税務調査の相手はどう選ばれる?調査官の「勘」からAIの「スコア」へ――飲食店の税務調査 今と昔(第2回)

税務調査の相手はどう選ばれる?調査官の「勘」からAIの「スコア」へ――飲食店の税務調査 今と昔(第2回)

この記事の要点

  • 昔は調査官が紙の申告書を読み、経験と勘で調べる相手を選んでいたといわれます。今は国税庁のAI(予測モデル)が申告漏れのリスクを点数にし、最後は職員が判断します。
  • 2026年9月の国税システムの更改で、紙で管理していた情報もデータで管理されるようになるとされます。過去の調査記録や決算書の明細も、選ぶための材料になると解説されています。
  • 同業と比べて突出した数字には、決算書などに「理由」を書いておく。これがいちばん手軽な対策です。

はじめに

税務調査の件数は減っているのに、追徴税額は過去最高になっています。 その背景にあるのが「調べる相手の選び方」の変化です。

本記事では、昔と今の選び方を比べ、AIが飲食店のどこを見ていると考えられるのか、そして経営者にできる対策は何かを解説します。

※本記事は2026年10月時点の公表資料・法令に基づく一般的な情報です。

1. 昔の選び方:紙の申告書と調査官の経験

AIやデータ分析が広がる前、調べる相手の選び方は、調査官が申告書や決算書を一枚ずつ読み、前年からの増減や同業者との違い、前回の調査からの年数などを手がかりにするものだったといわれます。業種ごとの「相場観」も、ベテラン調査官の経験に頼る部分が大きかったとされます。

元国税調査官の税理士による解説(NTT西日本「BizClip」)によれば、紙の調査記録(調書)は保存年限を過ぎると処分されていたといいます。数字は基幹システムに残っても、「どの業種で、どんな手口が見つかったか」という現場の知見は、人の記憶や異動とともに薄れやすかったのです。

2. 今の選び方:AIがリスクを点数に、最後は職員が判断

国税庁は2026年7月に公表した資料「国税庁におけるAIの活用」で、今の選び方を次のように説明しています。

  1. 申告書や決算の情報、法定調書などの資料、過去の調査の記録といった膨大なデータを、予測AIで分析する
  2. 税目ごとに申告漏れのリスクを判定し、点数(スコア)にする予測モデルをつくる
  3. 判定の結果に申告書や資料の分析を加え、職員が調査の要否や優先度を最終的に判断する
  4. 調査の必要度が高い相手には深く調べる実地調査を、計算誤りなどが想定される相手には文書での照会などで幅広く接触する

この予測モデルの判定結果は、全国すべての国税局・税務署で使われています。AIが勝手に調査を決めるわけではありません。AIは「どこから見るか」の優先順位をつける道具で、判断するのは人です。

「売上」の不正パターンを見つける

国税庁は、法人の不正申告のパターン、つまり売上・原価・経費のどこに不正がありそうかを判定するモデルも使っています。公表された事例には、現金での売上が多いお店にとって他人事ではないものがあります。

  • 売上伝票を破棄し、その分の現金売上を除外していた(追徴税額 約7千万円)
  • 売上代金を代表者の個人口座に入金させ、売上を除外していた(追徴税額 約1億円)

どちらも、モデルが「売上」に不正の可能性があると判定し、調査で実際に売上の除外が見つかった事例です(業種は公表されていません)。

3. 2026年9月、国税のシステムが新しくなった

国税庁は2026年9月24日に国税システムを更改しました。専門家の間では、これまでの「KSK(国税総合管理システム)」の次世代版として「KSK2」と呼ばれています。

前出の元国税調査官の解説によると、新しいシステムの柱は次の3つです。

  • 紙中心の事務から、データ中心の事務へ
  • 税目別・部門別に分かれていたデータベースを統合し、縦割りを解消する(ただし、他の税目を調査する権限が一般に与えられるわけではない)
  • 古い大型コンピューターから、新しい仕組みへの刷新

あわせて、データ化された調査の記録が蓄積され、法定調書や決算書の勘定科目の内訳、法人事業概況説明書なども分析の材料になると解説されています。国税庁自身も、この更改でデータで管理する情報が増えることを踏まえ、予測モデルの精度を高めていくとしています。

昔は紙とともに消えていた記録が、今はデータとして残り、次の選定に生かされる。これが、今と昔のいちばん大きな違いかもしれません。

4. AIは飲食店のどこを見ているのか

国税庁は、AIが具体的にどの数字をどう判定しているかを公表していません。ただし、手がかりはあります。

国税庁の税務大学校の研究では、損益計算書のデータを使い、売上を2.5〜10%少なく見せた決算書をAIで見分けられるかを試していました。その過程で、各項目を売上で割った「比率」で見ると、データの見え方が大きく変わることが示されています(研究段階の試作で、比べた手法のうち深層学習を除く4つの平均的な精度は68%台でした)。

専門家の解説でも、同業と比べて比率が大きく外れている、売上が急に変動した、税目の間で数字が合わない、といった点が目立ちやすいと指摘されています。飲食店に置き換えると、たとえば次のような数字です。

