係書類を電子データのまま保存する区分です。

  2. スキャナ保存(任意) 紙で受領または作成したレシート、領収書、請求書などを、スマートフォンやスキャナで読み取って電子データとして保存する区分です。

  3. 電子取引データ保存(義務) 注文書、契約書、請求書、領収書などの取引情報を「電子データ」で授受した場合に、そのデータを一定の要件に従って保存する区分です。

飲食店の運営において法令上必ず対応しなければならないのは「3. 電子取引データ保存」のみです。紙で受け取った仕入伝票やレシートをスキャンして保存する「スキャナ保存」や、会計帳簿を電子保存する「電子帳簿等保存」はあくまで任意であり、従来どおり紙のままファイルに綴じて保管していれば法令違反にはなりません。保存期間は原則7年間です(法人で欠損金の繰越控除を受ける場合は10年間)。

飲食店における「電子取引」の具体例

飲食店の実務において「電子取引データ保存」の対象となるのは、主に次のような取引です。

  • 仕入先や酒販店からメール添付(PDF等)で届く請求書・納品書
  • 厨房機器、消耗品、食材などをECサイト(Amazon、楽天市場、専門通販サイトなど)で購入し、サイト上からダウンロードする領収書PDF
  • フードデリバリー代行サービスや予約台帳システムのWeb管理画面から発行される月次明細・請求書
  • キャッシュレス決済会社や求人媒体からWeb上でダウンロードする決済手数料明細・利用料請求書
  • 電気・ガス・水道・通信費などのWeb明細(紙の検針票や請求書が届かないもの)

これらを「画面上で確認しただけ」で放置したり、紙に印刷して電子データを削除したりすることは認められていません。データとして保存することが法律で義務付けられています。


レシート・領収書の電子保存で最低限守るべき要件と手順

電子取引データを保存する際、国税庁が定める要件を満たす必要があります。要件は大きく分けて「真実性の確保(改ざん防止)」と「可視性の確保(見読性・検索機能の確保)」の2点です。有料の専用クラウドサービスを導入しなくても、運用の工夫と国税庁のサンプルをもとに規程を整え、運用することで最低限の要件を満たせます。

1. 真実性の確保:事務処理規程の作成と備え付け

改ざん防止措置として認められている方法は複数ありますが、小規模な飲食店において最もコストがかからず現実的な方法は「訂正削除の防止に関する事務処理規程」を作成・備え付けて運用することです。

国税庁のウェブサイトに事業者向けの規程サンプルが公開されており、店舗名や管理責任者名を記入して印刷・備え付けるだけでは要件を満たせません。規程で定めたルールに沿って、実際に運用することが必要です。サンプルには法人向けと個人事業者向けの2種類があるため、自店の形態に合うものを使ってください。タイムスタンプの付与機能や訂正削除履歴が残る専用システムを契約する必要はありません。

2. 可視性の確保:検索要件の確認と自店の判定

保存した電子データは、税務調査などの際に速やかに確認・出力できるようにしておく必要があります。通常は「取引年月日」「取引金額」「取引先」で検索できる環境を整えなければなりませんが、売上規模によって要件が大幅に緩和されています。

令和5年度税制改正により、判定期間に係る基準期間の売上高が5,000万円以下の事業者は、税務職員からの電子データのダウンロードの求めに応じられる状態にしていれば、日付・金額・取引先での検索要件が不要になります。

自店が検索要件不要の対象になるかどうかは、以下の基準期間で確認します。基準期間は、判定期間(電子取引を行った年・事業年度)の2年前にあたり、個人事業主は前々年、法人は前々事業年度です。

【判定基準】
・個人事業主:前々年の売上高 = [ 自店の前々年売上: ______ 円 ]
・法人:前々事業年度の売上高 = [ 自店の前々事業年度売上: ______ 円 ]
※売上高は税抜きで判定します。営業外収入、雑収入、家事消費高は含めません。非課税売上額は含めます。
※法人の基準期間が1年に満たない場合は、月数に応じて年換算します。

判定:上記売上が 5,000万円以下 の場合 = 検索要件(日付・金額・取引先での検索機能)は不要
判定:上記売上が 5,000万円超 の場合 = 検索要件の確保が必要

新規に開業した事業者や新設法人は、基準期間がない年(初年度・翌年度など)は、検索要件の確保が不要となる取扱いがあります。開業前後の事業者は、この点も確認してください。

最低限の実務手順(売上5,000万円以下の場合)

売上5,000万円以下で検索要件の緩和措置を利用する場合、日々の実務手順は以下の3ステップで完了します。

  1. 受領・ダウンロード メール添付の請求書やECサイトの領収書PDFを端末(パソコンまたはタブレット)にダウンロードします。
  2. 専用フォルダへの格納 PC内やクラウドストレージ(Google Drive、Dropbox等)に「電帳法保存」等のフォルダを作り、月別または年別のフォルダにデータを保存します。
  3. バックアップの維持 端末の故障やデータ紛失を防ぐため、外部ハードディスクや無料枠のクラウドストレージなどを利用して定期的にバックアップを取ります。