見られやすいと考えられる点飲食店での例
原価率・人件費率同じ業態・規模の店と比べて原価率が高すぎる(売上が少なく見える)
売上の動き席数や営業日数は変わらないのに、売上だけが大きく落ちた
経費の科目「雑費」「消耗品費」が膨らみ、中身が分からない(テイクアウト容器代なら「包装費」、プラットフォーム手数料なら「支払手数料」など、科目を分けるのが鉄則です)
税目の間の整合消費税の申告の売上と、所得税・法人税の申告の売上が合わない
入金と売上キャッシュレス決済やデリバリーの手数料を引かれた後の「入金額」をそのまま売上にしている(売上が少なく見える)、または帳簿上の時期がずれている
現金売上の比率同業態と比べて現金決済の割合が極端に低い(現金を抜いていると疑われる)

これらは、それだけで不正の証拠になるものではありません。食材の値上がりで原価率が上がった、改装で休業した、といった正当な理由もあります。問題は、理由が数字の外にあると、データだけを見る側からは分からないことです。

5. 「突出した数字」には理由を書いておく

前出の元国税調査官は、選定への事前の対策として、事業の実態を申告書類に書いておくことを勧めています。たとえば兼業の割合を書かなければ、AIは届け出た業種の特性だけで判断し、兼業部分の費用が「突出」して見えるおそれがある、という指摘です。

飲食店では、次のような事情を書いておく価値があります。

  • 店内での飲食に加えて、テイクアウト・物販・ケータリング・ネット販売など軽減税率(8%)対象の売上がある
  • 複数の業態を経営している、年の途中で新店を出した・閉店した
  • 改装や設備の故障で長く休業した、食材の価格が大きく上がった

書く場所は、法人なら「法人事業概況説明書」や決算書の注記、個人事業なら青色申告決算書の「本年中における特殊事情」欄などです。税理士に申告を頼んでいる場合は、税理士が申告書に書面を添付する「書面添付制度」を使う方法もあります。具体的な進め方は、シリーズ第5回で扱う予定です。

例:原価率が上がった居酒屋の場合

数字で考えてみます(数字は説明のための例です)。ある居酒屋の原価率は、例年30%前後でした。ところがこの1年で食材の仕入値が上がり、メニューの値上げを半年見送ったため、原価率が36%になったとします。

売上に対して原価だけが増えると、データの上では「売上が少なく申告されているのでは」と見える形になります。前回の調査から年数が経っていれば、なおさら目立つかもしれません。

このとき、「主要食材の仕入値が前年より上がり、値上げを半年見送ったため原価率が上昇」と決算書類に一行あるかどうかで、読み手の受け止め方は変わります。あわせて、仕入の請求書や値上げ前後のメニュー表を残しておけば、調査になっても短時間で説明できます。

大切なのは、理由を「後から考える」のではなく、数字が動いたその月にメモしておくことです。毎月の数字の見方は第5回で紹介します。

よくある質問

Q. 自分の店のAIのスコアを知る方法はありますか?

ありません。国税庁は予測モデルの判定基準や個々の点数を公表していません。できるのは、同業と比べて突出した数字がないかを自分で確かめ、理由があるものは書き残しておくことです。

Q. 紙で申告すれば、AIの分析の対象外になりますか?

なりません。国税庁は、これまで書面で管理していた情報のデータ化を進めるとしており、提出の方法にかかわらず申告の内容は分析の材料になると考えておくべきです。むしろ e-Tax で申告すると、数字の転記ミスが減るという利点があります。

まとめ

調べる相手の選び方は、調査官の勘からAIのスコアへと変わりました。ただし、最後に判断するのは人です。そして、データの外にある事情は、書いておかなければ伝わりません。

数字を「きれいに見せる」必要はありません。数字の「理由」を、相手に届く場所に書いておくことが大切です。シリーズ第3回では、税務署から連絡が来たときの「手続き」の今と昔を解説する予定です。その電話は調査なのか、それとも別のものなのか。知っておくだけで、慌てずに済みます。


REDISH の税務サービスでは、飲食店に強い提携税理士法人が、決算書や申告書に数字の背景をどう書き残すかまで一緒に考えます。原価率や売上の動きが気になる方は、お気軽にご相談ください。

REDISH 税務DXコンサルを見る

飲食店経営や開業、税務・集客に関するご相談を受け付けています。

シリーズ「飲食店の税務調査 今と昔」

  1. 税務調査は「減った」のに追徴税額は過去最高(全体像)
  2. 税務調査の相手はどう選ばれる?(AIによる選定)← 本記事
  3. 税務署からの電話、それは「調査」?(手続き)
  4. 「帳簿がない」が高くつく時代(加算税・電子帳簿保存)
  5. AI時代の税務調査に強い飲食店のつくり方(備え)

参考資料

お店のお悩み、無料でご相談ください

飲食店の税務・開業・集客のことなら REDISH へ。専門家があなたの状況に合わせてお答えします。

無料で相談する