検索要件が必要な場合(売上5,000万円超)のファイル命名ルール

基準期間の売上高が5,000万円を超える店舗であっても、高額なシステムを導入せずにWindowsやMacの標準検索機能を使って対応することが可能です。

ファイル名を「日付_取引先_金額」の規則で統一して保存します。

  • 例:2024年10月15日に株式会社A商事から15,000円の仕入をした請求書PDF → ファイル名:20241015_株式会社A商事_15000.pdf

このように命名してフォルダに保存しておけば、OSのファイル検索窓に「20241015」「A商事」「15000」のいずれを入力しても対象ファイルを抽出できます。ただし、この方法で検索要件を満たすには、税務職員からの電子データのダウンロードの求めに応じられる体制が必要です。この条件を満たす場合に限り、日付・金額の範囲指定検索と複数項目を組み合わせた検索の要件が不要になります。ファイル名を統一するだけで、すべての事業者が検索要件を満たせるわけではありません。


税理士が見た「やりすぎ・不足しすぎ」な現場の失敗パターン

電帳法への対応では、ルールを厳格に捉えすぎて現場を圧迫する「やりすぎ」と、義務化された内容を把握しておらず放置してしまう「不足しすぎ」の双方が見られます。

パターン1:コストと手作業を増やしてしまう「やりすぎ」

  • 紙のレシートをすべてスマホで撮影して破棄しようとする 紙のレシートのスキャナ保存は任意です。撮影の手間、ピントや解像度のチェック、タイムスタンプや解像度要件の管理など、日々の業務負担が著しく増加します。紙で届いたものは紙のまま月別に箱やファイルに入れて保管する方が、小規模飲食店のオペレーションとしては圧倒的にシンプルです。
  • 月額数万円の専用文書管理システムを性急に契約する 電子取引データの保存件数が月に数十件程度であれば、OSのフォルダ管理と、事務処理規程に沿った日々の運用で、法令対応を進められます。店舗のITリテラシーや取引件数に見合わない固定費の増加は避けるべきです。

パターン2:税務調査で指摘を受けやすい「不足しすぎ」

  • Web明細を放置し、過去分が閲覧・取得できなくなる カード決済明細、予約サイトの手数料通知、食材発注サイトの領収書などは、サイトによって閲覧・ダウンロードできる期間が異なります。確定申告や決算の時期にまとめて取得しようとすると過去データが消えているケースがあるため、月末など定期的に保存する習慣をつけてください。
  • 紙に印刷しただけで元の電子データを削除してしまう 「紙で出力して保管しているから大丈夫」と電子ファイルをゴミ箱に捨ててしまうケースです。電子取引データは「データのまま保存する」ことが原則であり、印刷した紙だけを残す運用は認められません。
  • 事務処理規程を作成していない タイムスタンプを付与しない運用を選択しているにもかかわらず、改ざん防止のための「事務処理規程」を店舗に備え付けていない状態です。規程の存在がない場合、真実性の要件を満たしていないとみなされる可能性があります。ただし、令和6年1月1日以後の電子取引には、相当の理由がある場合の猶予措置が設けられています。

この措置は、システムや社内体制の整備が間に合わないなど、保存要件を満たせない相当の理由がある場合に適用されます。適用にあたって税務署への事前申請は不要です。ただし、税務調査などの際に、電子データとその出力書面の提示・提出に応じられることが条件です。また、電子データ本体の保存は必須で、紙に印刷した書面だけの保存は認められません。環境が整っているにもかかわらず単に保存要件に従っていない場合は、この措置の対象になりません。

飲食店の電帳法対応セルフチェック

自店の対応が「必要十分」な水準にあるか、以下の項目で確認してください。

  • 国税庁のサンプルをベースにした「訂正削除の防止に関する事務処理規程」を作成し、その内容どおりに運用しているか
  • メール添付やWebサイトからダウンロードした領収書・請求書を「電子データ」のまま保管しているか
  • ダウンロード期間に制限があるWeb明細(食材発注、決済手数料、水道光熱費等)を毎月定期的に保存しているか
  • 紙で受け取ったレシートや領収書は、無理にデータ化せず紙のまま適切にファイリングしているか
  • 自店の基準期間の売上高(5,000万円基準)を把握し、必要な検索ルールを設定しているか

飲食店の電帳法対応は、「紙は紙のまま保管」「電子で届いたものだけを電子で保管」という原則を徹底することが、最も費用対効果が高く確実な実務運用です。

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